カッパ・クリエイト(7421)はなぜ、配当を止めて優待を残したのか|1〜3階構造で読む、店を出す以外の稼ぎ方【日本株シリーズ第3回】

はじめに——うまいと思っている店の、決算が赤字だった

回転寿司のレーンを流れる色とりどりの皿と、最後の一皿に載った下向きの矢印

カッパ・クリエイトを買ったのは2018年だった。コロワイドの傘下に入った2014年から、4年後のことになる。いま8年目だ。

かっぱ寿司はうまいと思っている。大手回転寿司の中で1、2を争うと思っているし、期間限定のフェアやコラボの企画力も、飽きさせないという一点で信頼している。顧客としても株主としても、満足している店だ。

その会社の2026年3月期が、最終赤字だった。

正直に言うと、引っかかった。贔屓目かもしれない、と一度は思った。だから数字を見にいった。

そして、少し安心した。落ちていたのは利益だけで、売上はほとんど動いていなかったからだ。

売上高営業利益親会社株主に帰属する当期純損益
2024年3月期722.0億円16.9億円+14.0億円
2025年3月期732.1億円14.3億円+10.3億円
2026年3月期731.9億円5.3億円△3.9億円

3期で1.4%増、直近は前期比0.0%減。しかも営業利益は5億32百万円の黒字である。最終赤字は、営業より下の段階で起きている。

商品が支持されなくなった会社の数字ではない。少なくとも、そう読める。

では、何が落ちたのか。そして、なぜ配当まで止めたのか。

第1回でアトムを、第2回でコロワイドを書いた。同じ建物の3人目を、同じ1〜3階のフレームで読む。

ただし今回は、フレームの当て方を一度断っておきたい。

外食は、店を出して料理を売るのが本業だ。それが売上のほぼ全部になるのが普通である。AmazonがECの隣にAWSを建てたようなことは、店舗と厨房と人を抱える商売では簡単に起きない。だから外食の1階が大きいことは、欠点ではない。

面白いのはその先だ。その制約の中で、店を出す以外の稼ぎ方をどう作ろうとしているか。そこが各社の頑張りどころになる。

カッパの場合、それは売上の2割まで来ている。

カッパ・クリエイトという会社の輪郭

一貫の寿司に向けられた5つの計測器が、それぞれ違う値を示している

東証プライム、3月期、日本基準。国内の回転寿司は299店舗で、当期は4店舗出した。従業員は連結801人、臨時雇用が年間平均6,199人。単体の平均勤続年数は14.5年で、外食としてはかなり長い。人が辞めない会社ではある。

資本の構造がひとつ変わっている。株式会社SPCカッパが50.54%を持っており、これはコロワイドの100%子会社だ。つまりコロワイド → SPCカッパ → カッパ・クリエイトという二層になっている。長男も三男も親から直接持たれているので、三兄弟でここだけ形が違う。そして中期経営計画がない。4社の中でカッパだけが持っておらず、代わりに「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」という開示でKPIの目標を置いている。

もうひとつ断っておきたい。「業績が悪化している」という印象そのものが、どの数字を見ているかで変わる。この会社の2026年3月期の利益指標は5つあり、同じ期に営業黒字と営業赤字が併存している。カッパは日本基準、親のコロワイドはIFRS。会計基準が違うだけだ。

指標金額範囲会計基準・出典
営業利益(連結)5億32百万円回転寿司+デリカ+海外日本基準・カッパの決算短信
営業利益(単体)6億39百万円=国内回転寿司事業日本基準・カッパの決算短信(個別)
セグメント利益(回転寿司事業)5億15百万円回転寿司(海外含む)日本基準・カッパの決算短信
事業利益3億49百万円カッパIFRS・コロワイドの決算短信
営業損失△2億55百万円カッパIFRS・コロワイドの有価証券報告書

この記事では、日本基準の連結営業利益5億32百万円を主軸に置く。IFRS側は親会社の目にどう映るかという文脈でだけ触れ、混ぜない。店舗数にも299・302・312という数字があるが、以下は国内回転寿司の299店舗を使う。

1階:299店舗と、自分では決められない原価

建物の1階に並ぶ多数の寿司店と、外から全店の厨房へ食材を送る太いパイプ

1階は、いま利益の大半を生んでいる本業だ。

カッパの1階は、国内の回転寿司299店舗である。単体の売上高は578億05百万円で、連結731億93百万円の79%を、ここが作っている。

外食としては、これが普通の姿だ。店を出し、人を雇い、寿司を握る。見るべきは、その1階がどういう仕組みで回っているかのほうだと思う。

米は、2年で逆を向いた

会社は既存店の売上が落ちた理由を、こう説明している。

前年の米不足による外食需要増加の反動減に加え、物価上昇に伴う実質賃金マイナスが継続する外部環境の中で、限られた外食の機会に対してより厳しくなった顧客の選択眼に応える価値創造や価値提供が不足し、客数減少による売上高減少となった

「前年の米不足による外食需要増加の反動減」。ここが読みどころだと思う。

米が手に入りにくくなれば、家で炊くのが難しくなる。その分、外で食べる。前期の好調には、米不足という追い風が入っていた可能性がある。そして当期はその反動を受けた。比較の基準年が、そもそも甘かったのではないか。これは筆者の読みであって、会社がそう言っているわけではない。

ただ、米の価格そのものは公的な統計で追える。農林水産省の相対取引価格(全銘柄平均・玄米60kgあたり)は、2023年産15,315円が2025年産で35,573円まで上がった。2年で2.3倍である。

これをカッパの決算期に合わせて月ごとに単純平均すると、2025年3月期の21,015円が2026年3月期には32,237円になる。1年で53%だ(会社の実際の調達価格ではなく、外部統計を決算期に当てはめた筆者の計算である)。

寿司屋である。この向かい風の中で営業利益を黒字で着地させたこと自体は、まず押さえておきたい。

なお直近は下がり始めていて、2026年6月は31,305円まで落ちている。「いまも3万6千円」ではない。

原価の8割は、身内から買っている

では、カッパは米をいくらで買っているのか。

これは外からは見えない。仕入の相手が市場ではなく、グループの調達会社だからだ。品目別の単価を開示している外食チェーンは、そもそもない。

見えるのは、その調達会社との取引の総額のほうである。有価証券報告書の関連当事者取引に、コロワイドMDからの仕入が2本に分けて載っている。

相手先取引の内容取引金額科目期末残高
株式会社コロワイドMD(提出会社との取引)原材料の仕入等254億69百万円買掛金/未払金24億14百万円/11百万円
株式会社コロワイドMD(連結子会社との取引)原材料の仕入等41億57百万円買掛金8億09百万円

合計すると296億26百万円になる(有報に合計値の記載はないので、これは筆者が足したものだ)。売上高731億93百万円に対して40.5%、売上原価354億12百万円に対しては83.7%である。

原価の8割強を、グループ内の1社から買っている。

第2回で、このコロワイドMDを「外食とは別の、卸という商売」として2階に置いた。社外に35億円しか売らずグループ内に977億円売り、連結事業利益の4割を稼ぐ会社だからだ。あれは大家の側から見た姿で、テナントの側から見ると、同じ会社が原価の8割を占める仕入先になる。

単独の299店舗のチェーンが、3,000億円規模の調達網を持つことはできない。カッパはそれを使えている。同時に、その価格は「双方の合意に基づく価格」で決まる。恩恵と、自分では決められないことは、同じことの表と裏である。

そしてこの依存は、カッパだけのものではない。上場している三兄弟は、それぞれ自分の有価証券報告書でコロワイドMDとの取引を開示している。並べると、依存度がほぼ同じだった。

売上高MDからの仕入売上高に対してMDの内部売上977億円に占める割合
長男 アトム(7412)304億円125億13百万円41.2%12.8%
次男 カッパ(7421)732億円296億26百万円40.5%30.3%
三男 大戸屋ホールディングス(2705)370億円147億33百万円39.8%15.1%
三兄弟 合計568億72百万円58.2%

長男41.2%、次男40.5%、三男39.8%。業績はバラバラだ。三男は増収増益、次男は横ばいの大幅減益、長男は縮小している。それでも共用設備の使われ方だけが揃っている。

そしてMDの内部売上977億円のうち、上場三兄弟だけで58.2%を占める。

この58.2%という数字は、コロワイドの有価証券報告書には載っていない。MDの内部売上を相手先別に分解した表がないからだ。上場している3社が、それぞれ自分の開示義務として出した数字を足し上げて、はじめて見えるものになる。

残りの41.8%を払っているのは、有価証券報告書を提出しない非上場のグループ会社である。個社ごとの金額が外に出てこないのは、開示制度がそういう作りだからだ。裏を返せば、上場している子会社が3社もあるからこそ、MDの内部売上の6割弱がどこから来ているかを追える。

なお、原価に対する比率で三兄弟を並べることはできなかった。有報の「取引の内容」の表記が3社で違い、同じ定義とは言えないためだ。ここでは売上高に対する比率だけを使っている。

そして、共用されているのは調達だけではない。優待ポイントも、2015年9月から3社共通になっている。

これにより、当社、㈱コロワイド及び㈱アトムの株主優待ポイントカードは、3 社の対象店舗のいずれにおいてもご利用頂けることとなります。

コロワイド傘下入りの9か月後だ。調達がMDにつながれるのと同じ時期に、還元の側も3社共通になった。この設計が後で効いてくる。

2階:店を出す以外の稼ぎ方を、2割まで作ってきた

1階より小さい2階の2部屋。中食を作る工場と、3本のピンが立った小さな地球儀

2階は、1階とは別の収益領域で、すでに数字が出ていて、伸びているものを置く階だ。

外食で2階を作るのは難しい。店を出して料理を売るのが商売なので、その外側に別の稼ぎ方を持つには、別の顧客と別の設備が要る。

カッパは、2つ持っている。デリカ事業が139億48百万円で連結の19.0%、海外事業が約14億40百万円で約2%。合わせて売上の約21%が、店を出す以外のところから出ている。

デリカ——寿司を握る技術を、中食へ

デリカ事業は、本州・九州でコンビニやスーパー向けに寿司や調理パンを製造している。子会社の株式会社ジャパンフレッシュなどが、名古屋工場ほか複数の工場で作っている。

顧客が違う。回転寿司の客は一般消費者だが、デリカの取引先は小売チェーンだ。収益モデルも違う。店に来てもらうのではなく、作って納める。会社も別の柱に置いている。2026年3月期の経営戦略4本柱のうち、「①強い既存店づくり」ではなく「④関連事業拡大」にある。

そして、回転寿司の資産をそのまま使っている。寿司を大量に、均質に、安全に作る技術。それを中食の棚に持ち込んでいる。

当期にやったことを、会社の記述から拾う。カタラーナやクリームケーキといったデザートを製造し、それを回転寿司の店でも出している。両方向に効いている。コロワイドグループで販売するおせちも、ここで作っている。

セグメント損益は△46百万円の赤字である。前期の△26百万円から、赤字が少し深くなった。

ただし中身を見ると、米価が2年で2.3倍になった中で、売上を+2.2%伸ばしている。そして伸びたのは、米を使わない調理パンと常温パンだった。向かい風の当たらないところへ、商品を寄せている。

2027年3月期の方針が、この事業の性格をよく表している。

数を作るから、価値を創る工場へ

高品質・健康志向など、大手小売りプロセスセンターとは差別化された商品開発

大手のプロセスセンターと同じことをしない、と宣言している。139億円で、まだ赤字だ。それでも、これは店を出す以外の稼ぎ方として立ち上がっている。

海外——自分で国を開ける

もうひとつの2階が海外だ。インドネシアが前年比136.8%で伸び、韓国が82.1%で縮んでいる。

インドネシアは当期に2店舗出して6店舗になった。ジャカルタ郊外のモールを中心にドミナントを作る、という設計である。

韓国について、会社は2027年3月期に「インドネシア回転寿司事業の成功事例から学び、高所得者向けの小型店舗モデルを検討」するとしている。うまくいっている方から、うまくいっていない方へ学びを移そうとしている。

規模はまだ小さい。有価証券報告書の地域別情報が「本邦の外部顧客への売上高が連結損益計算書の売上高の90%を超えるため、記載を省略しております」となっているので、海外は売上の10%未満である。連結の回転寿司事業592億45百万円に対して単体(=国内回転寿司事業)が578億05百万円なので、差し引き14億40百万円、連結の約2%というのが実際のところになる(差分から求めた筆者の計算である)。

2%だ。それでも、この会社は自分でここを開けている。2027年3月期の上期にはベトナムで1号店を開く予定で、その先に第4、第5の国の調査も始めている。中期経営計画を持たされていない会社が、国を1つずつ増やしている。

長男と比べると、違いがはっきりする。第1回で書いたアトムには、これがない。

アトムの2階は、新しい業態を自分で開発するのではなく、親のブランド棚から選んで転換するという形だった。ステーキ宮を大戸屋に変える。それはそれで合理的だが、別の稼ぎ方を自分で作っているわけではない。

次男は、店を出す以外の稼ぎ方を2割まで作っている。外食の子会社としては、厚いほうだと思う。

3階:建てられる状態ではない。それでも芽はある

足場の組まれた空の3階と、寿司飯の器から伸びる小さな芽

3階は、まだ収益になっておらず、かつ既存事業の延長でもないものを置く階だ。1階と2階の蓄積を使って、別の役割に踏み出す構想のことを指す。

外食で3階を建てた会社は、多くない。Amazonが物流網から衛星通信へ行くようなことは、店と厨房の商売では起きにくい。だから3階がないことは、外食では減点にならない。

そのうえで、カッパの2027年3月期の方針に、一行だけ気になる記述がある。

外食クオリティの製品を家庭でも楽しめるよう、ネット販売や店舗販売などの新規販路を開拓

直販だ。これは回転寿司(1階)でも、小売チェーンへの卸(2階)でもない。デリカで培った製造機能を使って、消費者に直接届けるという話になる。まだ収益はゼロで、規模も書かれていない。小さな芽である。

なお、建物としての3階は、親のほうにある。第2回で書いたとおり、コロワイドは豪州の調達網を使ってグループ全体に流通で稼ぐという構想を持っている。外食から流通業へ、という3階だ。

借金はない。足りないのは現金だ

カッパがそこに手を出せないのは、財務が悪いからではない。むしろ逆で、この会社はほとんど借金をしていない。

カッパ(7421)親コロワイド(7616)
Net Debt / EBITDA0.1倍3.7倍
のれん43百万円1,208億円(総資産の34.4%)
自己資本比率35.2%32.5%(資本合計比率・推定式)

有利子負債は64億50百万円、現金は60億34百万円。差し引き4億16百万円しかない。実質的に無借金に近い。

第2回で、コロワイドを「階を買う会社」と書いた。M&Aで増築を続け、のれんが1,208億円まで積み上がった会社だ、と。その裏返しが、同じ建物の中にある。次男は買っていない。デリカも海外も、自分で作ってきた。時間はかかるが、のれんは積み上がらない。

では何が足りないのか。手元に残る現金だ。

営業キャッシュフローは25億27百万円あるが、投資に21億28百万円出ていくので、フリーキャッシュフローは4億円しか残らない。しかもその投資は、改装22店舗で6億63百万円、デリカ工場の改修で1億48百万円——いまある店と工場を直している。

85店舗を減損した年である。まず1階を建て直す。順番として、これは筋が通っている。

1階の波が、そのまま会社の波になる

ほぼ釣り合った寿司皿の天秤と、傾きを決めている足元の小さな一皿

ここまでで、この会社の建物の形が出そろった。1階が79%、2階が21%、3階はまだ芽。

この形には、はっきりした帰結がある。2階がまだ薄いので、1階に波が来ると、それがそのまま会社全体の数字になる。

2026年3月期は、まさにそれが起きた年だった。

落ちたのは、コストではなく客数だった

会社は、国内回転寿司事業の営業利益の減り方を要素に分解して開示している。これを見ると、コストは守り切れていたことが分かる。

要素金額
前期 営業利益14億78百万円
売上高△8億27百万円
インフレ影響等△18億51百万円
コスト最適化+18億40百万円
当期 営業利益6億39百万円

会社の説明はこうだ。

生産性向上やメニューMix等の効果1,840百万円で、人件費ならびに原材料価格の高騰等による1,851百万円のコストアップに対応したが、既存店売上高減少の影響を補うには至らず、国内回転寿司事業の営業利益は前期▲839百万円の639百万円となった

18億40百万円と18億51百万円。米が5割上がり、人件費も上がった。その全部を、コスト削減でほぼ打ち消している。差は11百万円だ。

これは、そう簡単にできることではないと思う。自動案内システムは299店舗中287店舗、セルフレジは249店舗、スマホオーダーは230店舗、注文提供専用の高速レーンは222店舗まで入っている。装備を入れ切って、生産性で受け止めた。

足りなかったのは売上のほうだった。

正直に書くと、この記事を書き始めたとき、私は「コスト構造で落ちたのだろう」と思っていた。値下げを繰り返しているのだから原価が悪化したのだろう、と。一次情報を読んで、その見立ては外れていた。落ちたのは客数だ。

では、その客数をどう取り戻したか。四半期で並べると、3Qに粗利を2ポイント差し出して、4Qに客数を取り戻した流れが見える。

1Q2Q3Q4Q
売上総利益率52.6%52.4%50.5%51.0%
営業利益3億22百万円5億10百万円△3億90百万円90百万円
既存店売上高(曜日差考慮後)96.7%92.3%91.3%99.1%

値下げの中身は具体的だ。税込110円以下の商品を100種以上そろえ、平日限定で「かけうどん」や「香ばし炙りおにぎり」を税込90円で出し、9店舗限定だった食べ放題を全店に広げた。

米が5割上がっている年に、値下げをしている。利益を削って、客を取りに行った。それは効いている。返ってくるのはこれからだ。

ただし、「外部環境が厳しかった」で終わらせたくないので、他社も見た。

利益が落ちたのは業界共通だった。元気寿司(Genki Global Dining Concepts)は2026年3月期の営業利益が29.4%減、くら寿司は2025年10月期が4.2%減、直近の中間期は14.7%減。米価と人件費の向かい風は、全社が受けている。

だが、売上と客数で落ちているのはカッパだけだった。元気寿司は9.2%の増収である。そしてスシローの月次を見ると、国内スシローブランドの既存店売上高は、カッパの2026年3月期とちょうど重なる12か月のすべてで前年を超えている(最低が104.7%、最高が118.9%)。前年割れの月がない。

同じ12か月、同じ国内の回転寿司で、カッパの既存店は累計95.3%だった。外部環境だけでは説明がつかない。ここは、まだ勝てていない。

弱い店を落として、稼げる立地に席を作る

最終赤字の話に戻る。営業利益も経常利益も黒字で、赤字にしたのは特別損失である。

段階金額
営業利益+5億32百万円
経常利益+5億92百万円
特別損失△7億22百万円(減損損失7億15百万円、固定資産除却損6百万円)
税金等調整前当期純損益△1億30百万円
法人税等合計△2億73百万円
親会社株主に帰属する当期純損益△3億94百万円

減損がなければ、税引前は5億85百万円の黒字だった。

その減損は「当第4四半期連結会計期間に国内85店舗・海外2店舗及び国内1工場に対し減損処理を行い、減損損失7億15百万円を計上」というものだ。国内299店舗のうち85店舗。約3割にあたる。前期は2億73百万円だったので2.6倍で、先に膿を出した、という読み方もできる。

そして翌期の設備計画を見ると、縮んでいない。

区分投資予定総額期間増加能力
重要な設備の新設22億93百万円2026年7月〜2027年3月1,600席
重要な改修7億円

85店舗を減損した翌期に、約30億円を投じて1,600席増やす計画を立てている。当期の設備投資26億75百万円は減価償却費23億18百万円を上回っており、設備を縮めてはいない。

2027年3月期の経営戦略の柱は「成長投資」から「店舗ポートフォリオ最適化」に言い換えられ、その中に「出退店分析による1店舗あたりパフォーマンスの最大化」という項目がある。縮小ではなく、入れ替えだ。

建物の形からすると、これは順番として正しい。2階を厚くするより先に、1階を建て直す。売上の8割がそこにあるからだ。

株主にとって、この構造は何を意味するか

皿を受け取る大勢の小さな人々と、皿の山の半分を1人で抱える大きな影

優待は、営業利益の6割を超えている

優待は100株以上が対象で、3月末と9月末を基準日に年2回、100株なら1回3,000ポイント(1ポイント1円)が発行される。100株で年間6,000円相当だ。

コストは会社が開示していない。有価証券報告書に所有株式数別の株主分布表もないので、株主数×最低区分で下限を置くしかない。155,055人 × 6,000円で9億30百万円になる。実際は1,000株以上の株主がいる分だけ上振れる。

優待を出す前の営業利益に対して、63.6%。稼いだ利益の6割超が優待として株主に出ている。

この重さを決めているのは、優待の手厚さではなく株主数のほうだ。三兄弟を並べると分かる。

100株の年間優待株主数優待前の利益に対する優待コスト
長男 アトム1,000円相当195,754人89.1%
次男 カッパ6,000円相当155,055人63.6%
三男 大戸屋8,000円相当19,772人6.9%

1人あたりいちばん手厚い三男が、会社にとってはいちばん軽い。株主数が9.9倍違うからだ。

長男については、もっと極端なことが起きている。優待を半分にしても、比率は94.2%から89.1%にしか下がらない。利益の絶対額が小さすぎて、還元を半分にしても効かない。

還元の重さは、還元の額ではなく利益の薄さが決めている。

その株主数を作ったのが、優待そのものである。株主総数155,055人のうち、99.47%が個人だ。ただし株式の半分はSPCカッパが持っているので、個人の保有比率は40.25%にとどまる。

親のコロワイドは141,233人なので、株主の数は子のほうが親より多い。この構造は優待が作ったもので、優待をやめれば崩れる。

そして会社は、資本効率の目標に届かなかったことを自分で開示している。ROEは目標8%以上に対して△3.7%、ROICは目標6%以上に対して2.0%だった。そのうえでこう書いている。

この結果を真摯に受け止め、資本効率の改善を重要経営課題と位置付け、収益構造の抜本的な見直しに取り組んでまいります。

数字に出ていない負債がひとつある

最後に、財務諸表に載っていないものをひとつ挙げておく。有価証券報告書の偶発債務に、こう書かれている。

当社は、当社を被告として、株式会社はま寿司から、2023年12月27日付けで東京地方裁判所に、5億11百万円の損害賠償の支払いを求める等の訴訟が提起されております。今後の推移によって当社の将来の連結業績に影響を及ぼす可能性がありますが、現時点でその影響額を合理的に見積ることが困難であるため、連結財務諸表には反映をしておりません。

5億11百万円は、当期の営業利益5億32百万円とほぼ同じ規模だ。2026年6月22日提出の有価証券報告書の時点で、係属中である。

配当は止まり、優待は残った

外へ出る細い管は閉じられ、建物の中を循環する太い管は開いたまま

その構造が、2026年5月8日に試された。この日、会社は無配を開示している。決算発表と同じ日だ。

2025年3月期2026年3月期2027年3月期
1株当たり年間配当金5.00円0.00円未定
配当金総額2億46百万円0円

有価証券報告書の配当政策を引く。方針と無配が、ひとつづきの文章の中に並んでいる。

株主及び一般投資家保護の基本原則を十分認識し、経営基盤の確保と株主資本利益率の向上を図りつつ、安定配当及び株主優待制度を継続するとともに、業績に応じた株主還元を積極的に行うことを基本方針としております。(中略)この方針に基づき、当期の期末配当につきましては、株主の皆様には誠に遺憾ながら、無配とさせていただきたく存じます。

方針の前半は折れ、後半は守られた。

無配とした理由について、会社はこれ以上の説明をしていない。期末の年1回配当という設計なので、期中に含みを持たせる場面もない。だから、なぜこの判断になったのかは、外から構造で読むしかない。

止めたほうが、小さい

金額を並べると、判断の形が見えてくる。止めたほうが、残したほうより3.8分の1しかない。

金額
止めた配当(前期実績)2億46百万円
残した優待(下限推定)9億30百万円
当期の営業利益5億32百万円

赤字になった年に、小さいほうを止めて、大きいほうを残した。会社は理由を書いていないので、以下は筆者の読みになる。

ひとつ、優待は現金がグループの外に出ない。ポイントは自社とグループ店舗で使われ、その分はどこかの店の売上として戻ってくる。配当は外へ出ていく。止めたのは、出ていくほうだった。

ふたつ、優待が株主構成そのものである。優待をやめれば、99.47%が個人というこの構造が崩れる。

みっつ、現金の使い道が決まっていた。翌期の1,600席、デリカの工場、ベトナムの1号店。1階を建て直しながら、2階を厚くする。そのための現金である。外へ出す前に、建てるほうを選んだ、と読める。

三兄弟で、削られた場所が違う

同じ建物の中で、還元がどうなったかを並べる。長男は配当も優待も削られ、次男は配当だけ、三男は両方増えた。

2026年3月期の配当直近の優待変更株主数
長男 アトム(7412)無配(5期連続)2024年5月と2026年6月の2回とも減額195,754人
次男 カッパ(7421)無配(今期から)2015年9月以降、恒久的な変更の開示なし155,055人
三男 大戸屋ホールディングス(2705)20.00円(前期10円)傘下入り後、恒久的な変更の開示なし19,772人
親 コロワイド(7616)5.00円(5期連続同額)141,233人

三男は配当を10円から20円へ倍にしている。同じ期、同じ建物、同じ調達網である。

その中で、次男は優待を1ポイントも減らしていない。2015年9月にポイント制へ移して以降、恒久的な変更の開示は確認できなかった。時限的な措置は4件あるが、いずれも増額か有効期限の延長で、株主に有利な方向だけだった。2020年3月には、コロナ禍のさなかにポイントを2倍にしている。

新型コロナウィルスの影響により、現在は一時的に外食需要が減少しておりますが、これらの影響が収束した暁には、株主様による「かっぱ寿司」店舗のご利用を、当社をはじめとする外食業界に活力を与える契機とさせて頂ければとの思いから、2020 年3月 31 日を基準日とする株主優待ポイントを通常の2倍相当とすることといたしました。

危機のときに優待を増やした会社が、赤字の年にも優待を守った。行動としては一貫している。

なお、優待についてはグループとしての約束もある。2026年6月12日、アトムが優待の減額を開示した同じ日に、親のコロワイドは「当社及び当社の連結子会社であるカッパ・クリエイト株式会社、株式会社大戸屋ホールディングスにつきましては、株主優待制度の変更の予定はございません」と出している。無配を決めた5月8日から、1か月後のことだ。

文言だけを見ると、次男と長男はほとんど同じことを書いている。長男アトムの配当政策には、こうある。

なお、今後も株主及び一般投資家保護の基本原則を十分認識し、経営基盤の確保と株主資本利益率の向上を図りつつ、安定配当及び株主優待制度を継続していくとともに、業績に応じた株主還元に積極的に取り組む考えでおります。

カッパの配当政策と、ほとんど同じ一文である。そして両社とも無配だ。三男は同じ建物にいながら配当を倍にした。

調達も、優待ポイントも、方針の言葉まで揃っている。それでも結果はバラバラになる。

分けているのは、その会社が店の外にどれだけ稼ぎ方を持っているかだと思う。

おわりに——1階を建て直しながら、2階を厚くしている

1階を改修しながら、同時に小さな2階を建設している寿司店

冒頭の引っかかりに答えを出しておく。

赤字は減損だった。営業段階では黒字を維持している。落ちたのはコスト構造でもなく、客数だった。うまいと思っている店の会社が赤字になったのは、商品が否定されたからではない。少なくとも、数字はそう読める。

ただし、手放しでは終われない。

会社は顧客満足のKPIに、NPS®(ネット・プロモーター・スコア。その店を人にすすめたいと思うかを測る指標)を置いている。そのスコアは通期で前期比99.2%だった。上半期97.4%から下半期100.5%へ改善はしている。それでも通期では前年を下回っている。うまいと思っていることは、まだスコアになっていない。

そして4Qの既存店99.1%は、値下げで取り戻した数字だ。価格で戻ってきた客が、価格以外の理由で残るかどうか。そこが次の分かれ目になる。

次の決算で、何を見るか

1つ目は、粗利率が51%台から戻るか。会社は2027年3月期の施策に「鮮度向上に伴うロス改善」を挙げ、切り付けやシャリの炊飯の頻度を上げてロスを減らし、それを原資に顧客へ還元すると書いている。削るのではなく、生み出した分で戻せるかどうか。

2つ目は、既存店が100%を超えるか。ここを超えれば、値下げで呼び戻した客が定着したことになる。1階が戻れば、この会社の数字は大きく動く。

3つ目は、2階が厚くなるか。デリカが黒字に転じるか、海外が2%から動くか。外食で店の外に稼ぎ方を作るのは時間がかかる。だからこそ、1年ごとに見ておきたい。

配当は2027年3月期も「未定」だ。会社予想は純利益9億36百万円の黒字転換である。黒字になったとき、外に出すのか、建てるほうに回すのか。そこにこの会社の設計が出ると思う。次の四半期決算は2026年8月上旬の予定だ。

8年目の株主として

2018年に買ったとき、この建物の構造を知らなかった。ただ寿司がうまいと思って買った。

読み直してみて、腑に落ちたことがある。この会社は、原価の8割を自分では決められない。その代わり、299店舗の会社が単独では持てない調達網を使えている。同じことの表と裏だ。

そして、店の外に2割の稼ぎ方を作ってきた。デリカも海外も、買ってきたのではなく、時間をかけて作ったものだ。長男にはこれがない。

優待の重さを軽くする道は、優待を削ることではなく、利益を厚くすることのほうだと思う。長男が2年で優待を4分の1にしても比率がほとんど下がらなかったことが、それを示している。

だから、売る理由は見当たらない。

建て増しではなく、建て直しと、増築を同時にやっている。その途中の1年だった、と読んでいる。

次の決算で、上の3点を確認しながら答え合わせを続けたい。

なお、ここに書いたのは筆者ひとりの見方にすぎない。数値は開示資料から確認したものだが、解釈は筆者のものである。投資判断は各自の責任でお願いしたい。

FAQ

カッパ・クリエイトの株主優待は何株から?

100株以上が対象です。3月末と9月末を基準日に年2回発行され、100株〜1,000株未満は1回3,000ポイント(1ポイント1円)です。3月末基準は6月、9月末基準は12月に発行され、有効期限は付与日から1年です。カッパ・クリエイト、コロワイド、アトムの対象店舗で利用できます。

2026年3月期が赤字なのに、なぜ優待は変わらないのですか?

2026年6月12日、親会社のコロワイドが「当社及び当社の連結子会社であるカッパ・クリエイト株式会社、株式会社大戸屋ホールディングスにつきましては、株主優待制度の変更の予定はございません」と開示しています。一方で2026年3月期の配当は、同年5月8日に無配(前期は5円)と開示されました。なお2015年9月にポイント制へ移行して以降、恒久的な優待制度の変更の開示は確認できていません。

最終赤字3億94百万円の原因は何ですか?

減損損失7億15百万円です。国内85店舗・海外2店舗・国内1工場が対象で、第4四半期に一括計上されました。営業利益は5億32百万円、経常利益は5億92百万円といずれも黒字で、減損を含む特別損失7億22百万円により税引前で赤字に転落しています。

回転寿司以外の事業はありますか?

デリカ事業と海外事業があります。デリカ事業はコンビニやスーパー向けに寿司・調理パンを製造しており、売上高139億48百万円(連結の19.0%)です。海外は韓国とインドネシアで回転寿司を運営しています。合わせると連結売上の約2割になります。

コロワイドMDからの仕入はいくらですか?

有価証券報告書の関連当事者取引によると、提出会社分が254億69百万円、連結子会社分が41億57百万円です。合算すると296億26百万円で、売上高の40.5%、売上原価の83.7%にあたります(合算は筆者の計算によるものです)。

日本株シリーズ(連載中)

筆者が実際に保有する日本の個別銘柄を、1社ずつ同じフレームで読み解くシリーズです。1階(安定基盤)・2階(成長エンジン)・3階(将来オプション)の3層で構造を分析し、決算のたびに答え合わせを重ねていきます。フレームは米国株シリーズと共通です。

以降の回は、保有銘柄に動きがあったものから順に追加していきます。

米国株シリーズ(全9回)

筆者が実際に保有・分析した米国個別株を、1社ずつ同じフレームで読み解くシリーズです。本稿の1〜3階のフレームはここで導入したもので、同じ物差しで日米を比べられます。

参考リンク


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