CHAdeMO廃止はいつ?ガラケーと同じ道をたどるEV充電規格の終了時期を予測

はじめに

ガラケーとCHAdeMOが融合するメタファービジュアル

2026年3月31日、ある数字が静かに「0」になった。

iモードのアクティブユーザー数だ。

1999年の登場から27年間、日本の携帯電話インターネットを支配し続けたiモードは、2026年3月31日のFOMA終了とともに完全に息を引き取った。最盛期は約4,900万件の契約者を誇り(2010年7月ピーク)、「日本は世界一のモバイルインターネット大国だ」と言わしめた規格だ。それが27年後、ひっそりと消えた。

その訃報を読んだ瞬間に、別のある数字が頭に浮かんだ。

14,653。

2026年3月末時点で日本に設置されているCHAdeMO急速充電口の数だ。前月比でマイナス40口。増加ではなく、減少だ。

iモードの末期と重なる光景が、CHAdeMOに見える。そしてこれは「充電規格の話」ではない。東京電力、経産省、NEXCO、CHAdeMO協議会——日本の旧来型インフラ産業が作り上げた利権構造が、またひとつ崩壊していくプロセスの話だ。

この記事では、CHAdeMOがガラケーとまったく同じ道をたどって消えていく全工程を、構造的に解剖する。最後に「なぜ同じ失敗を繰り返すのか」という問いに、私なりの答えを出したい。冒頭で言及したiモードの訃報は、最後に回収する。

第1章——CHAdeMOとは何か。「建前」の整理

SA/PAで対比される旧型CHAdeMO充電器とNACS充電器

まず規格の建前を確認しておこう。

CHAdeMOは、直流急速充電のコネクタ規格だ。名称は「CHArge de MOve(動くための充電)」に由来し、日本語の「ちゃでも(お茶でも飲んでいる間に充電できる)」にも掛けたとされる。最大の特徴は、2010年の設立当時に世界初の量産EV向け急速充電規格として策定されたことだ。

CHAdeMO協議会2010年3月15日、トヨタ自動車・日産自動車・三菱自動車工業・富士重工業(現スバル)・東京電力の5社を幹事会員として設立された。初代会長は東京電力取締役会長・勝俣恒久氏——翌2011年の福島第一原子力発電所事故発生時の東電トップその人だ。

設立から15年が経った今、CHAdeMOは日本国内の急速充電規格として2026年3月末時点で14,653口を占める。高速道路SA/PAをはじめ、コンビニ・ディーラー・公共施設に張り巡らされたこの充電インフラが、今まさに「終わりの始まり」に入っている。

第2章——「終わりの始まり」を告げた3つの事件

ガラパゴス規格が同じ軌道で繰り返す崩壊パターン

事件①:マツダがNACSを選んだ日

2025年5月、マツダが2027年以降の日本国内向けBEVにNACS(テスラ規格)を採用すると発表した。これはNACSが北米でデファクト化した話ではない。日本の国内メーカーが、日本の国内向け車両で、日本が生んだCHAdeMOを捨てたという話だ。

ステランティスも北米では2026年初頭からNACSを搭載し、日本・韓国向けEVでは2027年から移行を決定。ソニー・ホンダのAFEELAも日本初のNACS採用EVになる予定だった(※2026年3月に開発・発売中止が決定)。国内メーカーが雪崩を打ってNACSに移行し始めたという事実の意味は一つ——「CHAdeMO車を新車で買い続ける理由がなくなった」ということだ。

事件②:公正取引委員会の「独占」認定

2023年、公正取引委員会は高速道路SA/PAの急速充電器の98.7%をe-Mobility Powerが独占していると公式に指摘した。報告書は「eMP以外の事業者がSA/PAに充電器を設置することが想定されているとは言い難い」と断じ、独禁法上の問題行為について「留意して事業を行う必要がある」と警告した。テスラのスーパーチャージャーがSA/PAに入れない理由は、技術的制約ではなく、この独占構造にある。

事件③:トランプ政権の「非関税障壁」認定

USTR(米通商代表部)は日本のCHAdeMO優遇を「日本メーカーに最も恩恵がある非関税障壁」と明示した。CHAdeMO協議会のA氏会長はMONOistの取材に対し、補助金継続の合理性や「米国企業の充電ステーションは高速道路から一度出なければならず差別的だ」という指摘についても正面からの回答を避けた。構造的な利害が絡む当事者として、明確な反論が困難な立場にある。

第3章——利権構造の解剖

規格策定・補助金・インフラ独占が閉じたループを形成する利権構造

一人の人物が「規格」「インフラ」「電力」を握る

CHAdeMOの既得権益構造を理解するには、一人の人物を追えばいい。

1983年に東京電力に入社し、福島第一原子力発電所で炉心管理業務からキャリアをスタートさせたA氏は、2010年のCHAdeMO協議会設立に参画し、充電インフラ事業会社e-Mobility Power(eMPower)の初代会長も務めた2019年にはCHAdeMO協議会会長に就任し、現在もその職を続けている。なおeMPowerは現在、池亀耕太郎氏が代表取締役社長を務めており、A氏の名前は現在の役員名簿にはないeMPowerは東京電力HDが54.7%、中部電力が36.4%を出資する事実上の東電系企業で、トヨタ・日産・ホンダ・三菱自・日本政策投資銀行も出資する「業界連合体」だ。

  • CHAdeMO協議会(A氏が会長)→ 急速充電規格を「決める」
  • e-Mobility Power(東電系・A氏が初代会長として立ち上げを主導)→ SA/PAを含む全国充電インフラを「独占的に運営する」
  • 東京電力HD(主要出資者)→ そのEVに「電力を売る」

規格を決める人間と、その規格でインフラを独占する人間と、そのインフラに電力を売る人間が一つの会社グループでつながっている。これは利権構造というより、垂直統合の完成形だ。

税金が東電グループに還流するメカニズム

補助金が東電グループ各レイヤーに還流する垂直統合の構造

経産省のEV充電インフラ補助金は令和7年度補正予算で500億円が計上され、前年度の360億円からさらに増額した。この補助金で設置される急速充電器はCHAdeMO規格が前提だ。製造元は東電グループの東光高岳をはじめとする国内メーカー。設置・運営は事実上eMPowerが担う。

国民の税金 → 経産省(CHAdeMO前提の補助金設計)→ CHAdeMO協議会(規格管理)→ e-Mobility Power(設置・運営)→ 東光高岳(充電器製造)→ 東電エナジーパートナー(電力販売)。この循環が、CHAdeMOを技術的合理性とは無関係に生き延びさせている本質だ。

なぜNACSはSA/PAに入れないのか

東京電力が公式サイトに明記しているオープン・クローズ戦略はこうだ——「急速充電器の回路設計や通信方式は標準化(オープン)するが、高性能な急速充電器や充電サービスは東京電力グループの強みを発揮できるようクローズとする」。プロトコルは公開して参入障壁を下げながら、実際の充電ビジネスは独占する。テスラのスーパーチャージャーがSA/PAに入ってきたら、この収益構造が根底から崩れる。だからSA/PAには入れない。入れてはいけない。

第4章——CHAdeMOはガラケーだ

ガラパゴス規格の崩壊パターン

ここで立ち止まって、本質的な問いに向き合いたい。なぜ日本は、技術的に優れたものを作りながら、世界に負け続けるのか。

RIETI(経済産業研究所)が分析した「後続者のいない先行者(Leading without Followers)」という概念が的確に描写している。日本の情報通信産業は「世界初」の技術を生み出しながら、なぜかグローバルスタンダードになれない。その理由は技術力の欠如ではなく、国内市場の独占構造が外部競争へのインセンティブを消し去るからだ。

過去の失敗を並べてみよう。

規格利権の中心囲い込んだ規格敗れた相手終了年
PDC/movaNTTドコモ+郵政省PDC方式GSM→3GPP2012年
i-modeNTTドコモ+総務省iモード独自仕様iPhone/Android2026年3月
B-CASNHK+放送局+総務省B-CASカードネット配信未完了
FeliCaソニー+JR東FeliCa (Type F)NFC Type A/B縮小中
CHAdeMO東電+経産省+NEXCOCHAdeMO規格NACS/CCS進行中

パターンは毎回同じだ。①日本が世界初の技術を作る → ②国内市場で独占構造を確立し、補助金と規制で守る → ③外部競争にさらされないまま、グローバルスタンダードとは別の進化をする → ④グローバルプレイヤーが来たとき、あらゆる面で体験が劣っていることが露呈する → ⑤既得権益側は「技術的優位性」を主張し続けるが、ユーザーは選ばなくなる。CHAdeMOの今は、まさにステップ④から⑤の移行期だ。

第5章——「充電体験」の絶望的な差

旧型CHAdeMO充電器とNACS充電器の体験差

数字より体験の話をしよう。

CHAdeMOでの充電体験はこうだ——コネクタが重く両手でないと差し込めない。QRコードを読み取り、個人情報を入力し、クレジットカードを登録し、充電開始ボタンを押す。充電が始まったと思ったらエラーで停止。しかし初期料金は引き落とされている。

これに対してNACS(スーパーチャージャー)での体験はこうだ——ケーブルをポートに差し込む。5秒で充電が始まる。終わったら抜く。それだけ。

出力の差も現実として存在する。2026年3月末時点で、SA/PAに設置されているCHAdeMO充電器の主力は50kW前後だ。テスラのV3スーパーチャージャーは250kW。V4は350kW。同じ「急速充電」という言葉を使っているが、体験の質が根本的に異なる。

FLASHというCHAdeMO・NACS両対応充電器が最大240kW(1口タイプ180kW)で登場し始めているのは良い兆候だが、SA/PAには入れない。そしてCHAdeMO最大の問題は出力ではなく、「挿すだけで始まる」という体験の非存在だ。Plug & Charge(接続するだけで充電・課金まで完結)はNACSやCCS2では標準的な機能になりつつあるが、CHAdeMOは規格上対応が難しく、挿すたびに認証が必要という根本的なUX欠陥を抱えたまま出力だけを上げようとしている。

これはガラケーが「カメラの画素数」を競い続けながら、iPhoneが「全部をアプリで解決する」という別次元の体験を提供してきたときの構図と同じだ。

第6章——どう死ぬのか。過去の事例から占う5段階

ガラパゴス規格崩壊の5段階プロセス

過去の事例を重ねると、ガラパゴス規格の「死に方」には共通したパターンがある。CHAdeMOも同じ軌道をたどると予測できる。

ステップ①:外圧による亀裂(CHAdeMOの現在地)

グローバルスタンダードが国内に上陸し、既存規格の優位性に疑問が生じる段階。PDCではKDDIのCDMAが、i-modeではiPhoneが、B-CASでは公取委が、これにあたる。CHAdeMOの現在地はここだ。 マツダのNACS採用表明、公取委のeMPower独占指摘、トランプ政権の非関税障壁批判が2023〜2026年に集中している。

ステップ②:「併存」という名の延命

既得権益側が「両方対応します」と言い始める段階。実態は旧規格の延命措置。DMMがNACS/CHAdeMOデュアル充電器を展開し始めたのがまさにこれだ。i-modeがスマートフォン時代になっても「iモード対応サイト」として生き残り続けた時期と重なる。

ステップ③:新規投資の停止

メーカーが旧規格向けの新規開発をやめる段階。マツダ・ステランティスがNACS移行を決めた今、次世代CHAdeMO搭載車を新規開発するメーカーが減り始める段階が次に来る。すでに北米市場ではトヨタを含む主要メーカーがNACSに移行済みだ。日本市場向けだけのためにCHAdeMO対応を続けるコストが、どこかで割に合わなくなる。

ステップ④:ユーザーの自然減

旧規格の車両が中古市場に流れ、新車はすべて新規格になる段階。PDCはmovaは2012年3月31日に終了した。NTTドコモが新規受付を2004年11月に終了してから約7年かかった。EV車両の寿命が10年前後とすれば、現在走っているCHAdeMO車が完全に路上から消えるのは2035年前後になる可能性がある。

ステップ⑤:インフラの物理的撤去

SA/PAからCHAdeMO充電器が撤去される最終段階。eMPowerがSA/PAの充電器を更新するとき、CHAdeMO規格のまま投資するか、NACS対応に切り替えるかの判断が迫られる。2030年代半ばには、この意思決定が具体的な問題として経営陣の前に現れるだろう。

規格亀裂新規投資停止完全終了所要年数
PDC/mova1998年2002年(au新規停止)2012年14年
i-mode2007年(iPhone)2012年頃2026年3月19年
B-CAS2008年(公取委)議論継続中未完了18年超
CHAdeMO2023年(NACS台頭)2028年頃?2035年頃?推定12〜15年

第7章——最悪のシナリオ:「B-CAS化」

構造的に死にきれないB-CAS化シナリオ

一つ、厄介なリスクを提示したい。CHAdeMOが「B-CAS化」するシナリオだ。

B-CASカードは2008年に公取委から問題を指摘され、「事実上廃止が決まった」と報道された。それが2026年の今も、日本のテレビのスロットに刺さっている。なぜか。放送局・NHK・総務省の三位一体構造が強固すぎて、誰も鈴をつけられなかったからだ。

CHAdeMOも同じ三角形を持っている——東電・経産省・NEXCO。最悪のシナリオはこうだ。「誰も使わないのに、補助金で更新され続けるCHAdeMO充電器がSA/PAに残る」。B-CASカードが2026年のテレビにまだ存在するように。外圧(米国の非関税障壁批判)か、破壊的プレイヤー(テスラのSA/PA参入)か、どちらかがない限り、日本の利権構造は自浄作用では動かない。

第8章——なぜ同じ失敗を繰り返すのか

日本で同じ失敗が繰り返される構造的な3つの力学

本質的な問いに向き合おう。「日本はなぜ、歴史から学ばないのか」。答えは「学んでいないのではなく、学ぶインセンティブが制度的に消えているから」だ。3つの力学が働いている。

①国内市場が「ちょうどいい大きさ」で独占できる

日本の人口・高い可処分所得・自動車保有率の高さは、国内だけで採算が取れる市場規模をギリギリ満たしている。CHAdeMO規格でも、SA/PAの独占を維持している限り、東電グループは相当の収益を得られる。グローバルで戦わなくても食えるから、戦わない。

②規制当局と業界団体が一体化している

CHAdeMO協議会の会長が同時にeMPowerの会長を兼務し、その人物が東京電力HDのフェローである。この一体化構造が、規制側の「問題を認識してもルールを変えられない」状態を生む。公取委が「留意せよ」と警告しても、「留意した上で同じことを続ける」だけでいい。

③「カイゼン」は得意だが「パラダイムシフト」に弱い

日本企業はCHAdeMOの出力を50kWから150kWに上げること、充電器の信頼性を高めることは得意だ。しかし「充電という行為の体験全体を再設計する」という非連続的イノベーションは苦手だ。テスラが提示したのはケーブルの太さや出力の問題ではなく、「充電という概念の再定義」だったのに、CHAdeMO側はずっと出力の数字を競っている。

第9章——ユーザーはどう動くべきか

EV購入時の充電規格別比較

制度の問題を論じることと、消費者として賢く動くことは別の話だ。

EV購入を検討しているなら、充電規格を最初に確認せよ。 2026年現在、日本でEVを買う場合の充電規格別の現実はこうだ。

充電規格代表車種SA/PA対応将来性
NACS(現行)テスラ全車種✗(SA/PA外のスーパーチャージャー)
CHAdeMObZ4X、リーフ、アウトランダーPHEV等◎(独占状態)
NACS(次世代)マツダ2027〜等(AFEELAは開発中止)未定

SA/PAでの充電を重視するなら現時点ではCHAdeMO車、都市部主体の使用でスーパーチャージャーへのアクセスが確保できるならNACS車——という選択になる。ただし2028〜2030年以降に車両を乗り換えるとき、CHAdeMO規格が下取り評価に影響する可能性は十分にある。

おわりに——iモードの訃報と、CHAdeMOの余命

iモードとCHAdeMOの終焉を重ねるメタファービジュアル

冒頭で述べたiモードの話に戻ろう。

2026年3月31日、iモードは27年かけて消えた。ピーク契約数は2010年7月の約4,900万件で、そこからFOMAサービス終了まで17年かかった。「もう使っている人はほとんどいない」という状態になってから、それでも数年間生き続けた。ユーザーがいる限り収益は発生する。問題は、「維持することが目的化して、代替への移行を遅らせた」ことだ。

CHAdeMOはiモードと同じ死に方をすると思う。2035年頃に「完全終了」という節目が来るとすれば、その間の約10年間、CHAdeMO車を買ったユーザーは技術的には時代遅れのインフラを使い続けることになる。補助金で購入価格を押し下げられ、「国産車だから安心」と背中を押され、気がついたら「なぜ自分はCHAdeMO車を買ったのか」という後悔を抱える——そのリスクは現実として存在する。

補助金で作られた「安さ」には、かならず見えないコストが含まれている。

冒頭で「iモードのアクティブユーザー数が0になった」と書いた。正確には、2026年3月31日をもってサービス自体が終了したので、ユーザー数は「0」ではなく「測定不能」になった。最後まで使い続けた人たちの端末は、4月1日から文鎮になった。CHAdeMOが「終了」するとき、CHAdeMO専用車を持つオーナーの体験はもう少しマシだろう——車両としては走り続けられるから。しかし急速充電できる場所が一つずつ消えていく中で、「あのとき規格の話をちゃんと調べておけばよかった」と思う人が出ることは避けられない。その後悔を、今持って欲しい。

FAQ

CHAdeMOはいつ廃止されますか?

公式な廃止宣言はまだありません。ただし、マツダが2027年から国内向けBEVでNACSに移行し、ステランティスも2026年から移行を決定しています。新車搭載が減り、車両の自然減が進む2035年前後に「実質的な終わり」が来ると予測されます。

今CHAdeMO対応のEVを買っても大丈夫ですか?

SA/PAでの長距離移動を重視するなら、現時点では選択肢に入ります。ただし2028〜2030年以降の下取り価値に影響する可能性があります。NACS対応の次世代モデル(マツダ2027〜等)を待てるなら、待つほうが合理的です。

テスラのスーパーチャージャーはなぜSA/PAにないのですか?

高速道路SA/PAの急速充電器はe-Mobility Power(東電系)が98.7%を独占しており、CHAdeMO規格が前提となっています。公正取引委員会も2023年にこの独占状態を問題視しましたが、強制的な是正には至っていません。NEXCOの公募条件とCHAdeMO規格が一体化している限り、NACS規格の充電器がSA/PAに設置されることは難しい状況です。

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参考リンク