📝 2026年7月3日更新:6/30のTCMVは予定通り採決なし。次回は10月6日です。
EU全域承認の採決は早くて10月に。スウェーデンは4月30日付の書簡でTCMVに正式反対を勧告していたことも判明しました(Speed Offset機能が理由)。詳細は7月3日追記と各国ステータス一覧へ。
Table of Contents
テスラFSDオランダ承認の経緯と日本への影響

「2026年2月、欧州と中国でFSDが承認される。」
イーロン・マスクがダボス会議でそう発言したのは、2026年1月のことだ。中国政府は24時間以内に否定。欧州も2月が来て、3月が来て、何も起きなかった。そして4月10日、ついにオランダで正式承認が下りた。
結果的に、今回は本物だった。
テスラとFSD欧州展開の歴史を振り返ると、「楽観的な発表→期限直前に延期→また新しい日程発表」というサイクルが、2022年から足掛け4年にわたって繰り返されてきた。EU在住のテスラオーナーたちはそれを何度も経験し、「believe it when you see it(実際に見るまで信じるな)」という言葉が合言葉になっている。
では、今回の「4月10日」は何が違ったのか。
本稿では、この問いを振り返る。オランダ承認に至るまでの規制的・技術的経緯を整理し、承認後のEU展開のメカニズムを解剖し、そして日本のテスラオーナーにとってこの動きが何を意味するのかを考えてみたい。
最後に、「テスラFSDオランダ承認の経緯と日本への影響」で提起した問いに対する答えを振り返る。今回は本物だった。そして条件付きで承認が下りた。その経緯を、順を追って説明していく。
テスラとEU規制の4年戦争──延期の歴史

まず、歴史を整理しよう。テスラがFSDの欧州展開を「間もなく実現する」と言い始めてから、すでに4年が経過している。
| 時期 | テスラ/マスクの発言・行動 | 実際の結果 |
|---|---|---|
| 2022年夏 | 「まもなく欧州でFSD提供」とMusk発言 | 実現せず |
| 2024年末 | 「2025年初頭に欧州承認予定」 | 実現せず |
| 2025年11月 | Tesla Europe「RDWが2026年2月承認を確約」と投稿 | 翌日RDWが否定・訂正 |
| 2026年1月(ダボス) | Musk「2月中に欧州・中国で承認」 | 中国は24時間以内に否定、欧州も未達 |
| 2026年3月20日 | 元の承認予定日(Musk宣言) | 書類審査中につき延期。4月10日に変更 |
| 2026年4月10日 | RDW正式承認 | 承認確定 ✔ |
これだけ見ると、「また延期するんじゃないか」という疑念は極めて合理的だった。しかし、2026年3月の動きは過去の延期とは構造的に異なっていた。
過去の延期はすべて「まだ承認されていない」という事実が後から判明したものだった。テスラが「2月承認」と発表した翌日にRDWが否定したのが典型例だ。対して今回は、テスラが「最終テストフェーズを完了し、全書類を提出した」という具体的なマイルストーンを達成した上で、RDW自身が異例の公式声明を出して「審査の最終段階にある」と確認している。
「日程を急ぐことはしない」という言葉は、確かに不安要素ではあった。だが「審査の最終段階」という表現は、過去の延期局面では一度も出てきていなかった。これが今回の4月10日を「異質」にした最大の根拠であり、実際に承認は実現した。
なぜオランダなのか──Article 39 戦略の解剖

なぜテスラは「EUの一加盟国」であるオランダに、これほどのリソースを集中させてきたのか。その答えはArticle 39(EU型式承認例外措置)という規制の合法的な迂回路の活用にある。
テスラFSDが既存の枠組みに「ハマらない」理由
欧州で自動車の運転支援機能を認可するには、UN R-171(DCAS:ドライバーコントロール支援システム規制)への適合が必要だ。UN R-171は2024年3月にUNECE WP.29で採択された国際規制で、ハンズオフの車線維持や、システム主導の車線変更などを規定している。
問題は、UN R-171が「規則ベース」の枠組みであることだ。テスラのFSD(Supervised)はニューラルネットワーク(AI)が周囲の状況をリアルタイムで判断し、あらゆる道路状況に対応する。これを「決められた条件下でのみ動く」ことを前提とした規制に当てはめると、どうしても「はみ出す」部分が出てくる。
テスラはRDWとの18ヶ月の交渉を経て、「フル機能での規制適合は安全性を損なう」として規制の一部遵守を拒否した。その代わりに取った戦略が、Article 39(EU規則 (EU) 2018/858 第39条)の活用だ。
Article 39とは何か
Article 39は「まだ規制されていない新技術」について、加盟国が一定条件のもとで暫定的な国内承認を与えられる制度である。承認は最長18ヶ月(9ヶ月+9ヶ月延長)の暫定措置として発効し、その間に欧州委員会のTCMV(自動車技術委員会)で正式なEU規制を整備するかどうかを審議する。
テスラはこの制度を使い、オランダだけに限定した承認を取得し、そこからEU全体への波及を狙う「Netherlands First戦略」を構築した。
テスラが「初」ではない──BMW・Fordの先例
なお、先進運転支援システムの型式承認はテスラが初めてではない。RDWは公式声明で以下の先例を挙げている。
- BMW:高速道路でのハンズオフ走行+自動車線変更の承認を取得済み
- Ford(Blue Cruise):Article 39を通じて高速道路でのハンズオフ走行の承認を取得済み
RDWは「先進運転支援システムの型式承認は新しいことではない」「年間約5万件の型式承認を発行している」とも述べており、テスラのFSD承認は「前例のない特別扱い」ではなく、既存の制度を正当に活用したものであることを強調している。
18ヶ月間、テスラは何をやっていたのか
2024年秋から2026年3月にかけて、Tesla EuropeとRDWが実施したテストプログラムの規模は以下のとおりだ。
- EU17ヶ国の公道で 160万km超 のFSD走行テスト
- 1万3,000回超 の顧客向け同乗試乗(セールス・ライドアロング)
- 4,500件超 のトラックテストシナリオ
- 400以上 のコンプライアンス要件に対応する数千ページの文書
- 複数の安全性研究論文 の提出
2026年3月20日、Tesla EuropeはXで「RDWとともに、最終車両テストフェーズを正式に完了し、UN R-171承認およびArticle 39例外措置に必要な全書類を提出した」と発表した。RDWはこれを受け、異例の公式コメントで「現在、最終評価段階にあることは確認できる。安全性が最優先であり、最終決定を急ぐことはしない」と述べた。
承認後に何が起きるのか──EUドミノの仕組み

RDWの承認(4月10日確定)を起点に、EU全域への展開はどのように進むのか。3つのステップで解説する。
ステップ1:オランダ国内承認の発効
RDWはArticle 39に基づくオランダ国内の型式承認を発行した。これによりオランダ国内のテスラ車(HW4/AI4搭載)でFSD(Supervised)が利用可能になる。承認はFSD v14系(HW4向け)に限定されており、HW3のオーナーは対象外だ。
ステップ2:欧州委員会への申請と全加盟国投票
RDWは公式声明で、EU全域への展開には以下のステップが必要だと明示している。
- RDWが欧州委員会にEU全域での使用許可を申請
- 全加盟国が投票
- 責任ある委員会(TCMV)で特定多数決(27か国中15か国以上かつEU人口の65%)の賛成が必要
可決されれば、全加盟国で一括有効化される。つまり「国ごとの個別認識」ではなく、一度の投票でEU全域に適用される仕組みだ。Teslaは「2026年夏中にEU全域承認」を目標としているが、TCMVにはVW・BMW・ルノー・ステランティスなど欧州主要メーカー出身国の代表も参加しており、競争上の警戒から反対票が集まるリスクがある。
| ステップ | 時期(Tesla見込み) | 対象 |
|---|---|---|
| オランダRDW承認 | 2026年4月10日(承認済み ✔) | オランダ国内 |
| EU主要国の個別認識 | 2026年春〜初夏 | 各国個別 |
| TCMV多数決・EU全域承認 | 2026年夏(楽観シナリオ) | EU27ヶ国 |
| HW3向けFSD v14 Lite欧州展開 | 2026年Q4〜2027年 | HW3ユーザー |
※上表は2026年4月時点の見通し。最新状況は本稿末尾の追記セクション参照。
HW3ユーザーへの注意点
今回の承認対象はHW4(AI4)搭載車向けのFSD v14系に限定されている。HW3搭載の旧型モデル向けには「FSD v14 Lite」が2026年Q2(夏頃)に北米先行で提供される見通しだ。
日本への波及──オランダが「先例」になる日

2026年3月6日、新宿で始まったこと
Tesla Japan(テスラジャパン)は2026年3月6日、公式Xで「FSD(Supervised)を東京都新宿区でテスト。2026年に国内導入することを目標に開発を進めています」と発表した。テスラジャパンの橋本社長は日経新聞のインタビューで「2026年中に実装を目指す」と明言している。
日本の規制的ハードルと突破口
突破口として期待されているのが、2026年6月のUNECE「ADS新規則」の正式採択だ。「Safety Case」アプローチを採用しており、「人間より安全であることを実証できれば認可」という考え方に基づく。
さらに2025年10月、国交省が「特定改造制度」の枠組みを整備した。FSD認可が下りた際、国内の約4万台のテスラ車にOTAで一括配信できる法的根拠が整った。
| シナリオ | 条件 | 時期 |
|---|---|---|
| 楽観シナリオ | 2026年6月UNECE新規則採択→国交省が迅速に反映→テスラが安全データ提出 | 2026年秋〜冬 |
| 慎重シナリオ | UNECE採択後の国内反映に時間→日本特有の交通ルール対応データが追加必要 | 2027年以降 |
FSD v14.3──「推論機能」が変えるもの

欧州承認の話と並行して、ソフトウェア面でも重要な動きがある。2026年3月19日、イーロン・マスクはX上で「FSD v14.3は現在テスト中。数週間以内にワイドリリース」と投稿した。
v14.3の最大の特徴は、FSDの判断プロセスへのリアルタイム推論(Reasoning)機能の本格統合だ。v14.2系ですでに工事ゾーンでの迂回ルート変更や駐車オプションに推論機能が一部導入されていたが、v14.3ではこれが全域に拡張される。
| バージョン | ハード | リリース時期 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| FSD v14.2.2.5 | HW4のみ | 2026年3月現在の最新 | 推論機能の一部実装 |
| FSD v14.3 | HW4のみ | 数週間以内(4月頃) | 推論のフル統合、ナビ改善 |
| FSD v14 Lite | HW3 | 2026年Q2目標(北米先行) | v14の機能をHW3向けに最適化 |
リスクと懸念材料──無邪気に喜べない理由

NHTSA調査の拡大
米国では、NHTSAがFSD搭載の320万台に対し、霧・砂塵・逆光などの視界不良時の安全性を巡る調査を「Engineering Analysis」に格上げした。米国での調査がリコール勧告につながれば、欧州・日本での承認プロセスに影響が出る可能性は排除できない。
欧州メーカーのロビー活動
TCMVでの多数決には、欧州主要自動車メーカー出身国の代表も参加する。技術的な反論ではなく、政治的・産業政策的な論理で反対票が集まる可能性は現実にある。
テスラ欧州のブランド毀損
テスラの欧州登録台数は2025年に前年比約27.8%減少しており、2026年も下落傾向が続いている。FSD承認が即座の販売回復に直結するという楽観論には注意が必要だ。
Article 39の「時限措置」性
Article 39に基づく承認は最長18ヶ月(9+9ヶ月)の暫定措置だ。EU全域での恒久的なサービス継続には、最終的にUN規制への正式適合が求められる。
まとめ──「今回は本物」と言える根拠と、その条件

では冒頭の問いに戻ろう。「今回の4月10日は、過去の延期と何が違うのか」──初版で立てたこの問いに、追記セクションで答えが出た。その上で、当初の分析が正しかった根拠を改めて整理する。
違いは3つある。
第1に、テスラが「全書類提出完了」という具体的なマイルストーンを達成した。今回は審査の「入口」ではなく「出口」に立っている。
第2に、RDWが自ら「最終評価段階にある」と公式に確認した。規制当局がコメントすること自体が異例であり、それを「最終段階」と表現したことは、過去の延期局面では一度もなかった。
第3に、承認対象が「FSD v14(HW4車両)のみ」という具体的な絞り込みがされている。全車種・全バージョンへの一気展開ではなく、実証データのある範囲に限定した現実的な申請だ。
最終的に言えるのは、「今回は構造的に前回までと違う」ということだ。4年間の「延期の歴史」が今回初めて、書類提出完了という具体的な成果を伴っている。「見るに値するフェーズ」に初めてたどり着いたのも、また事実だ。
4月10日、私たちは注視する──そう書いたのが本稿の初版だった。そして実際に承認は実現した。延期の歴史がようやく、ひとつの区切りを迎えた。
※ 2026年4月10日のRDW承認以降の動向(EU各国の追随・停滞、HW3集団訴訟など)は、本稿末尾の「追記」セクションにて随時更新しています。本まとめは2026年4月10日時点の総括であり、追記内容を反映した再評価は次回の大きな節目(TCMV投票、UNECE ADS新規則採択など)でまとめて行う予定です。
【2026年4月10日追記】RDW承認確定と前後の動き
2026年4月10日、オランダの車両認証機関RDW(Rijksdienst voor het Wegverkeer)は、テスラのFSD(Supervised)をArticle 39に基づき正式に承認した。2022年夏に「まもなく欧州でFSD提供」とMuskが発言して以来、足掛け4年。延期に延期を重ねた末に、ついに「believe it when you see it」の瞬間が訪れた。
本稿の冒頭で「今回は本物だと思う。ただし、条件がある」と書いた。そして実際に、条件付きではあるが承認は実現した。「全書類提出完了」「RDWの最終評価段階」という2つの過去にないマイルストーンが、予測の正しさを裏付けた形だ。
承認対象はHW4(AI4)搭載車向けのFSD v14系に限定されている。HW3ユーザーは引き続き「FSD v14 Lite」の提供を待つ必要がある。
Tesla Europeは承認発表のXポストで「FSD Supervisedはオランダで承認され、間もなく国内でのロールアウトを開始する」と明言した。オランダ国内のAI4搭載車へのOTA配信が数週間以内に始まる見通しだ。
RDW公式声明の要点──EU版FSDは米国版と別物
RDWは承認と同日に発表した公式声明で、重要な点を明確にしている。
第1に、EU版FSD Supervisedは米国版とは異なるソフトウェアである。RDWは「米国と欧州の車両のソフトウェアバージョンおよび機能は1対1で比較できない」と明言している。欧州では米国のようなメーカー自己認証制度ではなく、車両認証機関による事前の型式承認が必要であり、安全・環境基準がより厳格だ。米国でのFSD報道やレビューをそのまま欧州版に当てはめることはできない。
第2に、厳格なドライバー監視が組み込まれている。FSD Supervised有効時、複数のセンサーがドライバーの目が道路に向いているか、手がすぐハンドルを握れる状態かを常時監視する。手はハンドルに置く必要はないが、必要時に即座に握れる状態であることが求められる。注意力不足を検知すると段階的にアラートが作動し、それでも反応しない場合はシステムが一時的にロックされる。RDWは「新聞を読みながら運転することは許可されていないし、不可能」と明言している。
第3に、RDWはこのシステムの安全性を積極的に評価している。「このシステムは複数の運転タスクを引き受けるため、正しく使用すれば交通安全に積極的に貢献する」「継続的な厳格なドライバー監視により、他の運転支援システムよりも安全である」と述べている。ただし「FSD Supervisedは自動運転車ではない。ドライバーが常に責任を負い、交通に参加し続けなければならない」という点も改めて強調されている。
EU夏ロールアウト──ドミノ効果の詳細
オランダ承認の確定により、本稿で解説した「EUドミノ」のステップ2に進むことになる。RDWの公式声明によれば、RDWが欧州委員会に申請し、加盟国投票で特定多数決(27か国中15か国以上かつEU人口の65%)の賛成を得れば、全EU加盟国で一括有効化される。
Tesla Europeは「2026年夏中にEU全域承認の可能性がある」としており、バークレイズのアナリスト、ダン・レヴィ氏も「他のEU諸国はオランダの承認を認めることができ、夏の間にEU全域での承認が可能となる」とコメントしている(Investing.com)。ドイツ・フランス・ベルギー・スペイン・イタリアなどが夏までに段階的に承認を認識するシナリオが現実味を帯びてきた。
ただし、前章「承認後に何が起きるのか」で述べたとおり、TCMV(自動車技術委員会)での多数決によるEU全域の正式承認は別のハードルだ。欧州主要自動車メーカー出身国の代表による政治的反対のリスクは残っている。楽観シナリオでは夏中、慎重に見ればQ3末〜Q4という見方もある。なお、承認当日時点でこのTCMVへの申請プロセスはまだ開始されていない(EVXL)。同メディアは「EU全域承認はQ4 2026が最速、ドイツ・フランスは個別の国内審査を要し2027年にずれ込む可能性が高い」とより慎重な見通しを示している。
また、ノルウェーはEU加盟国ではないが、2年間のFSDテスト許可をすでにテスラに発行しており、オランダ承認のデータを活用して独自の国内承認に進む可能性が高い。英国も規制協力の枠組みの中で追随が見込まれるが、独自の審査プロセスが必要であり、2027年以降になるとの見方が多い。
非公式FSD無効化の動き──テスラが「ジェイルブレイク」を一斉取り締まり
オランダ承認の前日にあたる4月9日、テスラは欧州・中国・日本・韓国・英国など世界各地で、サードパーティ製デバイスを使って非公式にFSDを有効化していた車両に対し、リモートでFSD機能を無効化する措置を開始した(Tarantas News、Teslarati)。
これらの「ジェイルブレイク」ツールは、約500ユーロのUSBモジュール型デバイスで、車両のCANバスに接続してFSDを強制的にアンロックするものだ。ポーランド・ウクライナなどで配布され、中国だけで10万台以上にインストールされていたとされる。
テスラはOTAアップデートを通じてFSD機能を無効化し、車内通知とメールで以下のような警告を送信している。
「お客様の車両で、許可されていないサードパーティ製デバイスが検出されました。安全上の予防措置として、一部の運転支援機能を無効化しました。」
一部のケースではFSDの永久無効化も報告されている。正規にFSDを購入済みのオーナーであっても、非公式デバイスの使用が検出された場合はアクセスを失う可能性がある。
この動きは、オランダ承認のタイミングと無関係ではない。非公式にFSDが使用されている状態は、規制当局の認証プロセスを複雑にするリスクがあるため、テスラは正式な承認取得に先立って「クリーンな状態」を確保する必要があった。正規ルートでの欧州展開が現実化した今、グレーゾーンの排除は合理的な判断と言えるだろう。
【2026年4月19日追記】承認後1週間で見えてきたこと
RDW承認から約1週間。本稿が解説したArticle 39戦略とEU 相互承認の実効性が、非対称な形で試され始めている。追随・停滞・訴訟という三つの動きを簡潔にまとめる。
🟢 追随の動き
承認翌日の4月11日、オランダのHW4搭載車にソフトウェアバージョン2026.3.6のOTA配信が即日開始された。ベルギーはFlemish州政府がFSD実装検討を正式表明し、EU域内では最も早い追随候補に浮上している。さらにテスラのAI責任者Ashok Elluswamy氏が4月13日に、UNECE加盟56カ国(日本・韓国を含む)への波及可能性に言及している。これは「EU承認が日本認可のレファレンスになり得る」という本稿の主張の裏付けとなる発言だ。
🟡 意外な停滞——ノルウェーの冬
対照的に、ノルウェー公道交通局(SVV)は4月14日、北欧の冬環境への適合データ提出を要求するという慎重姿勢を表明した。本稿の初版ではノルウェーを「オランダ承認データを活用して独自の国内承認に進む可能性が高い」と予測したが、実態はより段階的なプロセスになりそうだ。EU 相互承認は自動で適用されるわけではないことを示す早期の事例といえる。
🔴 HW3訴訟の立ち上がり
本稿の「HW3ユーザーへの注意点」で触れた懸念が、想定より早く現実化した。4月14日、オランダのMischa Sigtermans氏がhw3claim.nlを立ち上げ、HW3でFSDを購入したEUオーナーを束ねる集団訴訟の準備を開始。1週間で29カ国から約3,000人が登録し、FSD購入額換算で€6.5M(約11億円)規模に達している。4月17日にはテスラへの問い合わせに「Just be patient(ただ待て)」との回答が返り、騒動が拡大。「リスクと懸念材料」章で論じた「無邪気に喜べない理由」のうち、HW3問題が最も早く火を噴く論点として顕在化した格好だ。
引き続き経過をウォッチし、大きな動きがあれば随時追記する。特に5月のTCMV多数決と6月のUNECE ADS新規則採択は、本稿の核心フレーム(Article 39→EU全域→国際標準化)の最終検証点となる。
【2026年5月6日追記】Reutersが暴いた当局の本音
5月5日(CET)、Reutersが情報公開請求で入手したEU規制当局の内部メールを公開した。Muskが繰り返してきた「EUは間もなく承認する」という確信に対し、当局側の本音は明らかに違う。本稿のリスクと懸念材料章で挙げた条件のうち、技術評価面での詰めが想定より重くなる可能性が浮かび上がった。
🟡 5月のTCMV採決は予定されていない
4月19日追記で「5月のTCMV多数決」を最終検証点と書いたが、これは事実上後退している。5月5日の委員会公聴会はオランダ当局がRDW承認の根拠を説明する場にとどまり、今週中の採決はない。次回会議は7月と10月。承認には加盟国数55%・人口65%の二重多数決という高い閾値があり、初回採決すら数カ月先送りされる構図だ。テスラが機密プレゼンで示した「Q2〜Q3 2026のEU承認」というタイムラインは、規制当局の往復書簡を追う限り現実的でない。
🔴 技術懸念は速度・冬・スマホ・二輪に及ぶ
Reutersが入手した内部メールには、複数の具体的な技術懸念が並ぶ。スウェーデン運輸庁の調査官Hans Nordinは4月15日のメールで、FSDが法定速度超過を許容している点について「率直に驚いた」と書面で記し、欧州交通法では認められるべき挙動ではないと指摘した。フィンランドのJukka Juhola氏は「凍結した時速80kmの道路でハンズフリー運転を許す気か」と問い、北欧諸国はトナカイ・ヘラジカへの対応にも触れている。RideApartが1月に問題提起したように、FSDが二輪車を確実に検知できないという根本課題は未解決のまま。二輪車比率が米国より高い欧州市場では、北欧の冬同様、米国走行データだけでは詰めきれない論点として浮上している。
共通する論調は「テスラの安全性主張は米国走行データに偏重しており、EUの交通環境への適合検証が不足している」という点だ。FSDが米国基準で十分でも、EU設計思想で十分とは限らない——本稿の「Article 39戦略の解剖」で触れたEU基準のローカリティ問題が、制度面に降りてきたといえる。
🟠 ユーザー動員ロビーが逆効果に
規制当局のメールには、テスラのロビー戦術への苛立ちも明確に記録されている。オランダ承認発表からわずか4日後にスウェーデン当局へテスラのポリシーマネージャーが承認働きかけに動いていたこと、ユーザーに自国政府への圧力を呼びかける広報戦術が当局側の不信を強めていることが読み取れる。RDWのBernd van Nieuwenhoven局長が「私たちは徹底的にテストした、信じてくれと言うしかない」と説明する一方で、他国当局のスタンスは対照的だ。承認の説得材料が「ユーザー動員」と「他国先行事例」に偏りすぎると、Article 39の理念(独立した技術評価)と摩擦を起こす。
本稿のEUドミノの仕組み章で書いた「相互承認は自動で広がるわけではない」が、想定より早く、そしてより明確に裏付けられた格好だ。次の節目は7月と10月のTCMV会議。本稿の核心フレーム(Article 39→EU全域→国際標準化→日本への波及)が機能するか否かは、この二回でほぼ確定する。引き続き追記する。
【2026年5月20日追記】リトアニアが”相互承認”初適用
RDW承認から約40日。本稿の核心フレーム「Article 39→EU 相互承認→国際標準化」のうち、第2段階の相互承認が初めて実体を持って機能した。リトアニアが2026年5月18日付で、EU2か国目としてFSD Supervisedを承認した(公表とロールアウト開始は5月20日)。
🟢 リトアニアが相互承認で承認、即日ロールアウト
LTSAは2026年5月18日付で承認プロセスを完了し、リトアニア運輸通信省と運輸安全庁(LTSA)がRDWの欧州型式承認を相互承認方式で受け入れた。公表は5月20日で、同日中にTesla EuropeがX上で「FSD Supervised Now in Lithuania」とロールアウト開始を確認した(Teslaへの通知も5月20日だったと報じられている)。価格はEU共通の月額€99、Enhanced Autopilot既購入者は€49。買い切りは2026年2月に世界的に廃止されているため、リトアニアでもサブスク専用となる。
注目すべきは独自テストを経ていない点だ。RDWが2026年4月10日にv14.3向けに付与した型式承認を、リトアニア側はそのまま受け入れた。これは本稿「EUドミノの仕組み」章で書いた「相互承認」が、想定通りに機能した最初の実例である。
🟡 ノルウェー(停滞)との対照——フレームの妥当性が試される
4月19日追記で扱ったノルウェーの停滞と並べると構図が見えやすい。ノルウェーはEU非加盟国であり、SVV(公道交通局)が「北欧の冬環境への適合データ提出」を要求した。一方リトアニアはEU加盟国で、Article 39の枠組みの中で動いた。同じ「他国の承認データを参考にする」立場でも、EU加盟か否か・追加要件の有無で結果が分かれる。
つまり本稿のフレーム「Article 39→EU全域→国際標準化」は、EU内部では機能することが実証されつつある。一方でEU外(ノルウェー、英国、日本など)への波及は別ロジックであり、独自審査プロセスが介在する。リトアニア承認はフレームのEU内有効性を補強した一方、EU外への自動波及は引き続き慎重に見るべき、という整理になる。
🔵 次の焦点はTCMV(7月・10月)
リトアニアは「相互承認」段階での1か国追加に過ぎず、EU27か国全域での一括承認にはTCMV(自動車技術委員会)での加盟国数55%・人口65%の二重多数決が必要だ。Tesla内部目標は2026年Q2-Q3のEU全域承認とされるが、5/6追記で書いた通り5月のTCMV採決は後ろ倒しになっており、次回は7月と10月。Reuters報道で露呈した規制当局側の技術懸念(速度・冬季・スマホ・二輪検知)が委員会でどう扱われるかが、フレームの最終検証点となる。
リトアニアの後に続くEU加盟国が現れるかも観察ポイント。Flemish州政府が表明していたベルギーの動きも含め、TCMV採決前の「相互承認ドミノ」がどこまで広がるか、引き続き追記する。
【2026年5月29日追記】エストニアがEU3か国目
リトアニアの承認から9日。2026年5月29日、エストニア運輸局がRDWの欧州型式承認を相互承認し、欧州で3か国目としてFSD(Supervised)を公道で許可した。Tesla Europeは「FSD Supervised now approved in Estonia. Rollout will begin soon.」と告知。リトアニアの「即日ロールアウト」とは異なり、エストニアは「承認済み・ロールアウトは近日」という段階だ。
🟢 エストニア承認の事実——2017年からの自律走行実績が下地
エストニアもリトアニアと同じく、EU規則2018/858に基づきRDWの暫定型式承認を独自テストなしで相互承認した。エストニア運輸局はFSDをSAEレベル2の運転支援システムと位置づけつつ、「ドライバーは常に安全かつ交通法規に則った運行に全責任を負い、必要時には即座に制御を引き継げる状態でなければならない」と釘を刺した。
注目すべきは、エストニアが「2017年から自律・遠隔操作車両が公道を走ってきた実績があり、FSD許可はその論理的な延長だ」と説明した点だ。相互承認は単なる手続きの追認ではなく、各国の既存の自動運転受容度が後押しになっている。これでFSD(Supervised)が使えるのは、米国・カナダ・メキシコ・プエルトリコ・豪州・NZ・韓国・オランダ・リトアニア・エストニアの10地域となった。
🟡 二極化——相互承認で進む小国 vs EU決定を待つ大国
リトアニア(5月)→エストニア(5月29日)と続いたことで、相互承認はもはや「初適用の例外」ではなく「反復されるパターン」になった。一方で、EUの主要市場はまったく別の動きを見せている。
フランスは欧州委員会のレビュー完了まで認可しないと明言。イタリアも同様にEUレベルの決定を待つ姿勢だ。スウェーデンは「新造車両に限り許可」の可能性を示唆し、既存オーナーのカバレッジに疑問符をつけた。ノルウェーは北欧の冬条件がオランダの審査でどう扱われたかを精査中。ベルギー(フランデレン)は初期スクリーニングを通過したが、限定的な追加テスト段階にとどまり、正式承認には至っていない(→その後6月10日に承認、6/11追記参照)。
つまり構図は明確だ。バルト諸国のような機動的な小国は相互承認でサッと進み、独仏伊のような大国は「EU全体の正式決定」を待つ。本稿の核心フレーム「Article 39→EU全域→国際標準化」のうち、第2段階の相互承認はEU内で着実に積み上がっている。しかし”EU全域”の一括承認こそが依然として最大のボトルネックである、という当初の見立てが、むしろ補強される展開だ。
🔵 TCMV次回は6月30日に前倒し確定
EU全域での一括承認に必要なTCMV(自動車技術委員会)の特定多数決は、27加盟国中15か国かつ人口65%の賛成を要する。5月6日追記の時点では「次回は7月と10月」とされていたが、その後次回会合は6月30日に前倒しで確定した(その次は10月)。なお5月5日の第117回会合では、RDWがArticle 39ファイルを1時間枠で提示したが採決は行われていない。
相互承認による国別の積み上げ(オランダ→リトアニア→エストニア)と、TCMVによるEU一括承認は別トラックで並走している。6月30日の会合で大国群が動くのか、それとも相互承認ドミノだけが先行するのか——本稿フレームの最終検証点として、引き続き追記する。
なお、オランダ承認後の各国の動きと承認の名目は、本稿末尾の📊 欧州各国FSDステータス一覧(オランダ承認後)に集約した(随時更新)。
【2026年6月9日追記】6/30 TCMVに採決なし
EU全域承認の最大の節目と見られていた6月30日のTCMV(自動車技術委員会)会合で、FSD案件は採決にかけられない見通しとなった。Teslaが目標としていた「2026年夏のEU全域提供」は、秋以降へ後退する。
🔵 6/30議題は「議論の継続」、採決は別案件のみ
EV専門メディアCARBA(electric-vehicles.com)が6月8日に報じたところによると、欧州委員会が公表した第118回TCMVの議題ドラフト(6月4日付)では、オランダのArticle 39承認要請は項目8に「議論の継続(Continuation of discussions)」として記載され、14:40〜15:30の50分枠が割り当てられている。同じ議題の他2件(車載バッテリー耐久性・ブレーキ粒子排出)は「最終審査と採決(final examination and vote)」と明記されたが、FSD案件はそうではない。つまり6月会合では採決せず、レビューを継続する。現時点でこの議題内容を報じているのはCARBAのみだが、一次資料(欧州委の公表ドラフト議題)に基づく具体的な記述である。
🟡 背景にある北欧4カ国の反対
慎重なペースの背景には、複数の加盟国の懸念がある。Reuters報道のメールによれば、スウェーデン・フィンランド・デンマーク・ノルウェーの規制当局がFSDに懐疑的な姿勢を示している。懸念の中心は、速度制限の扱い、凍結路面での挙動、そして「Full Self-Driving」という名称が能力を誇張していないか、という3点だ。これらの国の票は、特定多数決(27カ国中15カ国かつ人口65%)において決定的になりうる。なおノルウェーはEEA加盟国でTCMVの投票権はないが、質問の提出は可能で、北欧条件への配慮を質す方針を表明している。スウェーデンの運輸当局は速度超過を許容する設計に疑問を呈し、ウプサラの地域当局はTeslaの公道テスト要請を安全上の懸念から拒否した。
🟠 タイムラインは秋以降へ、ただし相互承認ドミノは別トラック
委員会は数カ月に一度しか開催されないため、6月30日に採決がないと、次の機会は秋以降にずれ込む。一部の業界トラッカーはEU全域承認が2027年第1四半期まで遅れると予測しているが、これは確定情報ではない。重要なのは、仮にTCMVで否決されても、すでに付与された承認(オランダ・リトアニア・エストニア)は無効化されない点だ。各国は独自の相互承認を続けられる。EU全域の一括承認(harmonization)と、国別の相互承認ドミノは別トラックで並走しており、後者は前者の停滞とは独立して進みうる。
本稿フレーム「Article 39→EU全域→国際標準化」のうち、第3段階の入口にあたる”EU全域”が、改めて最大のボトルネックであることが裏付けられた。次の焦点は秋のTCMV会合となる。引き続き追記する。
【2026年6月9日追記②】デンマークがEU4か国目
同じ6月9日、もう一つの動きがあった。デンマークがFSD(Supervised)を暫定承認し、欧州で4か国目となった。注目すべきは、デンマークが直前まで「反対陣営」に数えられていた国だという点だ。二極化の構図は、単純な賛成国vs反対国では割り切れない。
🟢 デンマークが独自レビューを経て相互承認
デンマーク道路交通局(Færdselsstyrelsen)は6月9日(火)、FSD(Supervised)を「デンマークでの使用を暫定承認」したと声明で確認した。Teslaは近日中に現地顧客へのロールアウトを開始するとしている。オランダ(4/10)→リトアニア(5/20)→エストニア(5/29)→デンマーク(6/9)と、約8週間で4か国目。いずれもオランダのRDW承認をEU相互承認で受け入れる経路だが、デンマークは「オランダ承認の根拠資料を含む広範な技術文書を自ら精査した上で受け入れた」と説明しており、単なる追認ではない独自レビューを挟んでいる。
🟡 反対陣営からの「離脱」——二極化は南北対立ではない
ここが今回の核心だ。デンマークは、Reuters報道のメールでFSDへの懸念を示した北欧諸国(スウェーデン・フィンランド・ノルウェー・デンマーク)の一角として名指しされていた。懸念の中心は速度制限の扱い、凍結路面での挙動、「Full Self-Driving」という名称の誇大性だった。その当事国が、EUレベルで留保を表明しながら、国内では承認に踏み切った。
これは本稿が描いてきた「相互承認で進む小国 vs EU決定を待つ大国」という二極化が、単純な地理的・政治的ブロック(南欧vs北欧、大国vs小国)では割り切れないことを示す。同じ北欧でも、デンマークは国別承認(独自レビュー+相互承認)を選び、スウェーデン・フィンランド・ノルウェーはEUレベルでの慎重姿勢を維持している。国別トラックとEU一括トラックの選択は、各国が「自国の判断で先に進むか、EUの結論を待つか」という個別の意思決定であり、ブロック単位では動いていない。
🔵 失効リスク——EU一括承認が拒否されれば連鎖崩壊
ただし、国別承認は盤石ではない。デンマーク当局自身が率直に述べている。仮に欧州委員会がFSDを拒否した場合、オランダの暫定承認は6か月後に失効し、それに伴いデンマークの承認も失効する。その時点でFSD(Supervised)はEU諸国で「販売もマーケティングもできなくなる」。つまり国別承認のドミノは、おおもとのオランダ承認とEU一括承認の判断に運命を握られている。先行する4か国は「EUが拒否しない限り有効」という条件付きの承認を積み上げているにすぎない。
6月30日のTCMVは採決なし、最短の採決は10月か12月、EU全域承認は2027年初頭にずれ込む可能性もある。国別承認ドミノが4か国まで伸びる一方で、その土台となるEU判断は宙吊りのまま。次の焦点は秋のTCMV会合となる。引き続き追記する。
【2026年6月11日追記】ベルギーがEU5か国目
デンマークの翌日、6月10日。フランデレン政府のアニック・デ・リッダー モビリティ大臣が「たった今、承認にサインした」とXで発表し、ベルギーが欧州5か国目のFSD承認国となった。承認間隔はついに「1日」まで縮んだ。
🟢 フランデレンの署名で全国承認——連邦制の建付け
デ・リッダー大臣は6月10日、署名済み承認文書の写真とともに発表した(Reutersも確認)。ベルギーは3地域(フランデレン・ワロン・ブリュッセル)が車両認可権限を分有する連邦制だが、1地域で付与された認可は全土で有効という建付けで、フランデレンの署名がベルギー全体をカバーする。大臣自身も後続ポストで全土適用を明言した。
下地はあった。フランデレンは5月、約5,000kmの現地検証走行(トラム軌道、自転車街路、ベルギー固有の標識、工事区間)をTeslaに課し、完了済み。署名を受けて認可部門がオランダRDWへ通知する最終事務手続きに入っており、ロールアウトは数日内と見られる。
🟡 承認間隔は40日→1日——「小国の例外」では説明がつかない
ドミノの速度を数字で見る。オランダ(4/10)→リトアニア(5/20)は40日。→エストニア(5/29)は9日。→デンマーク(6/9)は11日。→ベルギー(6/10)は1日。
そして本稿の「相互承認で進む小国 vs EU決定を待つ大国」フレームは、ベルギーで再び修正を迫られる。人口1,170万のEU原加盟国、EUの首都ブリュッセルを抱える国だ。バルト小国の例外でも、デンマーク型の「反対陣営からの離脱」でもない。西欧コアの一角が、EUの結論を待たずに署名した。二極化の軸は「国の大きさ」から「待つ理由があるか、ないか」へ移った。フランス・イタリア・ドイツが待っているのは、EUの結論というより国内の段取りなのかもしれない。
🔵 次のウォッチ——舞台はジュネーブ(6/24)とブリュッセル(6/30)へ
国別ドミノが回る一方、上位レイヤーの動きも山場を越えた。6月24日、ジュネーブのWP.29第199回会合でADS新規則・R171(DCAS)02シリーズ・R79改訂が一斉採決された。採決結果と日本への含意は日本解禁記事の追記で詳報している。6月30日にはTCMV——こちらは採決なしの継続討議が控えている(前回追記参照)。
足元のドミノ候補も挙げておく。6月4日のCVPRでTeslaのAI責任者Elluswamyが示した承認待ち国リストでは、ラトビアが承認間近と噂され、アイルランドは当局協議中。次の1枚は近い。
【2026年7月3日追記】6/30 TCMVは採決なし、次回は10月6日
6月30日、第118回TCMVがブリュッセルで開催された。6月9日追記で報じた通り、FSD案件は「議論の継続」扱いで採決は行われなかった。会合は非公開のため議論の中身は現時点で報じられていないが、周辺で確定した事実が2つある。次回会合の日付と、スウェーデンの正式反対だ。
🟠 次回TCMVは10月6日、採決の現実的な最初の機会
夏休み明けの次回TCMVは10月6日に開催される。FSD承認状況を追跡するRoland Pircher氏は7月1日、「採決が行われると見込むのはこの回」と投稿した。6月9日追記で「最短の採決は10月か12月」と書いた見通しのうち、前者の具体日付が確定した形だ。Teslaの当初目標「2026年夏のEU全域提供」からは約3か月以上の後退となる。
なお同じ週にはMVWG(自動車作業部会)の技術検討も予定されており、速度挙動・冬季性能などの未解決論点はこちらで詰められる。またドイツで実施されていたFSDテスト走行・同乗プログラムは6月30日で期限を迎えており、延長の可否が当面の観察ポイントになる。
🔴 スウェーデンが正式反対を勧告していた
もう一つの確定事実は、スウェーデンの立場が「懸念表明」から「正式反対」へ格上げされていたことだ。スウェーデン運輸当局は4月30日付のTCMV宛書簡で、「自動システムに法定速度の組織的な超過を許すこと」は欧州の道路安全基準と相容れないとして、EU全域展開への反対を勧告していた。名指しされたのはSpeed Offset機能——法定速度を上回る速度をドライバー設定で許容する設計だ。
5月6日追記で報じたReuters報道の内部メール(「率直に驚いた」)の段階では非公式の懸念だったが、書簡による正式勧告となると重みが違う。特定多数決(27カ国中15カ国・人口65%)では独仏伊の人口大国の票が決定的であり、正式反対国が具体的な技術要件(Speed Offsetの無効化など)を突きつけている構図は、10月採決の不確実性を高める。一方でTeslaにとっては、OTAでSpeed Offsetを欧州向けに無効化するという対応余地も残されている。
国別承認は5か国(蘭・リトアニア・エストニア・デンマーク・ベルギー)で有効なまま、EU一括承認の土台は10月6日へ持ち越し。本稿フレームの最終検証点も同日に更新される。引き続き追記する。
【2026年7月3日更新】📊 欧州各国FSDステータス一覧(オランダ承認後)
オランダのRDW承認(2026年4月10日)以降、欧州各国がどう動いたかを一覧にまとめる。最終更新:2026年7月3日。本表は更新時点のスナップショットであり、リアルタイムの認可状況は専門トラッカーTesla FSD ニュースウォッチ・認可トラッカーで随時更新している。
承認の「名目」は大きく3類型に分かれる。①原型式承認=オランダのみ。RDWが独自審査し、UN規則171に基づきArticle 39例外(EU規則2018/858)を付与した”原承認”。②相互承認=他国の型式承認を独自テストなしで受け入れる方式(リトアニア・エストニア)。③立法ルート=オランダの認証枠組みに準拠する法案を通す方式(ギリシャ)。一方、独・仏・伊といった大国は①〜③のいずれも使わず、EU全域の一括承認(TCMV投票)を待つ姿勢を取っている。
| 国 | 状態 | 日付 | 承認の名目(法的根拠) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 🇳🇱 オランダ | ✅ 承認済 | 2026/4/10 | ①原型式承認:UN R171+Article 39例外(EU規則2018/858) | EU初。全加盟国が参照する原承認。RDWが18か月・160万km実走で独自審査 |
| 🇱🇹 リトアニア | ✅ 承認済 | 2026/5/18 | ②相互承認(EU規則2018/858) | 蘭承認を独自テストなしで受入。公表・OTA開始は5/20。2か国目 |
| 🇪🇪 エストニア | ✅ 承認済 | 2026/5/29 | ②相互承認(EU規則2018/858) | 3か国目。2017年からの自律走行実績を根拠。ロールアウトは近日 |
| 🇩🇰 デンマーク | ✅ 承認済 | 2026/6/9 | ②相互承認(EU規則2018/858)+独自レビュー | 4か国目。反対陣営から承認側へ転換。ロールアウトは近日 |
| 🇬🇷 ギリシャ | 🟡 法案準備 | 未定 | ③立法ルート:蘭の認証枠組みに準拠する法案 | アテネでオペレーター採用=データ収集開始のサイン |
| 🇧🇪 ベルギー | ✅ 承認済 | 2026/6/10 | ②相互承認(フランデレン署名が全土に有効) | 5か国目。5,000km現地テスト完了が下地。ロールアウトは数日内 |
| 🇪🇸 スペイン | 🟡 進行中 | 未定 | 国別承認/国内テストを進行中(詳細未確認) | CARBA報道で進行中グループに列挙 |
| 🇮🇪 アイルランド | 🟡 進行中 | 未定 | 運輸省が5/10、TeslaがNSAI等と承認協議中と確認 | 当局確認済み。承認時期は未定 |
| 🇫🇷 フランス | 🔴 EU決定待ち | — | 相互承認を使わず、欧州委レビュー完了まで認可しないと明言 | 大国はEU一括承認待ちの姿勢 |
| 🇮🇹 イタリア | 🔴 EU決定待ち | — | EUレベルの決定待ちと表明 | 同上 |
| 🇩🇪 ドイツ | 🟡 レビュー/テスト中 | — | 国別承認/国内テストをレビュー中(詳細未確認) | 主要市場。CARBA報道で進行グループに列挙 |
| 🇸🇪 スウェーデン | 🔴 正式反対 | — | 4/30付書簡でTCMVにEU全域展開への反対を勧告(Speed Offset機能が理由) | 「新造車両のみ許可」示唆は暫定情報のまま |
| 🇳🇴 ノルウェー | ⚠️ 慎重 | — | 北欧の冬条件が蘭審査でどう扱われたか精査中 | EEA加盟・TCMV投票権なし(質問は可) |
| 🇫🇮 フィンランド | ⚠️ 慎重 | — | 瑞・諾とともにFSDに懐疑的(速度・凍結路・名称) | Reuters報道。特定多数決で決定的になりうる |
※状態凡例:✅承認済/🟡進行中/🔴EU決定待ち/⚠️慎重/❓未表明。日付「—」は未承認・未定。本表は承認国の増加に応じて随時更新する。なお6月30日のTCMV会合は採決なしで終了し、次回会合は10月6日(EU全域承認の採決はこの回が現実的な最初の機会)。ドイツ・アイルランド・スペインの進行状況、スウェーデンの「新造車両のみ」条件は単独ソース(CARBA)に基づく暫定情報のため、確定次第アップデートする。
FAQ
テスラFSDのオランダ承認は「確定」なのか?
オランダで承認が下りたが、日本でもすぐ使えるようになるのか?
HW3搭載の旧型テスラはどうなるのか?
FSD(Supervised)は「自動運転」なのか?
最新情報はどこでチェックすればいいですか?
tesla.lounges.site)で、世界19地域の認可マトリクス、規制動向、1時間ごとのニュース自動収集を確認できます。
テスラ日本シリーズ
本記事は、テスラの日本市場を3つの視点で読み解くシリーズの一本です。全体像は「日本でテスラはキャズムを越えたのか」(Pillar記事)から読み始めるのがおすすめです。
【柱A:規制・建付け】——4軸ねじれ論と建付け3層構造
- テスラFSDは日本でいつ解禁?UN-R79規制と2026年の展望
- 本記事:テスラFSDオランダ承認——Article 39戦略とEU展開の実際
- テスラ車載Grok、なぜ日本だけ来ない?——規制・データ・建付けの3層構造
- Tesla FSDはどこで走れるのか|世界19地域の認可マトリクス
【柱B:市場戦略】——ボウリングピン戦略の日本文脈化
【柱C:企業分析】——3階建てモデル(地層沈降モデル)
参考リンク
- Toelichting RDW op Europese typegoedkeuring Tesla(RDW公式声明)
- RDW explanation of European type approval Tesla(RDW公式声明・英語版)
- Tesla gets FSD Supervised approved in the Netherlands — here’s what it means(Electrek・承認後)
- Tesla FSD Supervised Clears The Netherlands — Now The Real Test Begins(EVXL・承認後分析)
- Tesla delays FSD approval in Europe again, now expects April 10(Electrek)
- Netherlands Authority Confirms Tesla FSD Is in Final Approval Stage(Not a Tesla App)
- Tesla closes in on European approval for FSD Supervised(The Driven)
- Elon Musk reveals date of Tesla FSD’s next massive release: v14.3(Teslarati)
- テスラ、日本でAI自動運転「26年実装目指す」(日本経済新聞)
- 冷静に考えて、テスラの「日本で自動運転」は実現する?(自動運転ラボ)
- テスラ、オランダでのFSD承認を間もなく取得見込み、EU全域展開へ(Investing.com)
- Tesla disables FSD in Europe after unofficial activation(Tarantas News)
- Tesla hits FSD hackers with surprise move(Teslarati)