コロワイド(7616)はなぜ、440億円のカフェを調達会社に買わせたのか|1〜3階構造で読む増築の設計図【日本株シリーズ第2回】

はじめに——14年持っている株の、構造を読み直す

外食チェーンの建物の3階建て断面。1階に多数の店舗、2階に調達・物流の中枢、3階は建設中の空フロアを、長期保有者が外から見上げる

コロワイドを買ったのは2011年だった。それから14年、一度も手放していない。

コロナ禍で外食産業が総崩れになった時期も、この会社は売らなかった。いまも売る理由が見当たらない。年に4回、優待ポイントが届き続けている。

(コロワイドの優待は500株以上が対象で、年4回、1回1万円相当のポイントが発行される。500株なら年間4万円分になる)

その構造を、あらためて読み直すことにした。 きっかけは、2026年6月12日に届いた別の会社の通知だった。

アトムから、株主優待の変更のお知らせ。年間のポイントが半分になる。第1回でこの話を書いた。11年持っている株の優待が減る。その理由を、アトムという会社の構造から読み解いた。

書き終えてから気づいたことがある。同じ日、親会社のコロワイドも開示を出していた。中身はこうだ。アトムが優待を変更したが、当社とカッパ・クリエイト、大戸屋ホールディングスについては変更の予定はない。

テナントの優待が半分になり、大家の優待は据え置かれた。

引っかかったのは、大家の側が減らなかった理由だ。アトムが247店舗でステーキと寿司を売っているのに対して、コロワイドは何を売って、優待を出し続けられるのか。

調べてみると、答えは料理ではなかった。

コロワイドという会社の輪郭

過去最高の大きな売上の器から、子会社の不調で目減りして細い最終利益へ落ちる流れ

2026年3月期のコロワイドは、決算短信によれば売上収益3,000億90百万円、事業利益125億27百万円、税引前利益65億47百万円。この3つはいずれも過去最高である。

ところが当期利益は17億13百万円しかない。しかも親会社の所有者に帰属する当期利益は22億33百万円で、全体を上回っている。非支配株主が5億20百万円の損失を負担したためだ。

理由は会社の説明に書かれている。

業績が低迷したカッパ・クリエイト(株)や(株)アトムを中心に、減損損失の計上及び繰延税金資産の取り崩しを行った結果

過去最高の売上と、薄い最終利益。その差を作ったのは、子会社の不調だった。

会社の規模を押さえておく。有価証券報告書によれば連結子会社107社、従業員5,907人(このほか平均臨時雇用者19,195人)、店舗は直営1,501・FC1,132の合計2,633店舗。上場子会社を3社抱えている。アトム(7412)、カッパ・クリエイト(7421)、大戸屋ホールディングス(2705)だ。

売上3,000億円、店舗2,600店超。これがどう作られているかを、1階から順に見ていく。

1階:外食チェーンを、買って増やす

国内外に広がる多業態の外食店舗群を、買い足して継ぎ足していく様子

コロワイドの1階は、2,633店舗の外食チェーンである。直営1,501店舗、FC1,132店舗。売上収益3,000億90百万円のほぼ全部がここから出ている。

地域別の内訳はこうなる。

地域売上収益事業利益前期店舗数
国内2,446億79.9億66.8億2,213
北米190億4.0億9.8億73
アジア(中東含む)180億18.6億16.3億328
オセアニア(10か月連結)183億22.6億19

このほかに給食事業が509拠点ある。

そしてこの1階は、買って増やしている。

2025年6月にオセアニア最大手のステーキチェーンSeagrassを取得し、19店舗が加わった。2026年4月にはカフェチェーンのC-Unitedを440億92百万円で取得し、563店舗が加わった。給食事業も2024年にニフス、ソシオフードサービスなどを取得して立ち上げている。

会社は、なぜ買うのかを中期経営計画にはっきり書いている。

国内外食市場の拡大が見込めない中においては、M&Aによるシェアの切り取りが合理的

シェアの切り取り。 市場が伸びないなら、他社の取り分を切り取るしかない。

1階の利益は、店舗ではないところに溜まる

ところが、この1階の利益の集まり方が変わっている。セグメント別に並べると分かる。

セグメント外部売上内部売上事業利益
コロワイドMD35億977億50.8億
レインズインターナショナル913億14億47.8億
カッパ・クリエイト723億8億3.5億
大戸屋ホールディングス369億1億17.9億
アトム304億0.2億
Seagrass Holdco200億25.8億
その他455億15億20.1億
連結3,000億125.3億

最上段が株式会社コロワイドMDだ。

社外に35億円しか売っていない。グループ内には977億円売っている。外部売上の27.5倍である。 そして事業利益50.8億円は、連結の事業利益125.3億円の40.6%にあたる(報告セグメント合計166.2億円に対しては30.6%)。

MDの中身も見ておく。売上1,012億円に対して売上総利益は69.9億円で、粗利率は6.9%しかない。薄い粗利を巨大な量で回す、卸の収益構造だ。

料理を売る会社の集まりの中で、食材を売る会社が利益の4割を作っている。

モールが貸しているのは、場所ではなく調達だ

第1回で、この構造をこう書いた。

この形は、ショッピングモールに似ている。モールの運営者は区画を貸し、テナントが自分の売上を立てる。運営者の収益は賃料と共益費から生まれる。

コロワイドが貸しているのは場所ではない。調達である。

同じ形の会社が、もう一つある。イオンだ。

イオンコロワイド
貸すもの場所(モールの区画)調達(MDの仕入・物流)
利益を集める階ディベロッパー 709億円コロワイドMD 50.8億円
テナントウエルシア、専門店アトム、カッパ、大戸屋
関係資本参加+賃貸連結子会社+仕入

店を出す側が売上を立て、場を作る側が利益を取る。そして場を作る側は、店を出す側の株主でもある。普通のモール運営者は賃料しか取れないが、この2グループはテナントの利益も連結で取り込める。

2階:買った先を、太らせる

中央の調達・物流拠点が各店舗へ食材を送る足し算と、不要事業をグループ内の別会社へ移す引き算

店舗を買って並べるだけなら、資金があれば誰でもできる。この会社の成長エンジンは、買った先の収益性を上げるところにある。

会社の言葉で言えばこうなる。中期経営計画のM&Aのページには「グループインフラの活用」という見出しがあり、その結論が「M&A参画企業の収益性を向上」と書かれている。

その仕組みは2つある。

足し算——調達に接続して、原価を下げる

MDの機能は突然できたものではない。統合報告書は起点を1994年に置いている。

1994年10月に逗子の食品加工工場を閉鎖し、鎌倉市に400坪の鎌倉キッチン配送センターを新設。「自分達で作って、自分達で運んで、自分達で売る」という当社グループのマーチャンダイジング戦略が本格的に始まりました。

自分達で作って、自分達で運んで、自分達で売る。M&A戦略が始まる2002年より、8年早い。買う前に、受け入れる側の仕組みが先にあった。

その後、2007年にコロワイドCKをコロワイドMDへ改組し、2019年にはMDから飲食事業を切り離して、調達・製造・物流の専業会社にしている。現在は機能別のセントラルキッチンと食品工場が全国15ヶ所、配送センターは2026年3月期に12ヶ所から11ヶ所へ集約された。

会社自身、この機能を国内外食事業の柱に挙げている。

コロワイドMDを中心としたマーチャンダイジング機能の一層の強化により、調達・製造・物流を含めた効率化を一段と高めて参ります。

効いた例が大戸屋ホールディングスだ。事業利益は13.0億円から17.9億円へ伸びた。メニューの原価見直しにセントラルキッチンを使っている。

第1回で書いたアトムの仕入125億13百万円は、MDの内部売上977億円の一部である。アトムの売上304億円に対して41.2%にあたる。247店舗の地方チェーンが単独では持てない調達網を、仕入という形で使っている。

引き算——出口がグループの中にある

もう一つは、逆方向の効き方だ。

アトムは2025年2月に居酒屋事業を、3月にカラオケ事業を、会社分割で手放した。どちらも黒字の事業だった。 居酒屋は売上44億93百万円・営業利益1億99百万円、カラオケは売上15億35百万円・営業利益1億87百万円である。

それでも手放した理由を、会社はこう書いている

当社はより「レストラン事業」へ経営資源を集中させることが、当該事業における顧客満足度の向上に資するものと判断致しました。

結果はこうなった。

2025年3月期2026年3月期
売上高354.77億304.08億
売上総利益226.49億188.71億
販管費233.20億188.46億
営業損益△6.70億+0.25億

売上総利益が37.8億円減ったのに、販管費が44.7億円減った。だから黒字に転換した。 3つの事業を抱えることの管理コストが、それだけ重かったということだ。

ここで効いたのが、出口の選択肢である。居酒屋事業の譲渡先は、グループ内の株式会社コロワイドダイニングだった。 対価22億33百万円、事業譲渡益16億15百万円。カラオケ事業のほうはグループ外へ20億円で売却している。

単独の上場企業なら、事業を切り出すときに買い手を探すところから始まる。グループにいると、片方は身内に渡せる。

効き方には差がある

ただし、2階はどこにでも同じように効くわけではない。

会社2026年3月期 事業利益前期
大戸屋ホールディングス17.9億13.0億
カッパ・クリエイト3.5億15.2億
アトム0.2億△0.6億

カッパ・クリエイトは大きく落とした。同社は既存店売上高の減少をこう説明している

前年の米不足による外食需要増加の反動減に加え、物価上昇に伴う実質賃金マイナスが継続する外部環境の中で、限られた外食の機会に対してより厳しくなった顧客の選択眼に応える価値創造や価値提供が不足し、客数減少による売上高減少となった

国内回転寿司事業の既存店売上高は前年比95.3%。第4四半期は97.7%まで戻している。対策は値上げではなく値下げで、税込110円以下の商品を100種以上そろえ、平日限定の税込90円メニューを出し、食べ放題を9店舗から全店へ広げた。

アトムは黒字転換したとはいえ、水準は0.2億円である。2階は効き始めたばかりだ。

3階:まだ収益になっていない、調達網の海外化

オーストラリアの牧場と食肉加工からアジアへ広がる牛肉サプライチェーンを、まだ稼働していない建設中の上層階として描いた構図

3階には、まだ数字に出ていないものを置く。

2021年5月21日の決算説明会で、野尻公平社長は中期経営計画の挑戦テーマとして「MDの海外進出」を掲げ、こう説明していた(ログミーFinanceの書き起こしより)。

海外に工場を作りたいと思っています。なぜかと言うと、食材の原産地で一次加工をすることによって、コスト削減につながるからです。

食材の産地に出て、そこで加工する。国内で作ってきた調達の仕組みを、海外に移す構想である。

4年後、その第一歩が踏まれた。

2025年6月に取得したSeagrassの目的に、会社はこう書いている。

対象会社は牛肉の調達に関して、オーストラリア国内の有力なパッカーと強固な信頼関係・取引関係を構築しており、これらの関係性を当社グループ全体として活用することで、当社グループにおける牛肉の安定調達及びアジアを中心としたサプライチェーン網の構築による流通収益の強化を実現することが可能となります。

店を買ったのではない。牛肉の調達ルートを買っている。 第1回で「親会社が建てている、牛肉の上流」と書いたのが、この3階のことだ。

ただし、この流通収益はまだ計上されていない。 Seagrassの売上200億円と事業利益25.8億円は、あくまでステーキレストラン19店舗の数字である。豪州の調達網をグループ全体に広げて流通で稼ぐという構想は、まだ構想のままだ。

3階は可能性であって、実績ではない。ここは伏せずに書いておく。

買って建て、太らせる

増築を繰り返す建物と、足元に積み上がるのれんの重り、先に用意された増築資金

ここまでを整理すると、この会社の設計図が見えてくる。

M&Aは階ではない。1階も2階も3階も、買って建てるための手段である。

  • C-Unitedの563店舗は、1階の拡張
  • Seagrassの19店舗も1階だが、その調達網は3階への布石
  • 給食事業の立ち上げも、ニフスなどを買って作った1階

そして買った先をMDに接続して原価を下げ、いらなくなった事業をグループ内に逃がす。これが2階である。

買う金は、先に用意されていた

なぜこの規模で買えるのか。統合報告書に答えがある。

前期はファイナンスにより317億円をM&A待機資金として調達しました。これにレバレッジをかけて買収していくわけですから、現在私達には約1,000億円程度のM&Aへの資金余力があるという認識です。

2025年3月期のキャッシュフロー計算書を見ると、株式の発行による収入が316億65百万円ある。同じ期に発行済株式総数は86,903,541株から106,453,541株へ、1,955万株増えた。1株あたり約1,620円。2024年8月から9月にかけての公募増資である。

買う案件があったから調達したのではない。調達してから買っている。 その翌期にSeagrass、翌々期にC-Unitedを取得した。

有価証券報告書も、M&Aをリスクの文脈で正面から位置づけている。

当社グループでは、M&Aを成長戦略の重要な柱と位置づけ実行して参りました結果、連結財政状態計算書にのれんが計上されております。

配当政策にも同じ思想が出ている。内部留保資金の充当先として挙げられているのは「M&A、新規出店、設備投資、人材の育成等」で、順番の1番目がM&Aである。

増築の代償

買えば、建物は重くなる

項目2024/32025/32026/3
営業CF298.8億288.1億287.1億
投資CF△135.8億△216.1億△307.6億
フリーCF163.0億72.0億△20.4億
のれん825.3億918.8億1,208.2億
純有利子負債754.2億577.7億825.9億
Net Debt/EBITDA4.5倍3.1倍3.7倍

フリーキャッシュフローがマイナスに転じた。ただし営業CFは3期とも287〜299億円でほぼ横ばいである。マイナスの原因は稼ぐ力の低下ではなく、投資を年307億円まで増やしたことにある。

のれん1,208億円は総資産3,509億円の34.4%を占める。増加した289億円の内訳は、企業結合による取得282億円と為替換算差額7億円。うちSeagrass分が237億円だ。

なお、この記事のEBITDA関連の数値は、会社が2026年5月18日に「EBITDAの計算過程に誤りがあった」として訂正した後のものである。Net Debt/EBITDAは3.9倍から3.7倍へ改まった。二次情報には訂正前の数値が残っているので注意してほしい。

成績表は、1階と2階で分かれた

では、この設計はうまくいっているのか。中期経営計画の第1フェーズ(2024年3月期〜2026年3月期)の目標と実績を並べる。目標はいずれも新規M&Aを織り込まない前提で立てられたものだ。

目標実績
売上収益(2026/3期)2,738億円3,000.9億円+9.6%
EBITDA(2026/3期)240億円225.4億円△6.1%

売上は目標を9.6%上回り、EBITDAは6.1%届かなかった。

これがこの会社の現在地だと思う。1階は建った。2階がまだ追いついていない。

給食事業を見ると、同じ形がもっとはっきり出る。

給食事業 売上高前期比
2024年3月期7.1億円
2025年3月期122.5億円17.3倍
2026年3月期144.0億円+17.5%

2024年から2025年にかけて17倍に跳ねた。要因はM&Aである。だが翌年は17%の伸びにとどまった。買った瞬間は17倍になり、翌年は17%になる。

2021年の決算説明会で、社長は給食事業についてこう言っていた。

5年後の2026年3月期に売上1,000億円を目標としています。

その2026年3月期の実績は144億円だった。中期経営計画では、同じ1,000億円が2030年3月期の目標になっている。目標の時期は4年うしろにずれた。

直近の統合報告書では、給食は契約でまとめられた事業所や施設を一括でM&Aできるから1,000億円は問題なく達成できる、という見立てが示されている。見立てと実績を並べて置いておく。判断は読む人に委ねたい。

増築が1階を太らせるループ

米国株シリーズで見てきた3階は、研究開発と設備投資で自分で建てるものだった。買って建てる場合、立ち上がりは速い。Seagrassは初年度10か月で事業利益率12.9%と、グループで最も高い。代わりに、のれんという値札が資産に残る。

そしてコロワイドの場合、買った階が1階に返ってくる。C-Unitedを買ったのはコロワイドMDだ。 563店舗分の仕入がMDの内部売上に乗る。2027年3月期の会社予想では、MDの売上は1,012億円から1,059億円へ増える。

さらに、C-Unitedを取得した2026年4月は、コロワイドMDがつくば工場を開設した月でもある。増築と、それを受け止める設備の拡張が、同じ月に、同じ会社で起きている。

増築が1階を太らせ、太った1階が次の増築の原資になる。 これがこの会社の設計図だと思う。

そしてタイトルの問いに戻る。なぜ440億円のカフェを調達会社に買わせたのか。1階の増築であっても、買い手はMDでなければならないからだ。 買った先を太らせるのはMDであり、太った先の利益が集まるのもMDである。

財務目標は前倒しで達成し、方向は逆を向いた

会社は経営指標を4つ掲げ、2028年3月期までに全て達成する見込みだとしている。ROE8%以上、売上に対するEBITDA比率8%以上、Net Debt/EBITDA3倍以内、連結資本合計比率30%以上の4つだ。

このうち連結資本合計比率は、2026年3月期に32.5%で既に達成している。予定より2年早い。ただし前期は36.2%だった。目標は前倒しで達成しているのに、数値そのものは3.7ポイント下がっている。 増築で資産が膨らんだためだ。

なお会社はこの指標の算式を開示していない。中期経営計画にある「2023年3月期末23.9%」を手がかりに、資本合計 ÷(総資産 − 現金及び現金同等物)という式を推定し、3期分で一致することを確認した。上の2つの数値はこの推定式による筆者計算である。

株主にとって、この構造は何を意味するか

細い配当の流れと太い優待ポイントの流れ、少数の優先的な取り分と多数の個人株主

500株を持っている株主の立場で数字を置き直す(優待の条件はこちら)。期末株価1,814.50円なので、投資額は90万7,250円になる。

金額投資額に対して
優待ポイント(年4回×1万円)40,000円4.4%
配当(5円×500株)2,500円0.28%

優待は配当の16倍ある。 1株当たり配当金は5円で、5期連続同額だ。

優先株式が、普通株主より先に取る

配当の内訳を見ると、この会社の資本構成が見えてくる。

金額
親会社の所有者に帰属する当期利益22億33百万円
資本に分類される優先株式への配当△5億61百万円
普通株主に帰属する当期利益16億72百万円
普通株式への配当総額5億32百万円

優先株式への配当が、親会社帰属利益の25.1%を先に持っていく。残った16億72百万円が普通株主の取り分で、そこから5億32百万円が配当された。配当性向31.8%はこの計算による。

配当総額を区分別に見ると、普通株式5億32百万円に対し、優先株式3種の合計は5億60百万円である。14万人の普通株主への配当より、3名の優先株主への配当のほうが多い。

これは優劣の話ではなく、資本構成の話だ。優先株式の1株当たり配当は3,847,270円、4,347,270円、3,500,000円と、普通株式の5円とはまったく性質が違う。過去の資本増強の経緯が、いまも配当の順序として残っている。

5年でTOPIXが倍になる間、株価はほぼ動かなかった

有価証券報告書には株主総利回りの推移が載っている。

5年前3年前直近
株主総利回り93.7%114.9%96.8%
配当込みTOPIX102.0%152.5%202.2%

TOPIXが2倍になる間、コロワイドはほぼ横ばいだった。この5年、株主が受け取ったリターンの主要部分は、優待4.4%だったことになる。

株主の99%は個人である

所有者別の状況を見ると、この会社の株主構成がはっきりする。株主総数141,233人のうち、個人が139,911人。全体の99.06%であり、株式の78.35%を保有している。金融機関はわずか17人だ。

優待が株主構成を作っている、と言っていい数字だと思う。

なお、優待にかかるコストの総額は算定できなかった。 会社は優待費用を開示しておらず、有価証券報告書にも所有株式数別の分布状況の表がない。500株以上を持つ株主が何人いるかが分からないため、下限すら置けない。第1回でアトムについて「優待コストは優待前事業利益の約94%」と書いたが、同じ物差しはコロワイドでは作れなかった。

現金は、増築に回っている

会社の配当方針は「安定した配当を継続していくこと」を基本とし、「期末配当の年1回」を原則としている。そして内部留保資金の充当先として、M&A、新規出店、設備投資、人材の育成等を挙げている。

順番の1番目がM&Aである。

自己株式の取得は当事業年度で400株・1百万円しかない。実質ゼロだ。配当は5円で据え置き。投資キャッシュフローは307億円。現金は株主に返さず、階を買うことに向かっている。 そのかわり還元は、自社の店舗で使えるポイントで戻ってくる。

この設計をどう評価するかは、一点に尽きると思う。年4回届く1万円を、使い切れる生活圏にいるかどうかだ。4.4%は使い切った場合の数字であって、使い残せばその分下がる。

テナントの優待は半減し、大家の優待は据え置かれた

同じ建物の中でテナント側の優待が半分に削られ、大家側の優待はそのまま維持されている対比

冒頭の話に戻る。2026年6月12日の二通の開示だ。

アトムは、変更の理由をこう書いている

当社では、当社を取り巻く環境変化に対応し、企業として安定的な収益性を確保すると共に、中長期的に持続可能な成長機会を確保する観点からは、更なるコスト低減が必要との結論に至りましたことから、その一環として株主優待制度の内容を以下の通り改めることと致しました。

年間ポイントは、100株以上が2,000から1,000へ、500株以上が10,000から5,000へ、1,000株以上が20,000から10,000へ。2026年9月末を基準日とする分から適用される。

同じ日、コロワイドはこう開示した

当社の連結子会社である株式会社アトム(本社所在地:横浜市、代表者:代表取締役社長 植田 剛史)は、本日付で「株主優待制度の変更に関するお知らせ」を発表致しましたが、当社及び当社の連結子会社であるカッパ・クリエイト株式会社、株式会社大戸屋ホールディングスにつきましては、株主優待制度の変更の予定はございません。

そして2024年5月にも、まったく同じ型の開示が出ている。 アトムだけが減り、他は据え置かれた。2回続けて同じことが起きている。

なぜ差がついたのか。事業利益を並べると分かる。

会社2026年3月期 事業利益
コロワイドMD50.8億円
レインズインターナショナル47.8億円
大戸屋ホールディングス17.9億円
カッパ・クリエイト3.5億円
アトム0.2億円

優待を支える収益力が、建物の中で偏っている。 第1回で、アトムの優待コストが優待前の事業利益の約94%にあたると書いた。その水準では、環境が変われば見直しの対象になる。一方でMDは50.8億円を稼いでいる。

カッパ・クリエイトも苦しんだ期だった。同社は既存店売上高の減少をこう説明している

前年の米不足による外食需要増加の反動減に加え、物価上昇に伴う実質賃金マイナスが継続する外部環境の中で、限られた外食の機会に対してより厳しくなった顧客の選択眼に応える価値創造や価値提供が不足し、客数減少による売上高減少となった

国内回転寿司事業の既存店売上高は前年比95.3%。ただし第4四半期は97.7%まで戻している。対策は値上げではなく値下げで、税込110円以下の商品を100種以上そろえ、平日限定の税込90円メニューを出し、食べ放題を9店舗から全店へ広げた。

おわりに——大家が得をしたのではない

建物の中で収益力が特定のフロアに偏って集まり、長期保有者がそれを見届けている様子

冒頭の「大家のほうを持っていればよかったのか」という考えに、いま答えを出しておく。

大家が得をしたのではない。優待を出せる収益力の所在が、建物の中で偏っているだけだ。

そしてその収益力は、料理を売って生まれたものではなかった。グループの中に食材を売って生まれている。外部に35億円、内部に977億円。その利益が階を買う原資になり、買った階がまた調達の量を増やす。

タイトルの問いに戻る。なぜ440億円のカフェを調達会社に買わせたのか。答えは、コロワイドにとって買収は店舗を増やす行為ではなく、調達の量を増やす行為だからだ。だから買い手はMDでなければならない。

次の決算で、何を見るか

株主として、次に確認したい点を3つ書いておく。

1つ目は、C-United連結後のMDの内部売上と事業利益。 563店舗分の仕入がMDに乗るはずで、2027年3月期の予想はMDが1,059億円、C-Unitedが売上393億円・事業利益33億円だ。増築が1階を太らせるかどうかが、ここに出る。

2つ目は、Net Debt/EBITDAが3倍に向かうか。 会社は2027年3月期に3倍以下を目標にしている。実績は3.7倍。増築を続けながら軽くできるかが問われる。

3つ目は、給食事業の売上構成比。 1,000億円の目標は既に4年うしろへずれている。144億円からどう伸ばすのか、伸び方が17倍型なのか17%型なのかを見たい。

次の四半期決算は2026年8月の見込みだ。

14年持ったうえで、これからも持つ

買ってから14年のあいだに、外食産業は一度潰れかけた。コロナ禍で店が閉まり、この会社も1,000億円規模の減収を経験している。それでも売らなかったのは、正直に言えば優待が届き続けたからだ。判断というより惰性に近い。

だが今回、建物の見取り図を描いてみて、惰性の下に構造があったことが分かった。この会社の利益は、料理が売れなくても減りにくいところから出ている。外食が止まればグループ内の仕入も止まるので無傷ではない。それでも、店舗の集客力だけに依存する会社とは、崩れ方の形が違う。

増築は続く。C-Unitedの563店舗が2026年4月から連結に入り、その仕入がまた調達に乗る。のれんは1,208億円まで積み上がり、これは重い。だが重さの正体が「買った階の値札」だと分かっていれば、決算のたびに何を見ればいいかも決まる。

だから、これからも持つ。次の決算で上の3点を確認しながら、答え合わせを続けたい。

なお、ここに書いたのは筆者ひとりの見方にすぎない。数値は開示資料から確認したものだが、解釈は筆者のものである。投資判断は各自の責任でお願いしたい。

FAQ

コロワイドの株主優待は何株から?

500株以上が対象です。年4回、1回1万円相当のポイントが発行されます(3月末基準は6月と9月、9月末基準は12月と翌年3月)。有効期限は付与日から1年です。

アトムの優待が半減したのに、コロワイドの優待は変わらないのですか?

2026年6月12日時点で、コロワイドは「変更の予定はございません」と開示しています。同日、カッパ・クリエイトと大戸屋ホールディングスについても変更予定なしとしています。

のれんが1,208億円あるのは危険ですか?

総資産の34.4%を占めます。M&Aを成長戦略の柱とする設計の帰結で、会社自身も有価証券報告書で「のれんの減損」をリスクとして挙げています。Net Debt/EBITDAは3.7倍で、会社は2027年3月期に3倍以下を目標としています。

コロワイドMDとは何をしている会社ですか?

グループの商品開発・食材調達・製造・物流を担う会社です。社外への売上は35億円ですが、グループ内には977億円売り、連結事業利益の4割にあたる50.8億円を稼いでいます。SeagrassとC-Unitedの取得主体でもあります。

日本株シリーズ(連載中)

筆者が実際に保有する日本の個別銘柄を、1社ずつ同じフレームで読み解くシリーズです。1階(収益基盤)・2階(成長エンジン)・3階(将来オプション)の3層で構造を分析し、決算のたびに答え合わせを重ねていきます。フレームは米国株シリーズと共通です。

以降の回は、保有銘柄に動きがあったものから順に追加していきます。

米国株シリーズ(全9回)

筆者が実際に保有・分析した米国個別株を、1社ずつ同じフレームで読み解くシリーズです。本稿の1〜3階のフレームはここで導入したもので、同じ物差しで日米を比べられます。

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