大戸屋ホールディングス(2705)はなぜ、設備投資2百万円で17億円を稼げるのか|1〜3階構造で読む、定食屋の卸売【日本株シリーズ第4回】

はじめに——創業家が戻ってくる話として、買い直した

定食の載ったお盆が一度テーブルを離れ、弧を描いて同じ席に戻ってくる様子

大戸屋は、池袋の小さな定食屋から始まった会社である。

1983年5月、三森久実氏が東京都豊島区東池袋に、資本金300万円で株式会社大戸屋を設立した。それが海外8か国・国内347店舗まで広がるまでに、30年ちょっとかかっている。

私はこの株を2010年に買って、2011年に売った。10年空けて、2021年に買い直している。日本株シリーズで扱う19銘柄のうち、一度離れて戻ってきたのはこの1社だけだ。

売ってから買い直すまでの10年に、この会社では次のことが起きている。すべて適時開示に載っている事実である。

年月開示された事実
2015年7月三森久実氏 逝去(満57歳)。保有1,351,000株が異動
2015年11月三森智仁氏、常務取締役海外事業本部長から取締役 香港事業部長へ
2016年2月三森智仁氏、取締役を辞任(理由「一身上の都合」)
2016年3月三森三枝子氏が945,700株・13.15%で筆頭株主に
2019年10月三森三枝子氏・三森智仁氏の保有全株1,351,800株をコロワイドが取得。同社は0から18.67%で筆頭株主へ
2020年7月〜9月コロワイドが公開買付け。会社側は5項目を挙げて反対。議決権46.77%で成立
2020年11月臨時株主総会で取締役10名解任・7名選任。三森智仁氏は非業務執行取締役として復帰
2020年12月債務超過1,495百万円。コロワイドが優先株30億円を引受
2021年3月株主優待をポイント制へ変更。コロワイドグループ各店舗で利用可能に

この並びを見て、私は買い直した。

正直に書いておくと、数字を見て買ったのではない。創業者が池袋で始めた会社に、その長男が戻ってくる。そのナラティブに乗った。当時の私が見ていたのは、その程度である。

それから5年たった。会社は2026年3月期に売上370億16百万円、営業利益21億40百万円を計上している。三兄弟と呼んでいるコロワイド系の上場子会社3社の中で、いちばん稼いでいるのはこの会社だ。

では、あのときの読みは当たっていたのか。今回はそれを数字で確かめる回にする。

もうひとつ、この会社には有名な一文がある。2020年、公開買付けに反対したときの意見表明だ。

今日、飲食チェーンにおいて当然とされるセントラルキッチンを使うことなく、品質の根幹となる味と栄養を重視した各店舗での店内調理にこだわりながら、当社グループが国内347店舗、海外8か国進出という規模に成長できた

店内調理こそが企業価値の源泉である、という主張だった。それはいま、どうなっているか。

大戸屋ホールディングスという会社の輪郭

定食屋の建物と、7脚のうち4脚だけ色の違う椅子、半分手前で止まったメーター

東証スタンダード、3月期、日本基準の連結。連結子会社は7社で、国内は株式会社大戸屋の1社、残る6社は香港・シンガポール・アメリカ・タイである。

店舗は2026年3月末で461店舗。内訳は国内直営156・国内フランチャイズ164・海外直営9・海外フランチャイズ132。直営より加盟店のほうが多い。この構成が、あとで効いてくる。

業績は3期連続の増収で、直近は営業利益も伸びている。

売上高営業利益親会社株主に帰属する当期純利益
2024年3月期27,894百万円1,646百万円
2025年3月期31,385百万円1,661百万円1,224百万円
2026年3月期37,016百万円2,140百万円1,233百万円

売上は前期比17.9%増、営業利益は28.8%増。ただし最終利益は0.7%増にとどまっている。ここには理由があって、あとで触れる。

議決権46.71%と、コロワイド出身者ゼロの取締役会

親会社はコロワイド(7616)。議決権は46.71%で、過半数に届いていない。第1回で書いたアトムの41.2%と同じ構造で、持分は50%以下だが実質的に支配しているという理由で連結子会社になっている。

取締役会の構成が、三兄弟の中でこの会社だけ違う。

監査等委員会設置会社で、取締役は7名。うち社外取締役が4名で、全員が独立役員である。そしてコーポレート・ガバナンスに関する報告書を見ると、この4名の「会社との関係」欄はaからkまですべて空欄になっている。コロワイド出身者はいない。

もうひとつ、この会社は自分の中期経営計画を持っている。第43期有価証券報告書に「中期経営計画(2025年3月期-2027年3月期)」と明記があり、2027年3月期の目標値として売上高38,000百万円・営業利益2,245百万円が置かれている。

三兄弟+親の4社のうち、自社の中計を開示しているのはコロワイドと大戸屋の2社で、アトムとカッパは持っていない。いちばん遅く傘下に入った会社が、設計図を持たされている。

1階:156店舗と、原価率32.6%

建物の1階に並ぶ多数の定食屋と、各店の厨房に立つ湯気、外から伸びる太い食材のパイプ

先に前提を置いておきたい。

外食は、店を出して料理を売るのが本業である。それが売上のほぼ全部になるのが普通だ。Amazonがネット通販の隣にAWSを建てたようなことは、店舗と厨房と人を抱える商売では簡単に起きない。だから外食企業で1階が大きいことは、欠点ではなく業種の標準である。

大戸屋の1階は、国内直営事業だ。

項目金額・数値
売上高22,916百万円(構成比61.9%)
セグメント利益987百万円(前期609百万円・62.0%増)
食材等仕入7,462百万円
原価率32.6%
設備の増加1,494百万円
店舗数156店舗(「大戸屋ごはん処」152+その他4)

当期は「大戸屋ごはん処」13店舗と「なぎさ橋珈琲」1店舗を新規出店し、4店舗を閉店した。出店方針は「関東+関西の駅前商業立地・ロードサイド」で、直営13店舗のうち10店舗を重点立地に出している。

店内調理は、いまも続いている。有価証券報告書の商品説明にも「これらは全て店内調理のうえ、お客様には『出来立て』を召し上がっていただいております」とある。2020年に守ると言ったものは、守られている。

そのうえで原価率は32.6%。外食として重い数字ではない。1階は、健全に回っている。

2階:設備投資2百万円で、利益の6割

建物の2階にある小さな倉庫から、外に散らばる多数の小さな家へ食材の箱が運ばれていく様子

ここがこの会社のいちばん面白いところだ。

2階に置くのは、1階とは別の収益領域で、すでに数字が出ていて、伸びているものである。大戸屋の場合、それは国内フランチャイズ事業だ。

項目1階:国内直営2階:国内フランチャイズ
売上高22,916百万円(61.9%)10,128百万円(27.4%)
セグメント利益987百万円(34.4%)1,718百万円(59.8%)
食材等仕入7,462百万円7,867百万円
原価率32.6%77.7%
設備の増加1,494百万円2百万円
店舗数156店舗164店舗

同じ会社の中に、原価率32.6%の商売と77.7%の商売がある。

売上は1階の半分以下なのに、利益は1.7倍。そして全社のセグメント利益2,872百万円のうち、59.8%をここが作っている。

なぜ原価率が77.7%になるのか

フランチャイズ事業と聞くと、加盟店からロイヤリティを受け取るだけの商売を思い浮かべる。それなら原価はほとんど発生しないはずで、77.7%という数字と合わない。

答えは、有価証券報告書の「重要な契約等」に書かれているフランチャイズ契約の中身にある。

フランチャイズ加盟店は、当社が指定メニューに使用することを指定した食材及び当社が店舗運営のために使用することを指定した消耗品を用いて店舗を営業し、当該食材及び消耗品は当社から購入しなければならない。

厨房設備、ディスプレイ、看板、什器備品も、原則として当社から購入することになっている。ロイヤリティは月間売上高の5%。加盟契約料が4百万円、保証金が1百万円。

つまり国内フランチャイズ事業は、加盟店への食材供給——卸売である。ロイヤリティ5%と食材卸の二階建てになっている。卸売だから原価率は高くなる。利益率ではなく、利益額で効いている。

そして設備の増加は2百万円しかない。1階が新規出店と改装に1,494百万円を投じているのに対して、こちらはほぼゼロだ。店を出さずに稼ぐ、というのはこういうことになる。

この事業は前期のセグメント利益1,499百万円から1,718百万円へ、14.6%伸びている。顧客が違い、収益モデルが違い、別セグメントとして資源を配分していて、数字が出ていて伸びている。2階と呼んでいい条件は揃っている。

海外フランチャイズも同じ枠に入る。売上344百万円・利益115百万円と規模は小さいが、132店舗を展開していて、当期はカンボジアとフィリピンに初出店した。

3階:まだ無い。海外直営は赤字が広がっている

足場だけが組まれた空の3階と、旗が数本だけ立った小さな地球儀

3階に置くのは、まだ収益になっておらず、かつ既存事業の延長でもないものだ。1階と2階の蓄積を使って、別の産業に踏み出す構想を指す。

先に断っておくと、外食で3階を建てられている会社のほうが例外である。米国株シリーズで見たAmazonの衛星通信やAlphabetのWaymoのような話は、店舗と厨房を抱える商売ではまず起きない。だから3階がないことは、この業種では減点にならない。

そのうえで、大戸屋に3階はまだ無い。

候補として見えるのは海外直営事業だが、これは3階の条件を満たさない。

項目海外直営事業
売上高3,009百万円(構成比8.1%)
セグメント損益△69百万円(前期△8百万円)
店舗数9店舗(香港4・米国ニューヨーク州4・タイ1)
食材等仕入694百万円(原価率23.1%)

たしかに収益にはなっていない。赤字は前期の△8百万円から△69百万円へ広がっている。だが定食屋の海外展開は、同じ商売の横展開である。顧客も収益モデルも国内直営と同じで、場所が違うだけだ。

ここを3階に入れてしまうと、「まだ始まっていない1階」がすべて3階に紛れ込む。だから未収益の領域として、1階の外に置いておく。

ひとつだけ、親会社の側に3階の候補らしき記述がある。コロワイドのコーポレート・ガバナンス報告書は、大戸屋を上場子会社として持つ意義をこう書いている。

当社として強化を目指す給食事業との親和性も高く

三兄弟のうち、この理由づけが書かれているのは大戸屋だけである。アトムは「営業地域の補完性」、カッパは「立地特性・使用食材の独自性」だ。ただし大戸屋側の開示に給食事業の記載はない。親がそう言っている、というところまでにしておく。

守ると言ったものと、効いたもの

建物の正面に掲げられた鍋の看板と、裏側で2階からコインを運び出す太いパイプ

ここまでを並べると、ひとつのことが見えてくる。

2020年、この会社は「セントラルキッチンを使わず、各店舗で調理すること」を企業価値の源泉として買収に反対した。それは守られている。国内直営の原価率は32.6%で、店内調理は続いている。第43期有価証券報告書の全115ページを見ても、「セントラルキッチン」という語は一度も出てこない。会社は恒常的な開示でこの言葉を使っていない。

だが、いま利益の59.8%を作っているのは、当時ほとんど語られなかったフランチャイズの卸売のほうだ。

守ったものは守られた。ただ、それだけでは説明がつかなくなった。

同じ調達網につながれて、利益が74倍違う

第3回の最後に、答えを出さないまま置いた一行がある。三男は配当を10円から20円へ倍にしている、同じ期、同じ建物、同じ調達網である、と書いた。

その「同じ調達網」を数字で確かめておく。三兄弟はいずれもコロワイドMDから食材を仕入れていて、売上に対する比率はほとんど変わらない。

会社MDからの仕入/売上高2026年3月期 事業利益
長男 アトム(7412)41.2%24百万円
次男 カッパ・クリエイト(7421)40.5%349百万円
三男 大戸屋ホールディングス(2705)39.8%1,785百万円

依存度は1.4ポイントしか違わない。それなのに事業利益は24百万円と1,785百万円で、約74倍の差がついている。

共用設備は、差を生んでいない。差は共用設備の外にある。

その「外」は、少なくとも3つある。

  • 2階の作り方。国内フランチャイズという卸売を、設備投資2百万円で回している
  • 投資単位と株主構成。これは次の章で扱う
  • 親会社との距離。中期経営計画を自社で持ち、取締役会に親会社出身者がいない

3つ目については、親会社自身が書いていることがある。2026年6月30日の「支配株主等に関する事項について」で、コロワイドは持株会社として「各グループ会社の自立性を保つことを基本方針」とし、経営方針の決定は各社に委ねていると明記している。

次男は株式会社SPCカッパを挟んだ二層構造で50.57%を握られ、中期経営計画を持っていない。三男は46.71%で過半数未満、取締役会に親会社出身者がおらず、中計を自社で持っている。同じグループの中で、握られ方が違う。

テナント同士が、売り手と買い手になっている

もうひとつ、三兄弟の関係で見つけたことがある。

アトムの第55期有価証券報告書の「重要な契約等」に、株式会社大戸屋とのフランチャイズ契約が独立した項目として載っている。契約期間は3年で自動更新、ロイヤリティは定率。

実際に、アトムは収益性に課題のある「ステーキ宮」2店舗を業態転換して、2026年2月に「大戸屋ごはん処東海店」、3月に「大戸屋ごはん処北名古屋店」を開業している。

大戸屋の2階——加盟店への食材卸——の顧客に、長男がいる。加盟店は指定食材を大戸屋から購入する契約になっているから、アトムは大戸屋から食材を買う立場にある。同じ建物のテナント同士が、売り手と買い手になっている。

株主にとって、この構造は何を意味するか

天秤の片側に少数の人物と大きなギフト箱、隅では半分に割れたコインの片方が建物の外へ戻っていく

いちばん手厚い優待を出している会社が、いちばん負担が軽い

優待から入る。三兄弟を並べると、逆転が起きている。

会社100株の投資額株主数100株の年間優待優待コスト/優待前利益
三男 大戸屋約82.8万円19,772人8,000円相当6.9%
次男 カッパ約15.5万円155,055人6,000円相当63.6%
長男 アトム195,754人1,000円相当89.1%

いちばん手厚い優待を出している会社が、いちばん負担が軽い。

理由は投資単位と株主数にある。株価が8,280円なので、100株を買うのに約82.8万円かかる。次男の約15.5万円と比べて5倍以上だ。その結果、株主数は19,772人で、次男の8分の1、長男の10分の1しかいない。

優待の気前よさは、株主構成の関数である。一人あたり8,000円相当を配っても、人数が少なければ総額は膨らまない。

なお会社は2026年6月30日に「投資単位の引き下げに関する考え方及び方針について」を開示しているが、これは平均投資単位が50万円以上の場合に求められる上場規程にもとづく義務開示で、中身は引き続き慎重に検討する、というものである。実施を予定しているという話ではない。

還元の主役は、配当ではなかった

2026年3月期の配当は1株20円で、前期の10円から倍増した。総額145百万円である。

ただ、キャッシュフロー計算書を見ると、株主に向かったお金の大きさが違う。

財務活動によるキャッシュ・フロー金額
自己株式の取得による支出1,513百万円
長期借入金の返済による支出600百万円
配当金の支払額124百万円
合計(財務CF)△2,237百万円

有価証券報告書は、純資産の減少をこう説明している。「第1回優先株式の取得及び自己株式の消却等により資本剰余金14億96百万円が減少した」。

発行済株式総数の推移を見ると、第1回優先株式は30株から15株へ減っている。この優先株は1株あたり100,000,000円である。

2020年12月にコロワイドが30億円で引き受けた優先株のうち、半分を2026年3月期に取得して消却した。残りは15株、15億円分である。

配当総額145百万円の、およそ10倍。この期の還元の主役は、配当ではなく資本の返済だった。債務超過のときに入れてもらった30億円を、6年で半分返したことになる。

ひとつ注意がある。この会社の配当性向は53.0%と表示されることがあるが、それは提出会社(単体)ベースの数字だ。連結の当期純利益1,233百万円に対して配当総額145百万円なら、連結ベースの配当性向は11.8%になる。他社と並べるときに混ぜると比較が壊れる。

ROE28.7%の読み方

有価証券報告書の連結経営指標で、自己資本当期純利益率は28.7%になっている。コーポレート・ガバナンス報告書に掲げられたROE目標が15.0%以上なので、大きく上回っている。

ただし、この数字は分母の側も見ておいたほうがいい。自己資本比率は44.1%、37.7%、34.5%と3期で下がっている。優先株の買い戻しは資本を減らす方向に働く。株主資本が薄いことは、この比率を押し上げる方向に効く。

優秀とも危ういとも書かない。そういう構造になっている、という事実だけを置いておく。

還元と役員報酬が、同じ方向を向いている

三兄弟は、譲渡制限付株式報酬の制度枠がまったく同じである。いずれも年額60百万円以内・年30,000株以内。グループで統一設計された制度だ。

そして2026年7月、3社ともほぼ同時に発行・処分を決議している。

会社2026年3月期の株主還元株式報酬の総額枠に対する消化率
三男 大戸屋(7月14日)配当20円へ倍増+優先株15億円の返済37,260千円62.1%
次男 カッパ(7月21日)無配5,421千円9.0%
長男 アトム(7月14日)優待を半減4,213千円7.0%

同じ枠を持ちながら、消化率は62.1%と7.0%で9倍近い開きがある。そして株主への還元と、役員への報酬が、同じ方向に動いている。

付与株数で比べると順序が変わるが、株価が8,280円と383円では株数の比較に意味がない。金額で見るのが妥当だと考えている。また、消化率は報酬の手厚さを示すもので、業績の評価そのものではない。

買われた側の6年——直近に起きたこと

社長席の椅子が左から右へ移動する軌跡と、めくれていく日付のないカレンダー

2026年に入ってから、この会社では経営体制が変わっている。開示された事実だけを時系列で置く。

日付開示された事実
2026年5月26日代表取締役の異動を開示。三森智仁氏(非業務執行取締役)が社長に、蔵人賢樹氏が退任。理由は「新たな経営体制により、持続的な成長及び中長期的な企業価値向上を図るため」
2026年6月19日第43期有価証券報告書を提出(代表者は蔵人賢樹氏)
2026年6月22日就任。取締役経営管理本部長に新井健治氏(2019年10月コロワイド入社、2020年11月に当社経営企画部部長)
2026年6月30日「支配株主等に関する事項について」「投資単位の引き下げに関する考え方及び方針について」を開示
2026年7月14日譲渡制限付株式報酬として新株式4,500株の発行を決議(1株8,280円・総額37,260千円)

三森智仁氏は1989年生まれ。2013年に株式会社大戸屋に入社し、2015年6月に当社常務取締役海外事業本部長となった。2016年2月に取締役を辞任し、2020年11月に非業務執行取締役として戻っている。

業務執行から離れて5年7か月後に、社長として戻ったことになる。

ここで、7月14日の新株発行の中身を見ておきたい。開示にはこう書かれている。

当社の取締役(監査等委員である取締役及び社外取締役を除く)2名及び当社の取締役を兼務しない執行役員3名に対し、合計 4,500 株を付与いたします。

氏名は書かれていない。ただ、この会社の取締役7名のうち、監査等委員でも社外でもないのは三森智仁氏と新井健治氏の2名だけである。開示の条件と役員構成を突き合わせれば、対象は一意に定まる。

そして同じ開示に、制度そのものの対象がこう定義されている。

当社の取締役(監査等委員である取締役、社外取締役及び非業務執行取締役を除く。以下「対象取締役」といいます。)

非業務執行取締役は、対象から外れている。

三森智仁氏は2020年11月から2026年6月まで、非業務執行取締役だった。つまりこの5年7か月、彼はこの制度の対象ではなかった。社長に就任したことで、初めて対象になっている。

この発行自体は毎年7月の定例で、2018年以降ほぼ毎年おこなわれている。会社にとっては恒例行事で、彼にとっては最初の一回である。

付与された株式には譲渡制限がついていて、解除されるのは「役職員等のいずれの地位をも退任又は退職した時点」だ。辞めるまで売れない。なお、個人ごとの株数は開示されていない。

おわりに——株を持たずに戻ってきた人と、買い直した私

手ぶらで建物に入っていく人物に鎖でつながれた証書が差し出され、外には証書を持った人物が建物を見上げている

2021年に買い直したときの読みは、当たっていたのか。

創業家は戻ってきた。そこは、そのとおりになった。2026年6月22日、三森智仁氏は代表取締役社長に就任している。

ただ、戻り方が想像とは違った。立て直しは、その前の6年で終わっていた。

売上高
2020年12月債務超過1,495百万円
2022年3月期18,834百万円
2023年3月期23,846百万円
2024年3月期27,894百万円
2025年3月期31,385百万円
2026年3月期37,016百万円

債務超過から売上はおよそ2倍になった。この6年間、社長は蔵人賢樹氏だった。三森智仁氏が受け取ったのは、立て直しの済んだ会社である。

会社の側の答え合わせも、同じ形をしている。守ると言った店内調理は守られた。ただ、利益の6割を作っているのは、当時語られなかった卸売のほうだった。

そして、戻ってきた席がどこにあるのかも見ておきたい。

議決権の46.71%はコロワイドが持っている。優先株はまだ15億円分残っている。食材はコロワイドMDから147億33百万円分仕入れていて、これは売上の39.8%にあたる。優待ポイントはグループ共通で使える。役員の株式報酬の枠も、三兄弟で同一だ。戻ってきた席は、その建物の中にある。

最後にひとつ、開示に書かれていることを引いておく。

2026年5月26日、社長就任を告げる開示に載っている三森智仁氏の所有株式数は「-株」である。2019年10月、母と息子は保有していた全株1,351,800株をコロワイドに売っている。

創業家は、株を1株も持たずに、社長席に戻った。そして就任の3週間後、辞めるまで売れない株を受け取る形で、株主に戻りはじめている。

私も一度売って、買い直した。彼も一度売った。ただ、戻ってきた株は、自分で買ったものではない。報酬として渡され、辞めるまで売れない株である。同じ建物への、違う戻り方だった。

ナラティブで買った株を、いまは構造で持っている。読みが外れたのではなく、解像度が上がった。そして解像度が上がったあとも、売る理由は見つからなかった。

留保しておくこと

  • 海外直営事業の赤字は、△8百万円から△69百万円へ広がっている
  • 自己資本比率は3期で44.1%から34.5%へ低下している
  • 優先株はまだ15億円分残っている
  • 2階の伸びが続くかどうかは、加盟店の出店ペース次第である
  • 三森智仁氏体制はまだ1か月あまりで、評価できる材料がない

これは筆者ひとりの見方にすぎない。投資判断は各自の責任でお願いしたい。

FAQ

大戸屋ホールディングスはコロワイドの完全子会社ですか

完全子会社ではありません。コロワイドの議決権比率は46.71%で過半数に届いておらず、持分は50%以下ですが実質的に支配しているという理由で連結子会社となっています。取締役7名のうち社外取締役4名は全員が独立役員で、コーポレート・ガバナンス報告書の「会社との関係」欄はすべて空欄です。また同社は中期経営計画(2025年3月期-2027年3月期)を自社で開示しています。

国内フランチャイズ事業の原価率が77.7%と高いのはなぜですか

加盟店への食材供給、つまり卸売がこの事業に含まれているためです。フランチャイズ契約では、加盟店は指定された食材と消耗品を大戸屋から購入することが定められています。ロイヤリティは月間売上高の5%で、これに食材卸が乗る構造です。2026年3月期は売上10,128百万円に対して食材等仕入が7,867百万円でした。

配当が20円に倍増しましたが、株主還元はそれだけですか

配当の総額は145百万円ですが、同じ期の財務活動によるキャッシュ・フローには自己株式の取得による支出1,513百万円が計上されています。これは2020年12月にコロワイドが引き受けた第1回優先株式30株のうち15株、15億円分を取得・消却したものです。発行済の第1回優先株式は30株から15株に減っています。

日本株シリーズ(連載中)

筆者が実際に保有する日本の個別銘柄を、1社ずつ同じフレームで読み解くシリーズです。1階(安定基盤)・2階(成長エンジン)・3階(将来オプション)の3層で構造を分析し、決算のたびに答え合わせを重ねていきます。フレームは米国株シリーズと共通です。

以降の回は、保有銘柄に動きがあったものから順に追加していきます。

米国株シリーズ(全9回)

参考リンク


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