📝 更新情報
- 2026年9月1日追記:Spokenlyの推奨はScribeに変わったが、常用はSoniox Realtimeに戻した。Aquaは有料終了後に再評価できず、外した。 → 該当箇所
- 2026年7月10日更新:Typeless 2.0を実測。プライマリーがTypeless 2.0に交代。7月12日、Willow Frontier Mini/Proを追記。 → Typeless 2.0 / → Willow
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はじめに

課金ボタンの前で、指が止まった。
Aqua Voiceのトライアルがもうすぐ切れる。月8ドル。払えない額ではない。むしろ、この原稿も、メールも、Slackも、最近の文章はほとんど口で書いている。キーボードに戻る気はもうない。それでも指が止まる。
理由は一つ。一度どれかに金を払うと、人はそのツールしか使わなくなる。乗り換えコストではない。心理的な固定だ。月額を払った瞬間、「元を取らねば」という回路が回り出し、他を試す好奇心が死ぬ。だから払えない。Aquaでいいのか。iPhoneで使っているTypelessに寄せるべきか。トライアルが切れたらGenspark Speaklyに乗り換えるのか。決められないまま、トライアル期限だけが近づいてくる。
そこで、並べて測ることにした。手元で使えるAI音声入力を11本。同じ原文を読み上げ、出力を3体のAI——Claude、Grok、Perplexity——に採点させる。人間ひとりの「なんとなく」を排し、複数の目で原文忠実度を数値化する。
結論から言う。11本測って、Typeless 2.0とSpokenlyの2本に落ち着いた。1本に絞れなかったのは、測り方が悪かったからではない。測った結果、「総合1位」がこの世に存在しないと分かったからだ。しかも主役は途中で一度、交代している。まず、その2本の話からする。
結論:Typeless 2.0とSpokenlyの2本立て
11本を3体のAIで採点した結果は、単純な1位表にならなかった。日本語・英語・中国語・混在という軸を変えるたびに王座が入れ替わり、全軸で勝つ1本は最後まで現れなかった。だから軸で道具を分け、当初は「精度のSpokenly、育てて任せるTypeless」の2本立てに落ち着いた。——ところが7月8日、Typeless 2.0が出た。実測し直した結果、序列が入れ替わった。
プライマリー:Typeless 2.0——弱点が消えて、主役になった
旧Typelessの逐語は中位だった(日本語86.1・変動25.3)。それが2.0では、日本語通常文3回とも一字一句同一の出力(平均98.3・変動0.5、Claude・Grok2体採点の参考値)。「文書→文章」の誤変換も消えた。もともとの武器——誤変換を直すと自動で辞書に載るオート辞書登録、翻訳・整形・文体変換のコマンド機能、スマートなiPhoneの音声入力画面——はそのままに、逐語まで崩れなくなった。精度と使い勝手が1本で両立した結果、日々の入力はほぼこちらに集約された。詳細はTypeless 2.0の実測章で。
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セカンダリー:Spokenly——精度は今も王級、出番を譲った
Spokenlyの実力は落ちていない。エンジン選択型という設計で、Soniox Realtimeをはじめ優秀なエンジンを選べる幅は今も唯一無二。3体採点の実測では日本語96.4(Aquaと同点首位・変動0.3)、混在94.2の首位で、日英中が混ざる文の信頼性では依然Typeless 2.0(79.3・変動28.5)を大きく上回る。それでも出番が激減したのは、辞書登録が手動であるなど、使い勝手の面でTypeless 2.0の後塵を拝したからだ。精度で負けたのではなく、総合体験で譲った——道具の交代は、そういう形でやってくる。
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使い分けの実運用:配置は不変、重心は移った
物理的な構えは変わっていない。2本は常駐のまま、右コントロールキーでSpokenly、左コントロールキーでTypeless。辞書の連携も従来どおりで、Typelessが自動登録した固有名詞をJSON形式に書き出し、SpokenlyのSoniox Realtime側へ手動で移植している。大半の固有名詞は今も両方が正しく変換する。
変わったのは呼ぶ頻度だ。以前は「とりとめなく喋るときはTypeless、話すことが明確ならSpokenly」と使い分けていたが、2.0以降はどちらの場面もTypeless 2.0に寄っている。逐語が崩れなくなったことで、明確な話をSpokenlyに切り替える理由が薄れた。正直に言えば、いまSpokenlyが起動するのは、うっかり右コントロールキーを押してしまったときぐらいかもしれない。それでも混在文の信頼性という明確な強みがある以上、アンインストールする理由もまたない。
歌って踊れて、逐語も崩れなくなったTypeless 2.0。コツコツ愚直に、正確に仕事をこなすSpokenly。序列は入れ替わったが、冒頭で押した課金ボタン2つは、どちらも無駄になっていない。
——以下は、この結論に至るまでの検証の全記録だ。なぜ「総合1位」が存在しないのか。なぜ主役が交代したのか。数字で追っていく。
検証対象

検証したのは11ツール。クラウド型、ローカル型、OS標準まで、性格はばらばらだ。
| ツール | 種別 | 特徴 |
|---|---|---|
| Aqua Voice | クラウド | 低遅延・技術語に強い独自モデル(Avalon) |
| Typeless | クラウド | 話し言葉を整形・自己修正 |
| Wispr Flow | クラウド | 多言語・実務向け |
| Genspark Speakly | クラウド | Gensparkの音声入力機能 |
| VoiceOS | クラウド | 汎用ディクテーション |
| Willow Voice | クラウド | 多OS対応 |
| Superwhisper | ローカル | 完全オフライン(Whisper large-v3) |
| Laxis | クラウド | 会議の文字起こし特化 |
| Apple Dictation | OS標準 | macOS/iOS内蔵・無料 |
| Spokenly | クラウド/ローカル | エンジン選択型(本記事はSoniox Realtimeで測定) |
| utter | クラウド/ローカル | エンジン選択型(本記事はElevenLabs Scribe v2で測定) |
検証条件

何を読ませ、誰がどう採点したか。
課題文(4種)
テストは4種類。日本語の長文、日英中の混在文、英語単独、中国語単独。どれもわざと意地悪に作り、括弧・専門語・カタカナ・固有名詞・数値を詰め込んでいる。実際に読ませた課題文は次のとおり。
- 日本語の長文:「2026年の最新AI音声入力ツールは、従来の『単なる文字起こし』の枠を大きく超え、フィラー(言い淀み)の自動除去、話し言葉から洗練されたビジネス文書への自動整形、他アプリやAIエージェントとのシームレスな連携など、強力なAIアシスタント機能を持つものが主流となっています」
- 日英中の混在:「来週の meeting に向けて、まず KPI の dashboard を update しておきます。The deadline is next Friday, so please review the draft by Wednesday. 中国のパートナーには『这个方案我们已经确认了,下周开始执行』と返信しました。」——1通で言語が3回切り替わる
- 英語:「Hi team, quick Q3 update. Our ARR grew 27% to $4.2 million, and churn dropped to 1.8%. The OAuth 2.0 integration ships March 14th. Dr. Chen from Acme Robotics will cover edge computing and on-device inference. Don’t deploy in us-east-1 after 5 p.m. Thanks!」——ARR・$4.2 million・1.8%・us-east-1 と、数値と固有名詞が連続する
- 中国語(簡体字):「各位同事,第三季度简报。我们的年度经常性收入增长了百分之二十七,达到四百二十万美元,客户流失率降到百分之一点八。语音识别引擎将在三月十四日上线。」——27%・420万ドル・1.8% と数字が多く、簡体字の保持も試す
日本語の長文と混在文は、それぞれ2回ずつ実施した。きれいな朗読音声ではなく、実際の仕事で口に出す文を選んだ。道具は、整った入力ではなく散らかった入力で試さないと、地金が出ない。
採点と反復(3体・複数回)
採点はClaude / Grok / Perplexityの3体。通常文はClaudeとPerplexityが3回、Grokが2回の反復採点。ChatGPTも当初参加したが、利用枠の制約で一部テストのみの部分参加となったため、平均・順位からは外して参考値とした。基準は原文忠実度。逐語の正確さ、固有名詞の保持、意味のズレ、幻覚や欠落の有無で減点する。
設計で一番こだわったのは「反復」と「複数体採点」だ。音声入力の1サンプルは、信用できない。同じツールでも、読み上げのわずかな揺れ、回線、その日の機嫌で出力は変わる。1回測って順位をつけ、それを買う判断にするのは危うい。だから反復し、採点者も分散させた。後で効いてくる。
検証環境

入力マイクと、各ツールのモデル設定を記録しておく。
各ツールは、入手できる範囲で最上位の設定で動かした。意図的に弱いモデルで不利にすることはしていない。とくにSuperwhisperは完全オフラインのローカル処理が特徴で、今回はその最上位モデル「Ultra」を使った。GGML形式・約3GB・多言語対応で、アプリ自身が「最高精度(Highest accuracy)」と銘打つモデルだ。中身はOpenAIのWhisper large-v3をローカル実行するもので、whisper.cppで動く最大級のモデルにあたる。つまりSuperwhisperの低スコアは「弱いモデルで測ったから」ではない。最強設定でこの結果だった。
入力マイクも記録しておく。収録はHyperX QuadCast S——USB接続のコンデンサーマイク——を使った。ノートPC内蔵マイクでもヘッドセットでもない。だから、下位ツールの音韻すり替えや字幕汚染は「安いマイクで音が濁ったせい」ではない。クリアな入力で、この結果が出た。入力品質ではなく、モデルの素性がスコアを分けている。なお後半のマイク比較では、AirPods Pro 3とAirPods 4 ANCも使う。
検証結果

ここから結果を見ていく。言語ごとの精度、マトリクスと総合、再現性、そして料金の順だ。マイク・誤変換・採点者の分析は「補足検証」にまとめた。
日本語:Typeless 2.0が抜け、AquaとSpokenlyが並ぶ
まず素直に、3体の平均点を並べる。日本語長文テスト(反復平均)の総合だ。
| 順位 | ツール | 平均 | 変動幅 |
|---|---|---|---|
| 1 | Typeless 2.0 | 98.3(旧86.1) | 0.5(旧25.3) |
| 2 | Aqua Voice | 96.4 | 0.3 |
| 2 | Spokenly(Soniox Realtime) | 96.4 | 0.3 |
| 4 | utter(Scribe v2) | 94.4 | 5.3 |
| 5 | Wispr Flow | 90.9 | 8.0 |
| 6 | Genspark Speakly | 90.1 | 19.0 |
| 7 | VoiceOS | 83.1 | 6.7 |
| 8 | Willow Voice | 81.2 | 13.7 |
| 9 | Laxis | 66.8 | 19.7 |
| 10 | Superwhisper | 63.8 | 29.3 |
| 11 | Apple Dictation | 49.1 | 14.3 |
※Typeless 2.0はClaude・Grok2体採点の参考値(他は3体)。カッコ内は旧Typeless 1.x。
首位はTypeless 2.0の98.3——3回とも一字一句同一の出力で、変動は事実上ゼロだ(2体採点の参考値)。3体採点勢ではAqua VoiceとSpokenly(Soniox Realtime)が96.4の同点で頭一つ抜けている。しかも変動幅0.3まで同値——何度測ってもほぼ動かない。出力は「単なる文字起こし」を超え、句読点も括弧も整い、原文とほぼ完全一致だった。減点は「文書→文章」の表記揺れ程度。日本語を話して、整った日本語が返る。これが上位勢のデフォルトだ。標準のDictationとの落差を一度味わうと、戻れない。
下を見ると様相が違う。Apple標準のDictationは46.0。「フィラー(言い淀み)」が「フィラ淀」になり、「強力なAIアシスタント機能」が「強力な恋愛、アシスタント企業」に化けた。意味が壊れている。OS標準・無料・オフラインという強みはあるが、逐語入力の道具としては別の戦場にいる。
同じ一文が、ツールでどう化けるか。 原文「強力なAIアシスタント機能を持つものが主流」を起点に並べるとわかりやすい。
| ツール | 出力(同一箇所) |
|---|---|
| 原文 | 強力なAIアシスタント機能を持つものが主流 |
| Aqua Voice | 強力なAIアシスタント機能を持つものが主流(一致) |
| Wispr Flow | 強力なAIアシスタント機能を持つものが主流(前段に「チームレス」の誤り) |
| Apple Dictation | 強力な恋愛、アシスタント企業を持つものが主流 |
Aquaは原文を素通りで保持する。Wisprは別の箇所(シームレス→チームレス)で転ぶが、ここは保つ。Appleは「機能」を「恋愛」と聞き、「アシスタント機能」を「アシスタント企業」と聞いた。音は近い。だが文脈で弾けるはずの語が、弾かれていない。後段の言語モデルの差が、この一行に出る。
ここまでは、よくある比較記事だ。表を見て「日本語ならTypeless 2.0かAquaかSpokenly」で終わる。私もそう思った。問題は、この平均点が半分しか語っていないことだった。
混在文:日英中で順位が逆転する

ここまでは日本語の話だ。次に、日英中の混在文を読ませた。会議連絡を模した、3言語が1通に同居するメールだ。
順位は、ひっくり返った。
| 順位 | ツール | 言語認識・平均 | 変動幅 |
|---|---|---|---|
| 1 | Spokenly(Soniox Realtime) | 94.2 | 3.7 |
| 2 | Wispr Flow | 94.0 | 2.7 |
| 3 | utter(Scribe v2) | 87.5 | 2.3 |
| 4 | Typeless 2.0 | 79.3(旧64.7) | 28.5(旧2.7) |
| 5 | Genspark Speakly | 68.7 | 24.7 |
| 6 | Aqua Voice | 49.3 | 21.3 |
| 7 | VoiceOS | 45.2 | 31.7 |
| 8 | Willow Voice | 33.2 | 1.0 |
※Typeless 2.0はClaude・Grok2体採点の参考値(他は3体)。カッコ内は旧Typeless 1.x。
日本語の同点王者だったAquaが、6位に転落している。原因は中国語だ。日本語と英語の部分は正確に保持するのに、中国語に入った瞬間、「中国版文明人朱鑾来」のような漢字の幻覚に崩壊する。2回目では英文ごと欠落した。
首位はSpokenly(94.2)とWispr Flow(94.0)のほぼ同点。中国語の原文を「这个方案我们已经确认了,下周开始执行」と安定して保持できたのは、この2本だけだった。日本語首位のTypeless 2.0はここで崩れる——1回目は中国語を原文のまま完全保持(91点)したのに、2回目は断片幻覚に崩壊(62点)して変動28.5。旧Typelessの「必ず日本語に意訳する」弱点は消えたが、代わりに言語判定の不安定さが露出した。他は漢字の幻覚に崩れた。
英語単独
単独テストでも傾向は一致する。まず英語だけを読ませた結果(2回・3体平均)。技術的な業務連絡(バージョン番号、人名、社名、リージョン名 us-east-1 を含む)を原文にした。
| 順位 | ツール | 平均 | 変動幅 |
|---|---|---|---|
| 1 | Typeless 2.0 | 94.5(旧85.2) | 1.0(旧4.3) |
| 2 | Aqua Voice | 92.8 | 5.7 |
| 3 | VoiceOS | 90.3 | 5.3 |
| 4 | utter(Scribe v2) | 89.8 | 9.0 |
| 5 | Spokenly(Soniox Realtime) | 83.2 | 5.7 |
| 6 | Willow Voice | 82.3 | 8.7 |
| 6 | Genspark Speakly | 82.3 | 2.0 |
| 8 | Wispr Flow | 80.8 | 3.7 |
英語ではTypeless 2.0(ACME・Dr. Chen等の固有名詞を正確に保持)が首位に立ち、3体採点勢ではAquaとVoiceOSが抜ける。混在で首位級だったWispr Flowが、英語単独では最下位に沈むのが面白い。固有名詞をカタカナに引き込む癖が、英文では裏目に出る。道具は、得意な土俵を一歩外れると性格が変わる。
中国語単独
次に中国語だけ(簡体字の業績報告。「百分之二十七=27%」「四百二十万美元」「三月十四日上线」を含む)。
| 順位 | ツール | 平均 | 変動幅 |
|---|---|---|---|
| 1 | Genspark Speakly | 87.0 | 4.0 |
| 2 | Spokenly(Soniox Realtime) | 86.8 | 7.0 |
| 3 | Typeless 2.0 | 84.0(旧85.2) | 5.0(旧4.3) |
| 4 | Wispr Flow | 83.2 | 4.3 |
| 5 | utter(Scribe v2) | 75.3 | 8.7 |
| 6 | Willow Voice | 65.7 | 10.7 |
| 7 | Aqua Voice | 61.5 | 10.3 |
| 8 | VoiceOS | 59.5 | 13.7 |
中国語では順位が完全に裏返る。日英で首位のTypeless 2.0も84.0(旧85.2からむしろ微減)で3位に下がり、日本語・英語で最強級のAquaは7位。簡体字を繁体字に取り違え、「简报(報告)」を「健保」と聞き、数字まで誤る。逆にGensparkとTypelessは簡体を保ち、数字を守る。中国語を「音声で正確に打ちたい」なら、日本語の王者は選択肢に入らない。
言語別マトリクスと全テスト総合
3言語を単独で測った総合マトリクスにまとめると、ねじれが一目でわかる。
| ツール | 日本語 | 英語 | 中国語 | 3言語平均 |
|---|---|---|---|---|
| Typeless 2.0 | 98.3 | 94.5 | 84.0 | 92.3(旧85.5) |
| Spokenly(Soniox Realtime) | 96.4 | 83.2 | 86.8 | 88.8 |
| utter(Scribe v2) | 94.4 | 89.8 | 75.3 | 86.5 |
| Genspark Speakly | 90.1 | 82.3 | 87.0 | 86.5 |
| Wispr Flow | 90.9 | 80.8 | 83.2 | 85.0 |
| Aqua Voice | 96.4 | 92.8 | 61.5 | 83.6 |
| VoiceOS | 83.1 | 90.3 | 59.5 | 77.6 |
| Willow Voice | 81.2 | 82.3 | 65.7 | 76.4 |
※Typeless 2.0はClaude・Grok2体採点の参考値(他は3体)。カッコ内は旧Typeless 1.x。
3言語平均の首位はTypeless 2.0(92.3、参考値)。3体採点勢の首位はSpokenly(88.8)——日本語96.4・中国語86.8・英語83.2と、どの言語でも崩壊しない。utter(86.5)が続き、コア勢ではGenspark・Wisprが僅差で並ぶ。逆にAquaは日本語と英語で最強級なのに、中国語61.5が足を引っ張って下位に沈む。
これは私が別の文脈で4軸ねじれ論と呼んできた構図と同じだ。評価軸を増やすほど、全軸で勝つ者は消える。中国語の王座はGenspark、混在はSpokenlyとWispr、単独言語ではTypeless 2.0——軸を変えるたびに王座は律儀に入れ替わる。単独3言語を制したTypeless 2.0ですら、混在文では変動28.5で信頼しきれない。「総合1位」という問いの立て方そのものが、答えを濁らせていた。
それでも「結局どれが総合1位なのか」と問われたら、3言語平均のSpokenly(88.8)がいちばん近い。だが総合点には罠がある。総合は、自分の使わない言語の失点まで平均してしまう。Aquaの総合6位は、再現性が低いからではない。中国語という、人によっては一生使わない試験で落ちただけだ。日本語と英語しか話さないなら、Aquaは依然として最強格のままだ。総合点は便利だが、自分の使う軸だけを見て選ぶほうが、実際の満足度には近い。
再現性と蜃気楼スコア:平均は、半分しか語らない

ここまで各言語の精度とマトリクスを見てきた。だが平均は半分しか語らない。日本語のテーブルに戻って、変動幅の列を見てほしい。
Genspark Speaklyは平均90.1で堂々の5位。だが変動幅は19.0。内訳を開くと、1回目は98点——Aquaと並ぶほぼ満点だ。ところが2回目は80点まで落ちている。「フィラー」が「フィーラー」に、「言い淀み」が「引用読み」に、「洗練された」が「宣言された」に崩れた。同じツール、同じ原文で、回が変わると別物になる。
Superwhisperはもっと激しい。平均63.8、変動幅29.3。2回目では中核語が「Pillar、EUdomino」と英語に化け、文末に「ご視聴ありがとうございました」という、誰も読んでいない一文が幻覚として付け足された。
平均だけでは足りない。同じ条件で2回くり返したときの振れ——変動幅——を、平均と一緒に見る必要がある。AquaとSpokenlyは96.4で変動0.3。何度測ってもほぼ動かない。Gensparkは平均90.1でも変動19.0。良い日と悪い日で別物になる。3回反復した通常文では、旧Typelessにも崩れる回が出て変動25.3——「穴がない」と見えた道具も、反復を増やすと素顔が見える。そしてTypeless 2.0はこの弱点を正面から潰してきた。3回とも一字一句同一の出力、変動0.5。ただし同じ2.0が混在文では変動28.5と荒れる。再現性は「ツールの属性」ではなく「ツール×課題の属性」だと、新旧比較がはっきり教えてくれる。平均が同じくらいでも、信用できる度合いがまるで違う。
私はこれを蜃気楼スコアと呼んでいる。1回目だけ見ると、Gensparkは1回目だけ見ればAquaに並ぶ蜃気楼を見せる。近づくと消える。最も魅力的に見えた選択肢が、実は最も信用しにくい。1回のテストでこれを買っていたら、2回目の80点に裏切られていた。
断っておくと、この振れがツール固有の不安定さなのか、回線や負荷分散で振られたモデルの当たり外れといった環境要因なのかは、2〜3回では切り分けられない。だから変動幅を平均から引いて「実力」として点数化することはしない。原因を断定できないものを、定量の精度を装って順位に埋め込むのは、やりすぎだ。
それでも、原因が何であれ、毎回同じ品質が出ないこと自体が実用上のリスクだ。重要な場面で当てにしすぎるのは危うい。だから平均の高さだけでなく、変動幅の小ささも見る。ブレの評価は点数ではなく言葉で——記事の最後に、全ツールの「安定性」として一覧にまとめておく。
平均だけを見て順位をつける比較記事を、私はもう信じない。
料金:実質年額$144の横並び
道具選びの最後の物差しは、値段だ。性能だけで選べるなら苦労はない。
| ツール | 無料枠 | 月額 | 年額(実質) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| Apple Dictation | 無料 | 無料 | 無料 | OS標準・オフライン |
| utter | 15分試用+ローカル/BYOK無料 | $5.99 | $59.99($5/月) | 有料勢で最安。Mac/iPhone・最大5台 |
| Superwhisper | あり | $8.49 | $84.99 | 買い切り$249.99 |
| Aqua Voice | 1,000語(一回) | $10 | $96($8/月) | クラウドのみ |
| Spokenly | ローカル/BYOK無料 | $9.99 | 6ヶ月¥8,000(≈¥1,333/月) | SonioxはPro定額内。Mac/iPhone/Win 1契約 |
| VoiceOS | 100回/週 | $12 | — | エージェント機能 |
| Wispr Flow | 2,000語/週 | $15 | $144($12/月) | 多言語混在に最強格 |
| Willow Voice | Frontier Mini無料・回数無制限(Scribeは週20回) | $15(Pro) | $144($12/月) | 7/6の新体系。多OS対応 |
| Laxis | 300分/月 | $15.99 | — | 会議文字起こし特化 |
| Genspark Speakly | 4,000文字/週 | $24.99 | $239.99($19.99/月) | Genspark Plus会員価格(Speakly無制限を含む全機能)。Speakly単体ではない |
| Typeless 2.0 | 8,000語/週 | $30 | $144($12/月) | 無料枠が最大 |
〔価格は2026年7月時点の各公式サイト表示。為替・改定で変動するため最新は公式で要確認。〕
実質年額で見ると、Wispr・Willow・Typelessが$144で横並びになる。その下にAquaの$96、そして今回の最安はutterの$59.99。Spokenlyは6ヶ月¥8,000(月あたり約¥1,333)で、円建てならこれも安い側だ。月額だけ見るとTypelessの$30が最も高いが、無料枠が8,000語/週と最大なので、軽い使い方なら$0で回る。買い切りはSuperwhisperの$249.99のみ。
ここで効いてくるのが、性能と値段の交差だ。逐語で首位のAquaとSpokenlyが、実は安い側に、3言語2位のutterが最安にいる。混在で最強格のWisprは$144の標準帯。「高い順=強い順」ではない。
補足検証
本筋の精度比較から少し外れるが、マイク、誤変換の類型、採点者の癖について補足する。

マイク別:良いマイクほど高得点ではない
ここまでは据え置きのコンデンサーマイク(HyperX QuadCast S)の結果だ。マイクを替えるとどうなるか。同じ日本語テストを、AirPods Pro 3とAirPods 4 ANCでも録った(各デバイス1回・3体採点の参考テスト)。
予想は「マイクが良いほど高得点」という素直な勾配だった。外れた。効き方はデバイスとツールの相性で決まる。高級マイクからワイヤレスイヤホンまで一切崩れなかったのはTypelessだけで、「入力を選ばない」性格がここでも出た。「ワイヤレスだから劣化する」も誤りで、AirPods Pro 3でむしろ最高点を出すツールもあった。逆にAquaは、良いマイクでは首位級なのに特定のイヤホンとの組み合わせでだけ再現性が壊れる癖が出た。同じツール・同じデバイスでも結果が振れること自体が、「1サンプルを信じるな」の生きた実例だ。
実務的な含意は単純だ。入力環境が毎回変わるなら(外出先のイヤホン、内蔵マイク)、相性に左右されないTypelessが安全。据え置きで良いマイクを使えるなら、AquaやSpokenlyのピークが活きる。ここでも答えは「最強の1本」ではなく、「条件ごとの最適」になる。なおマイク別は各デバイス1回の参考測定のため、個別の数値ではなく傾向として読んでほしい。
誤変換の類型:「ご視聴ありがとうございました」はどこから来たか

ここで少し寄り道をする。11ツールの出力を並べていて、誤変換にも「種類」があると気づいた。崩れ方の質を分けると、道具の素性が見える。4つに分類した。
- 字幕汚染:Superwhisperの「ご視聴ありがとうございました」、Laxisの「次の動画でお会いしましょう」。原文にないYouTube動画の締め文句が混入する。大量のYouTube字幕で訓練されたモデルが、無音や文末を「動画の終わり」と誤認して覚えた挨拶を吐く。Superwhisperの中身はローカルのWhisper(large-v3)で、これはWhisper系の古典的な弱点。皮肉にも、最高精度を謳う最上位モデルが最も派手に出した。精度ではなく、育ちの問題だ。
- 音韻すり替え:Appleの「機能」が「恋愛」に、「言い淀み」がVoiceOSでは「P4ドミノ」、Wisprでは「言いおとみ」「チームレス」に化ける。音は似ているが、文脈で弾けるはずの語が弾かれていない。後段の言語モデルが弱い兆候。
- 意訳暴走:Typelessは中国語を「修正案を明日の終業開始までに送信する」と流暢な日本語に翻訳してしまう。読みやすいが原文ではない。Laxisも末尾を「AIシステムを持つものが増えています」と勝手に要約。整形が強いツールほど逐語を捨てて先回りする。便利さと忠実さの衝突だ。
- 情報欠落:VoiceOSは混在文で英文を丸ごと落とした。崩すより質が悪い。崩れていれば気づくが、消えていれば気づかない。送信するまで欠落は見えない。
この4類型は、スコアの裏側にある。同じ80点でも、字幕汚染の80点と情報欠落の80点では、実務の危険度がまるで違う。点数だけでは見えないものを、崩れ方が教えてくれる。代表例を並べておく。
| 類型 | 原文 → 出力 | 出たツール |
|---|---|---|
| 字幕汚染 | (文末)→ 「…ご視聴ありがとうございました」 | Superwhisper |
| 字幕汚染 | (文末)→ 「…次の動画でお会いしましょう」 | Laxis |
| 音韻すり替え | 言い淀み → 「P4ドミノ」 | VoiceOS |
| 音韻すり替え | 洗練された → 「宣伝された」 | Superwhisper/VoiceOS |
| 意訳暴走 | 这个方案…执行 → 「修正案を明日の終業開始までに送信」 | Typeless |
| 情報欠落 | 英文1文まるごと → (消失) | VoiceOS |
| 人名様幻覚 | 这个方案我们已经确认了 → 「中国版文明人朱鑾来」 | Aqua Voice |
人名様幻覚は、中国語に特有だった。モデルが中国語の連なりを「人名の羅列」と誤認し、それらしい漢字を当てにいく。Aquaの「中国版文明人朱鑾来」、Willowの「ジェイがファンアンをメイン人材で」、Gensparkの「JFANをMidjourneyがチャージを開始」——どれも、元の業務連絡の面影がない。日本語と英語であれほど正確なAquaが、ここでは別人になる。得意と不得意が、これほど鮮明に分かれる道具も珍しい。
採点者の癖と一致
採点を複数体に分けたことで、もう一つ見えたものがある。同じ出力でも、AIによって点の付け方に癖がある。
癖は、はっきり分かれた。Claudeは甘い。きれいな逐語に素直に高得点を出す。Grokは辛い。崩壊時の語も「最悪」「大崩れ」と容赦がない。Perplexityは保守的。突出した加点をせず、全体に辛めへ寄せる。参考参加のChatGPTは意味重視で、逐語の正確さより文意の毀損を重く見た。
面白いのは、これだけ甘辛が分かれても、順位はほとんど動かなかったことだ。Claudeが甘くつけ、Grokが辛くつけても、AquaとSpokenlyが日本語首位、SpokenlyとWisprが混在首位、AppleとSuperwhisperが下位、という並びは3体で一致した(参考のChatGPTも同傾向)。甘辛は絶対値の差であって、相対順位には効かない。だから、1体の気まぐれな高得点は信用できないが、3体の平均は信用できる。採点者を増やすことの意味は、ここにあった。冒頭で「1サンプルは信用できない」と言ったのと、同じ理屈だ。道具も、採点者も、1つでは測れない。
ただし、3体でも一致しない論点はある。「逐語の精度」と「意図伝達の精度」をどう天秤にかけるかだ。整形の強いツールは、しゃべったままより「整った最終形」を返す。逐語忠実度では減点だが、実務では「送れる文章」が一発で出るほうが速い。今回の検証は原文忠実度に振り切ったので、整形上手は不利に出ている。この一点だけは、自分の使い方で重みを変える必要がある。私の用途——下書きを速く起こし、後で自分で直す——なら、逐語に寄せた今回の基準でいい。

ここまでの結果を、選定の判断につなげる。
「総合1位」は存在しなかった
では、私はどうするか。
迷いの正体は、最初から「総合1位」を探していたことだった。11ツールを採点させ、表を眺め、全軸で勝つ1本を探した。結果は見てのとおり、そんなものは存在しなかった。Aquaは日本語・英語で最強級だが中国語で崩壊する。Wisprは混在で首位級だが英語単独では最下位。混在の王者Spokenlyは英語単独で5位、コマンド機能を持たない。単独3言語を制したTypeless 2.0も、混在では変動28.5で信頼しきれない。言語と軸を変えるだけで王座が入れ替わるのだから、「いちばん良いのはどれか」という問い自体が間違っていた。
正しい問いは、「自分が話す言語で、悪い日でもいちばん崩れにくいのはどれか」だ。問いを変えれば、逐語の答えはほぼ出ている。日本語中心で混在も来るなら、Spokenlyだ。だが、まだ決めない。数字に見えない使い勝手——変換の速さ、修正のしやすさ、辞書の育て方——と、逐語の外にあるもう一つの軸を見てからだ。
もう一つの軸とは、音声コマンドだ。書き起こした文章を、声だけで翻訳し、要約し、書き換えられるか。逐語精度が「入力の質」なら、コマンドは「その先の仕事」を左右する。
——と、ここまでが逐語精度で見えたことだった。次章のコマンド機能の検証で、もう半分の決着がつく。
コマンド機能で決着がついた
逐語精度だけでは、最終的な構成が決まらなかった。そこで、音声コマンドによるテキスト操作——翻訳・要約・スタイル変換——を検証した。なおコマンド検証はコアの9ツールに実施した(Spokenlyとutterはコマンド機能を主用途としないため対象外)。
検証方法は、Excelに英文の原文を置き、各ツールのコマンドモードで音声指示を出す。「セル選択」(セルをクリックした状態)と「テキスト選択」(セル内の文字列を選択した状態)の2パターンで、ツール側がテキストを取得して指示を実行できるかを見た。
翻訳・要約:あれば便利、だが代替可能
1回目:「日本語訳して」
| 順位 | ツール | セル選択 | テキスト選択 | スコア |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Genspark Speakly | ✅ 翻訳実行 | ✅ 翻訳実行 | 95 |
| 1 | Typeless | ✅ 翻訳実行 | ✅ 翻訳実行 | 95 |
| 1 | VoiceOS | ✅ 翻訳実行 | ✅ 翻訳実行 | 95 |
| 4 | Wispr Flow | ❌ テキスト取得不可 | ✅ 翻訳実行 | 55 |
| 4 | Willow Voice | ❌ テキスト取得不可 | ✅ 翻訳実行 | 55 |
| — | Aqua Voice | コマンド非対応 | 0 | |
| — | Superwhisper / Laxis / Apple | コマンド非対応 | 0 | |
Genspark Speakly・Typeless・VoiceOSの3本が、両モードで日本語訳を完遂した。Wispr FlowとWillow Voiceは、テキスト選択なら翻訳が走るが、セル選択ではExcelセルのテキストを取得できず、指示文を丸写しした。Aqua Voice・Superwhisper・Laxis・Apple Dictationはコマンド自体に非対応だった。
なおTypeless 2.0でも再測した。翻訳・要約を含むコマンド平均は93.2(2体採点)で旧版の93.7と同水準を維持し、要約はテキスト選択時に日本語の構造化出力へ改善した。公式が謳う複数ターゲット言語の即切替そのものの操作性は未測定。詳細はTypeless 2.0の実測章を参照。
2回目:「要約して」
| 順位 | ツール | セル選択 | テキスト選択 | スコア | 1回目との差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Genspark Speakly | ✅ 要約成功 | ✅ 要約成功 | 90 | 安定 |
| 1 | Typeless | ✅ 要約成功(繁体字→日本語指定で修正可) | ✅ 要約成功 | 90 | 安定 |
| 3 | Willow Voice | ⚠️ 要約2回重複出力 | ✅ 要約成功 | 65 | 55→65 |
| 4 | Wispr Flow | ❌ 幻覚(無関係文を生成) | ✅ 要約成功(英語) | 50 | 55→50 |
| 5 | VoiceOS | ❌ 要約ではなく翻訳 | ❌ 同左 | 40 | 95→40 |
| — | Aqua Voice / Superwhisper / Laxis / Apple | コマンド非対応 | 0 | — | |
Genspark SpeaklyとTypelessは安定して要約を返した。VoiceOSは1回目の翻訳で95点だったのに、2回目の「要約」を「翻訳」と取り違えて40点に急落した。Wispr Flowはテキスト選択なら英語で要約を返したが、セル選択で「ようやくして、この瞬間を迎えることができました」と無関係な文を幻覚した。
ここまでは、正直なところ「あれば便利」の域だった。ウェブの翻訳も文章の要約も、ブラウザのAIエージェントに頼めば事足りる。コマンド機能が使えること自体は差別化にならない。
3回目で、景色が変わった。
スタイル変換:ここで差がついた
翻訳・要約が定型処理なら、文体の変換はどうか。同じビジネスメールの英文を、まったく異なる「芸風」で書き換えさせた。
全学連のアジテーション風
冗談半分で出した指示だ。同じ英文のビジネスメールを、学生運動時代の演説調に書き換えろ、と。
実行できたのはGenspark SpeaklyとTypelessの2本だけだった。Wispr Flowはトライアル終了でFree Planに落ちており、コマンドモード自体が使えなかった(コマンド機能は有料プラン限定)。そして、実行できた2本の出力には質的な断裂があった。
| 順位 | ツール | スコア | 評価 |
|---|---|---|---|
| 1 | Typeless | 95 | 全学連の語彙・修辞を的確に再現。全事実保持 |
| 2 | Genspark Speakly | 90 | 軍事報告調止まり。全学連の熱量が足りない |
| — | Wispr Flow | — | Free Planのためコマンドモード利用不可 |
| — | 他6ツール | 0 | 非対応またはデータなし |
Genspark Speaklyは「諸君、ここにQ3の戦況を速報する!」「各員の奮闘を期待する!」と書いた。確かにアジテーションではあるが、これは軍事報告か組織内通達の語彙であって、全学連ではない。
Typelessはこう書いた。
万国の労働者、そして全学連の学友諸君へ告ぐ!
Q3における我々の闘争は、輝かしき勝利を刻んだ!ARRは怒涛の27%成長を遂げ、ついに420万ドルの地平へと到達したのである!さらに、資本の収奪を許さぬ徹底抗戦により、チャーンレートを1.8%まで壊滅的に引き下げた!
来たる3月14日、OAuth 2.0統合という決定的進撃を開始する!Acme Roboticsの先鋭、チェン博士を招聘し、エッジコンピューティングおよびオンデバイス推論の核心を全うせん!
団結する諸君らに厳命する!午後5時以降、us-east-1への卑劣なデプロイ行為を断固阻止せよ!これは我々の戦線を死守するための鉄の規律である!
勝利に向かって、全力を尽くし闘い抜こうではないか!連帯して前進せよ!
私は全学連や全共闘の世代ではない。だが私が通っていた大学には、まだあの空気の残り香があった。構内でビラが配られ、立て看板が並び、拡声器の演説が聞こえてくる。通り過ぎるだけだった私でも、あの言い回し——「告ぐ」「徹底抗戦」「鉄の規律」「連帯して前進せよ」——は耳に残っている。Typelessの出力を読んだとき、「君たちこんなところにいたのか」と久しぶりに挨拶したくなった。
翻訳や要約では差がつかなかった。あれはLLMにとって定型処理だ。だが「全学連のアジテーション風」という、抽象度が高く文化的文脈を要する指示を出した途端、背後にいるLLMの教養の深さがそのまま出力の質に直結した。
面白くなって、その後も同じ英文で試した。某大事件の犯行声明風。商品レビュー風。小説風。いずれもTypelessは原文の事実を保持したまま、文体を的確に切り替えた。
トランプ大統領風
中でも圧巻だったのが、トランプ大統領風だ。
Listen, folks, I have some incredible news, the best news—believe me. We just got the Q3 numbers and they are massive, absolutely huge. Our ARR grew 27% to $4.2 million. Nobody else is doing numbers like that, nobody. And the churn? It’s down to 1.8%. It’s shrinking, it’s disappearing, it’s a beautiful thing to see.
We’re doing something very special on March 14th—the OAuth 2.0 integration. It’s going to be big, it’s going to be powerful. We have the best people, like Dr. Chen from Acme Robotics. A total professional.
But listen, we have to be smart. No deployments in us-east-1 after 5 p.m. Very dangerous area, very weak. We’re going to keep things safe, we’re going to keep winning. Thank you!
日本語話者には伝わりにくいかもしれないので、どこが「あの人」なのか分解しておく。冒頭の「incredible, the best—believe me」は集会演説の定番の入りだ。「massive, absolutely huge」と同義語を畳みかけて強調し、「Nobody else is doing numbers like that, nobody」と文末に同じ語を置いて念を押す。「It’s going to be big, it’s going to be powerful」の「It’s going to be+形容詞」の並列、「Very dangerous area, very weak」の唐突な断言、そして「We’re going to keep winning. Thank you!」の勝利宣言で締める——いずれも実際のスピーチで繰り返し使われる修辞パターンだ。本物はもっと脱線する(Dr. Chenの話から急に「フェイクニュースは報じないがね」に飛ぶような即興の横道)ので、この出力はやや整いすぎてはいる。だが文体の核はよく捉えている。そして数字は一つも変えていない。ARRも、チャーンも、OAuth 2.0も、3月14日も、Dr. Chenも、us-east-1も、全部そのまま残っている。事実を保持したまま、文体だけがあの人になっている。
小林秀雄風
さらにもう一本。小林秀雄風。
諸君、Q3の報告をしよう。我々のARRは四百二十万ドルに達し、二十七パーセントの成長を遂げた。解約率は一・八パーセントへと下降している。数字というものは、単なる計量ではない。それは我々の歩みの、動かしがたき「形」である。
OAuth 2.0の統合は、三月十四日に世に出る。そして、アクメ・ロボティクス社の陳博士が語るだろう。エッジコンピューティング、あるいはオンデバイス推論——。技術とは、突き詰めれば人間の意志の延長に他ならない。
最後に一つ。午後五時を過ぎてからus-east-1にデプロイしてはならぬ。美学とは、なすべきことをなすと同時に、なすべからざる場所をわきまえる慎みのうちにあるのだ。
感謝する。
ARR 27%という業務報告の数字を「我々の歩みの、動かしがたき『形』である」と抽象命題に跳躍させ、us-east-1のデプロイ禁止を「なすべからざる場所をわきまえる慎み」と美学に昇華している。「〜に他ならない」は小林秀雄の常套句、数字を漢数字に置き換える文語調の徹底も的確だ。本物はもっと自己問答する(「私はかう考へるのだが、それは果して正しいのか」という逡巡)ので、断言が続くこの出力はやや整いすぎてはいる。だが、ビジネスメールの運用ルールを文芸評論に仕立てるこの力業は、全学連やトランプとはまた別の意味で、背後のLLMの教養を証明している。
音声入力の精度は高い。コマンドで翻訳・要約が走る。そしてスタイル変換までできる。Typelessのコマンド機能は、他のどのツールとも質が違った。コマンド機能の価値は、翻訳・要約という代替可能な便利機能ではなく、この「芸風の適用」にあった。
Typeless 2.0——公式発表と実測の突き合わせ
2026年7月8日、TypelessのCEO Huang Song氏がTypeless 2.0を発表した(X投稿)。公式の言葉では、従来の音声入力が解放したのは「指」だけで、話す前に頭の中で文章を整えるMental Drafting Toll(頭の中の下書きコスト)は残っていた、と位置づける。2.0はその下書きを飛ばし、「考えた順・途中で方針変更・名前を説明して補完」といった、とりとめない発話を清書する方向を前面に出す。翻訳は複数ターゲット言語への即切替が加わり、対応はMac/Windows/iOS/Android。法人向けEnterprise(SSO・一括請求等)も同時発表された。
発表の翌日から、本編と同じ課題文・同じ環境で再測した(採点はClaudeとGrokの2体。Perplexity未評価のため、3体採点の本編スコアとは参考比較になる)。公式が掲げた改善点ごとに、実測がどうだったかを突き合わせる。
| 公式の改善点 | 実測結果 | 評価 |
|---|---|---|
| ①名前の出てこない細部を、話した手がかりから補完 | 英語固有名詞 Akune→ACME(語誤りゼロ・95点)。「文書→文章」誤変換が解消。荻窪を正しく認識(旧版は「同じく」と誤認) | 文脈補完は明確に機能。ただし荻窪の単独発話では3回の繰り返しを1回に圧縮(85点)——文脈がない場面では働かず、フィラー除去の癖が顔を出す |
| ②言い直し・考え直しに追従し、確定した意味を保持 | 日本語通常文3回とも一字一句同一(99・99・99、変動0)。旧版の「内容は正確なのに勝手に番号付き箇条書きへ再構成」(3回目70点)が消滅 | 最大の改善。整形の目標が「綺麗に書き直す」から「確定意図の保持」へ転換した |
| ③翻訳ターゲット言語をキーボードから即切替 | 切替の操作性は未測定。関連する混在文テストでは中国語原文の保持に初成功(1回目91)、ただし2回目は断片幻覚に崩壊(62、変動28.5) | 言語判定の分岐は実装されたが、自動判定がまだ確率的に振れる。唯一残った弱点 |
| ④Speak to Edit・安定性の強化 | コマンド93.2(旧93.7と同水準)。要約はテキスト選択で日本語の構造化出力に改善。逐語+コマンドの統合評価135.1で全ツール中トップ(旧Typelessの124.4が2位) | アシスタント側の水準を保ったまま、入力側を安定化 |
この対照から見えてくるのは、2.0の本質が「賢さの総量が増えた」ことではなく、賢さを発揮する場所が整理されたことだ(以下は出力挙動からの推測で、実装情報は非公開)。旧版で一体だった認識・補完・整形の役割分担が再設計され、補完は文脈推論として強化し(①)、整形は確定意図の保持に絞って決定論化し(②)、言語処理は明示的な分岐として切り出した(③)。「歌って踊れる」加工力はSpeak to Editというコマンド側の明示的な入口に移した(④)。逐語モードが黙って正確になったのは、出しゃばらなくなったからだ。
本記事は当初、TypelessとSpokenlyの関係を「加工のTypeless、逐語のSpokenly」という分業として描いた。2.0がやったのは、その分業を1本の中に内部化することだった。残る継ぎ目は多言語混在の言語判定で、ここだけはまだSpokenly(混在94.2・変動3.7)が明確に上を行く。逐語・単一言語では追いつき、混在では届かない——プライマリー交代後もSpokenlyを手放さない理由が、ちょうどこの継ぎ目にある。
ツール別コメント

ここまでの数字を、ツール単位で短くまとめる。用途と価格、試せるものは紹介リンクも添える。
Aqua Voice——日本語と英語の精度番長
日本語通常文96.4(変動0.3)はSpokenlyと同点首位、英語92.8は単独首位だ。出力は単なる文字起こしを超え、句読点も括弧も整った「そのまま送れる文章」で返る。最大の弱点は中国語(単独61.5、混在では漢字の幻覚に崩壊)。逆に言えば、中国語を音声で打たない限り、その弱点は表に出ない。料金は$10/月・年払いなら$96($8/月相当)。買い切りはなく、処理はクラウドのみ。日本語と英語だけで完結する人間にとって、現状もっとも素直な選択肢だ。
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Wispr Flow——多言語の万能選手
混在文94.0でSpokenlyとほぼ同点の首位。11本のうち、中国語の原文(簡体字)を保持できたのはこの2本だけだった。どのテストでも大崩れしない。弱点は英語単独(80.8で最下位)と、固有名詞をカタカナに引き込む癖(2回目で「ドクトゥ・チェン」と化けた)。日本語・英語・中国語が1通に混ざる実務メールが多いなら、これが本命になる。$15/月・$144/年。
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Typeless 2.0——逐語もアシスタントも、現在のプライマリー
旧版(1.x)の逐語は中位だった。日本語86.1、3回反復では勝手に箇条書きへ再構成する回もあって変動幅25.3。それが2.0で一変した。日本語通常文98.3・変動0.5(3回とも一字一句同一)、英語94.5、3言語平均92.3——公式発表との突き合わせで詳述したとおり、整形が「確定意図の保持」に徹するようになり、逐語の弱点がほぼ消えた(2体採点の参考値)。残る穴は混在文で、中国語の保持が2回に1回崩れる(変動28.5)。
もともとの武器は健在だ。オート辞書登録——誤変換を手で直すと自動で辞書に載り、使うほど自分の社名・製品名・人名に馴染む。コマンド機能——翻訳・要約・文体変換がボタンひとつで走り、コマンド検証では9ツール中唯一、指示の文化的ニュアンスまで再現した(2.0でも93.2と同水準)。マイクを選ばない入力非依存、スマートなiPhone入力画面も変わらず。逐語+コマンドの統合評価は135.1で全ツール中トップ。精度と使い勝手が1本で両立し、本記事のプライマリーはこれになった。無料枠8,000語/週は全ツール最大。$30/月・$144/年。
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Spokenly(Soniox Realtime)——エンジン選択で精度を取りに行く、混在の王者
エンジン選択型のアプリで、本記事はSoniox Realtimeエンジンで測定した。Soniox Realtime/Soniox Async/GPT-o4 Transcribeなど優秀なエンジンを選べる幅は11本で唯一無二。3体採点では日本語96.4がAquaと同点首位(変動幅0.3まで同値)、混在94.2は全ツールの首位で、3体採点勢の3言語平均88.8もトップ。Aquaの弱点だった中国語崩壊がなく、どの言語でも崩れない。日英中が混ざる文の信頼性では、Typeless 2.0(79.3・変動28.5)を今も大きく上回る。Soniox公表の60言語ベンチマーク(2025年・実環境音声)でも日本語WERは8.7%と8プロバイダ中トップで、自前の実測と外部指標が一致する。
弱点は3つ。英語単独は83.2で中位に沈む。コマンド機能を主用途としない。そして辞書登録が手動で、固有名詞を覚えさせる手間はかかる——Typeless 2.0に主役を譲った理由は、精度ではなくこの使い勝手の差だ。料金はローカル処理とBYOK(自前APIキー)なら無料、クラウドのProが月$9.99・6ヶ月¥8,000(月あたり約¥1,333)。SonioxエンジンはこのProの定額内で使える。かつては自前APIキー(BYOK)でのSoniox利用もできたが、現在は提供されていない。Mac・iPhone・Windowsを1契約でカバーする。個人開発のアプリで法人情報は非公開だが、音声はサーバー非保存・処理先5社を名前付きで開示しており、ローカル専用モードなら通信を完全に遮断できる(詳細はカントリーリスク早見)。
白状すると、私自身が最近Spokenlyで常用しているのは、測定に使ったSoniox RealtimeではなくScribe v2(ElevenLabs)だ。スコアではSonioxの後塵を拝する(同エンジンを積むutterの実測が94.4、Soniox Realtimeが96.4)が、出力の整い方や句読点の打ち方が手にしっくりくる。ベンチの王者と、日常で選ぶ道具は別——本編で何度も見た構図が、1つのアプリのエンジン選択画面の中でも起きている。ワンタップでエンジンを替えられるこの設計こそ、主役の座を譲ってなおSpokenlyを手放さない理由だ。
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utter(Scribe v2)——最安で総合2位、静かな実力者
ElevenLabsのScribe v2エンジンを積んだエンジン選択型アプリ。日本語94.4(3位)・英語89.8(3位)・中国語75.3で、3言語平均86.5は総合2位。どの言語でも崩壊せず、荻窪など読みにくい固有名詞を集めた難読地名テストでは98点を出した。音声は非保存・アカウントレス設計で、履歴は端末(またはiCloud)にのみ残る。
料金は$5.99/月・年$59.99と、今回の有料勢で最安。ローカル処理とBYOKは無料で、1契約で最大5台まで使える(Mac/iPhone)。逐語のコスパで選ぶなら第一候補だ。私はSpokenlyを選んだためサブスクは見送ったが(なお同じScribe v2エンジンはSpokenly内でも選択でき、実は私はそちらで常用している)、両者の差は好みの範囲に収まる。
VoiceOS——英語に強い堅実派
英語単独90.3で2位、日本語通常文も84.4と安定する。通常文の変動2.8と、再現性の高さはAquaに次ぐ。コマンド検証の1回目(翻訳)では両モードとも完璧に実行し、Genspark・Typelessと並んで満点だった。$12/月と有料勢では手頃で、UIもシンプル。弱点は中国語(59.5)と、混在文で英文を丸ごと落とす情報欠落が出た点。2回目のコマンド(要約)では翻訳と取り違える誤実行があったが、英語中心の実務で堅実に使いたいなら候補に入る。
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Genspark Speakly——中国語に強いが、ムラがある
無料枠は4,000文字まで(2026年6月時点の実機表示。超過後はGenspark Plus $24.99/月で無制限)。中国語単独では全ツール1位(87.0)、日本語も1回目は98点とAquaに並ぶ。実際に使うと変換がスムーズで、口に出した先から文章が立ち上がる感覚は心地よい。仕事のテンポが目に見えて上がる。ハマる人には強くハマる道具だと思う。
ただしデータ上の弱点はムラだ。日本語2回目は80点まで落ち、混在文は56点まで沈む——本稿で言う蜃気楼スコアの典型。常用の主力に据えるなら、再現性に注意がいる。とはいえ無料枠の範囲で試せるので、まず触ってみる価値はある。招待リンクから登録すると、双方にメンバーシップが付く仕組みだ。
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Willow Voice——多OS対応の中位打者
多OS対応(Mac・Windows・iPhone)で導入のしやすさは全ツール随一。SOC2・HIPAA対応と、セキュリティ認証の面でもWisprと並んで最も手厚い。コマンド検証では翻訳をテキスト選択で成功させ、要約もテキスト選択時はきれいに返した。開発チームの対応が速く、ユーザーコミュニティからのフィードバックを翌日に反映するケースもある。無料枠2,000語/週、$15/月・$144/年。弱点は混在文と中国語のスコアが低い点と、セル選択時のコマンドで重複出力のバグが出た点。精度は全体に中位だが、多OS・セキュリティ・開発速度を重視するなら選択肢に入る。
【2026年7月追記|Frontier Mini/Pro】7月6日、共同創業者のAllan Guo(CEO)とLawrence Liu(CTO)が新モデル「Frontier Mini」「Frontier Pro」を発表した。目玉はMiniの無料・回数無制限化だ。低速なローカルモデルではなくクラウド処理(公称レイテンシー約250ミリ秒)でZero Data Retentionを謳い、「標準の音声入力は無料だが弱く、高性能なAI音声入力は有料」という市場構造そのものを崩しに来た。Proは同社史上最高精度を標榜し$15/月(年払い$12/月相当)。音声指示で文章を生成するScribeは無料プランだと週20回まで。
新モデルで日本語テストを3回実施した。結果は97・93・96(平均95.3・変動4)。「フィラー→ヒラ」の誤変換が1回出た以外は軽微な整形差のみで、旧版の81.2から大幅に改善した。ただしTypeless 2.0(98.3)やAqua・Spokenly(96.4)の壁は抜けず、上位勢の顔ぶれを変えるには至らなかったため、英語・中国語・混在を含む全体の再測は見送った。数字とは別の印象も書いておく。入力開始から反映までが滑らかで、思考を切らずに話し続けられる感触は本物だ。「精度95点で時々引っかかる道具」より「93点でも毎回滑らかな道具」が実用では上に来ることがある——本編で繰り返した「点数と使い勝手は別物」の構図が、無料・無制限という価格破壊とセットでやってきた。逐語の点を最後まで追わない用途なら、無料の入り口としては現状の最有力だ。
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その他——Laxis / Superwhisper / Apple Dictation
残る3本は、今回の用途では主力に推さない。
- Laxis:会議の文字起こしに特化し、100以上の言語に対応。Zoom・Google Meet・Teamsと直接連携し、発言者の識別やCRM自動入力など、会議ワークフローとしての完成度は高い。逐語ディクテーション用途で使った今回のテストでは字幕汚染(「次の動画でお会いしましょう」)が出たが、本来の会議録用途なら評価は異なるだろう。
- Superwhisper:音声データが一切外に出ない完全ローカル処理を主用途に据えるのは、11ツール中これだけ。買い切り($249.99)でサブスク不要、ネットワーク接続も不要という唯一無二の立ち位置。カスタムプロンプトや辞書登録で固有名詞を矯正できる柔軟性もある。弱点は再現性で、最上位モデル「Ultra」でも2回目で大崩れした。プライバシーとオフラインを最優先する用途に向く。
- Apple Dictation:追加コストゼロ、インストール不要、オンデバイス処理でプライバシーも安心。macOS/iOSにそのまま入っている手軽さは他にない。逐語精度は最下位級(「強力な恋愛」「フィラ淀」)だが、短いメモやリマインダー程度なら十分使える。まずこれを試し、足りなくなったら他のツールを検討する——という入り口として最適だ。
——検証のすべてが、冒頭の結論に行き着く。逐語の王者Spokenlyと、歌って踊れるTypeless。1本で全部をまかなう発想を捨てた瞬間、道具選びはずっと楽になった。
参考:環境別の早見と、全ツール一覧
最後に、選定の早見を置いておく。総合の最強を1本選ぶのではなく、自分の使う環境から逆引きするための表だ。
環境別クイック早見
まず、自分の環境に近い行を見てほしい。
| あなたの環境 | 第一候補 | 理由 |
|---|---|---|
| 自宅・据え置きコンデンサーマイク | Typeless 2.0 / Aqua Voice / Spokenly | 日本語逐語の上位3強。Typeless 2.0は3回同一出力の再現性 |
| モバイル・AirPodsや内蔵マイク | Typeless 2.0 | マイクを選ばず崩れない、唯一の入力非依存 |
| 日英中が1通に混ざる実務 | Spokenly / Wispr Flow | 中国語を原文のまま保持できた2本。混在ほぼ同点首位 |
| 中国語を含む多言語を試したい | Genspark Speakly / Spokenly | 中国語単独の1位と2位。Gensparkは回によりムラがある |
| コスパ最優先(有料で最安) | utter | 年$59.99で3言語平均2位。ローカル/BYOKなら無料 |
| 完全オフライン・プライバシー最優先 | Superwhisper | ローカル完結。逐語の安定性は割り切る |
全ツール一覧
安定性は、同じ条件の反復とマイク変更での崩れにくさを総合した定性評価(◎崩れにくい/○ふつう/△回や環境でばらつく)。言語別の精度は本編のマトリクスとFAQを参照。👉=紹介リンクあり(各ツールのコメント参照)。
| ツール | 安定性 | Pros | Cons |
|---|---|---|---|
| Spokenly 👉 | ◎ | 逐語の総合王者。日本語・混在・3言語平均で首位。変動幅0.3 | 英語単独は5位。コマンド機能は主用途でない。辞書登録が手動 |
| utter | ○ | 3言語平均2位で有料最安(年$59.99)。難読地名テスト98点 | 中国語75.3はやや弱い。Mac/iPhoneのみ |
| Aqua Voice 👉 | ○ | 精度と速度のバランスが最高クラス。低遅延で技術用語に強い | 良いマイクが前提。相性の悪いマイクで精度が落ちる |
| Typeless 2.0 👉 | ◎ | 日本語98.3・3回同一出力(参考値)。オート辞書とコマンドで総合力トップ。無料枠最大 | 混在文の中国語保持が2回に1回崩れる(変動28.5) |
| Wispr Flow 👉 | ○ | 実務向けの万能型。整形がこなれている | 固有名詞をカタカナに引き込む癖がある |
| Genspark Speakly 👉 | △ | 中国語の精度が全ツール最高 | 回によって出来がばらつく(再現性が不安定) |
| VoiceOS 👉 | ○ | 崩れにくい堅実なディクテーション | 長文の一部を落とす(情報欠落)ことがある |
| Willow Voice 👉 | ○ | 多OS対応で導入しやすい | 全体に中位。文頭の重大な誤認識が出やすい |
| Laxis | △ | 会議の文字起こしに特化 | 逐語入力には不向き。原文にない文を足す |
| Superwhisper | △ | 完全オフライン・買い切り。プライバシー最優先向け | 再現性が最も不安定。字幕汚染の幻覚 |
| Apple Dictation | △ | 無料・OS標準・オフライン。短文メモ向け | 逐語精度は最下位級。句読点が出にくい |
カントリーリスク早見
クラウド型の音声入力は、発話データが運営企業のサーバーに送信される。どの国の、どんな背景を持つ企業に音声を預けるかは、精度とは別の選定軸になる。
| ツール | 運営 | 本社 | 処理 | 創業者の背景 | 警戒度 |
|---|---|---|---|---|---|
| Aqua Voice | Aqua Voice Inc. | San Francisco | クラウド | YC出身・米国人創業 | 低 |
| Wispr Flow | Wispr AI | San Francisco | クラウド | 米国。SOC2 Type II・HIPAA対応 | 低 |
| Typeless | Simply CA LLC/Voenix Technologies Inc.(iOS/Android登録名) | San Francisco | クラウド | Stanford出身。米国サーバー明示 | 低 |
| VoiceOS | WakoAI, Inc. | San Francisco | クラウド | YC出身。共同創業者は仏・日ルーツ | 低 |
| Willow Voice | Willow Care, Inc. | San Francisco | クラウド | Stanford CS・YC。SOC2・HIPAA対応 | 低 |
| Laxis | Laxis, Inc. | Evansville, IN | クラウド | 米国拠点 | 低 |
| Genspark Speakly | MainFunc Inc. | Palo Alto(登記) | クラウド | 元Baidu VP/小度科技CEO(景鯤)、元Google/Baidu首席架構師(朱凱華)が創業。従業員の大半が中国人。SG・日本にオフィス | 要注意 |
| Spokenly | 個人開発(Vadim Akhmerov・App Store開示) | 非公開 | クラウド/ローカル | 元iOS開発者のインディー。音声はサーバー非保存、Proの処理先はCerebras・Fireworks・Groq・Mistral・ElevenLabsと開示。ローカル専用モードで全通信遮断可。SOC2等の認証は無し | 低(機密はローカルモード推奨) |
| utter | Third tech | —(非公開) | クラウド/ローカル | 音声は非保存・アカウントレス設計。履歴は端末/iCloudのみ | 低 |
| Superwhisper | — | — | ローカル | 音声データはデバイス外に出ない | 最小 |
| Apple Dictation | Apple Inc. | Cupertino | ローカル | OS標準・オンデバイス処理 | 最小 |
Gensparkの警戒度を「要注意」としたのは、米国法人ではあるが、経営・開発陣の中心が元Baidu(百度)幹部であり、従業員の大半が中国人で、中国語単独テストで全ツール1位という結果が、中国語話者の音声データに対する最適化と整合する点にある。なお、Typeless(Huang S)やLaxis(Eric Xiao)など他のツールにも中国系の創業者はいるが、いずれも米国で教育を受け、YCやStanfordといった米国のエコシステムのなかで会社を立ち上げた完全な米国資本の企業であり、中国の大手テック企業の幹部が組織ごと移植したGensparkとは性質が異なる。音声入力はテキストとは異なり、声紋という生体情報を含む。機密性の高い業務で使う場合は、プライバシーポリシーとデータの処理先を確認したうえで判断すべきだ。
【2026年9月1日追記】推奨は戻し、Aquaは外した
7月にプライマリーをTypeless 2.0へ移してから、周辺が二つ動いた。採点の表は動かしていない。常用の事実だけを足す。
Spokenly——推奨はScribe、常用はSonioxに戻した
SpokenlyのWindowsリリースノートは、2026年8月4日にElevenLabs Scribeを推奨にした。
7月の本文は、こう書いてある。「白状すると、私自身が最近Spokenlyで常用しているのは、測定に使ったSoniox RealtimeではなくScribe v2(ElevenLabs)だ。」
公式の推奨が、その常用に追いついた形だ。しばらくScribeを使い続けた。常用はSoniox Realtimeに戻した。日英中の逐語は、Sonioxのほうが高い。
6月〜7月の3体採点はSoniox Realtimeの数字のまま残す。推奨が変わったことと、王座が動いたことは別だ。
Aqua Voice——有料が終わると、測れない
Aquaの有料サブスクリプションが終わった。無料プランには戻れなかった。再評価の経路が消えたので、アンインストールした。
公式の料金ページが示すStarterは1,000語で、アカウント生涯1回。補充はない。解約後にStarterへ戻せる、とはFAQに書いていない。こちらで起きたことは、有料が終わったあと評価ができなくなった、という事実だけだ。
7月12日以降のEdit ModeやMaxは、この経路では追試していない。ツール別コメントのAquaは、執筆時点の記録として残す。
FAQ
英語の認識精度が一番高い音声入力ソフトは?
英語単独テストではTypeless 2.0が最高(94.5点・2体採点の参考値)。3体採点ではAqua Voice(92.8点)が首位で、VoiceOS(90.3)、utter(89.8)が続く。ただし英語に強いツールが中国語でも強いとは限らない。
中国語(簡体字)に一番強い音声入力ソフトは?
中国語単独テストではGenspark Speaklyが最高(87.0点)で、Spokenly(86.8)が僅差の2位、Typeless 2.0(84.0)が3位。日本語首位級のAqua Voiceは中国語61.5点と弱く、繁体字混在や数字の誤りが出た。
日本語の認識精度が一番高い音声入力ソフトは?
日本語長文テストではTypeless 2.0が最高(98.3点・3回とも一字一句同一出力、2体採点の参考値)。3体採点ではAqua VoiceとSpokenly(Soniox Realtime)が96.4点の同点首位で、両者とも変動幅0.3とほぼブレない。
日本語・英語・中国語が混ざる文章に強いのは?
Spokenly(94.2点)とWispr Flow(94.0点)がほぼ同点首位。中国語を安定して原文のまま保持できたのはこの2本だけ。Typeless 2.0は1回目に原文保持へ成功したが2回目に崩壊し(変動28.5)、混在では信頼しきれない。
一番安定して使える音声入力ソフトは?
日本語通常文ではTypeless 2.0の変動0.5(3回同一出力)が最小で、Aqua VoiceとSpokenlyの0.3級と並ぶ。ただしTypeless 2.0は混在文で変動28.5と荒れるため、課題によって安定性は変わる。マイクや環境を選ばない点ではTypelessが引き続き唯一無二。
無料枠が大きい音声入力ソフトは?
クラウド型ではTypeless(8,000語/週)が最大。Spokenlyとutterはローカル処理やBYOKなら無料で使える。Apple Dictationは完全無料だが逐語精度は最下位クラス。
Typeless 2.0の改善ポイントは?
最大の改善は再現性で、日本語通常文が3回とも一字一句同一の出力(98.3点・変動0.5。旧版は86.1・変動25.3)。旧版の「文書→文章」誤変換も解消し、英語も94.5点に向上した。混在文では中国語の原文保持に初めて成功したが、2回に1回崩壊する不安定さ(変動28.5)が唯一残る弱点。コマンド機能は93.2点で旧版と同水準を維持し、文字起こしとコマンドの統合評価では全ツール中トップ(いずれもClaude・Grok2体採点の参考値)。