K-POPは世界に出て、J-POPは出ない|才能の差ではなく、人・曲・売り場を一つにした「装置」の話

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はじめに

夜の車内から音符が世界地図へ流れるイラスト。

ここ数年、家族で車に乗って出かけると、再生する曲の選曲権を子供に任せることになる。そうすると NCT WISH、SEVENTEEN(セブチ)、Hearts2Hearts(ハトゥハ)、NewJeans(ニュジ)、ILLIT(アイリット)ばかりかかる。日本の曲はまったくかからない。最近どんな日本の曲が流行っているのかもわからない。知っているのは韓国の曲ばかりである。時々日本のチャートを見かけると Mrs. GREEN APPLE(ミセス)や米津玄師が何曲も入っていて、極めて不健全である。かつてはテレビドラマの主題歌や CM タイアップと合わせて新譜を出す仕掛けが全盛だった。坂道ブーム亡き後、ミセスの寡占が続きペンペン草も生えない。

答えを先に書く。

韓国という国の3階は、希望である。エンタメは、その希望を作る装置の一つだ。中身は三つある。練習生(ヨンスプセン、연습생)という人。事務所の中で作る曲。最初から世界に向けた売り場。この三つを、事務所が一つのパッケージとして持っている。才能の当たり外れを待たずに済む仕組みである。

80年代の日本も、寮も過大投資もテレビも CM も、国内向けの工場として先に持っていた。K-POP の新しさは、同じ箱を最初から輸出用に組み立て直したところにある。

いま日本には、世界に羽ばたこうとする装置が無い。羽ばたけると感じさせる装置も無い。アニメやゲームは売れた実績であって、人を世界の売り場に載せる仕組みとは別のものだ。多くの日本人は、その実績を一歩引いた冷めた目で見ている。バブル期の「羽ばたく」雰囲気は、経済力という燃料を装置だと錯覚していた。燃料が切れると一緒に消えた。

車の中で日本の曲がかからないのは、好みの話に見えて、装置の不在の話である。

車の中で聞こえるもの

子供が選ぶ曲は、選抜の工程を通り、世界向けの売り場に並んだものだ。NCT WISH は SM の多国籍ユニットの一つで、日本を主戦場にしている。セブチは HYBE 傘下 Pledis のグループで、曲作りの核がメンバー側にある。ハトゥハは SM が人の構成を先に多国籍にした新しいグループだ。ニュジは HYBE 傘下 ADOR のグループで、曲の核を 250 と FRNK という外の作り手に置き、選曲と録りをミン・ヒジンが握った型である。ILLIT は HYBE の工程から出てきた。同じ箱の、違う出口である。

先日、ららぽーとに行くと、ハトゥハの曲が終日ヘビーローテーションされていた。自分の Spotify のプレイリストかと思った。サムスンのギャラクシーと同じで、気づいたら身の回りに普通にある。装置の出口は、家庭のスピーカーだけでなく、商業施設の天井にも届いている。

日本側に残っているのは、国内向けの仕掛けだ。ドラマの主題歌、CM タイアップ、チャートの寡占。仕掛けは今もある。向きが国内のままだ。

曲の作り方そのものは、Hearts2Heartsの楽曲はなぜ耳に残るのか(KENZIE(ケンジー)と SM の制作 OS)に書いた。本稿は、その曲が載る装置の話である。

かつての韓国はIMFで止まっていない

凍った工場と車の額縁からウエハーが現れる。

日本人が持つ韓国の画像は、まだ IMF 危機の前後で凍っていることが多い。財閥、車、安い労働力、アジア通貨危機。その画像は、いまの韓国の稼ぎ方と食い違う。韓国は組み直しを終えている。

名目GDPの現在地

IMF の世界経済見通し(WEO)2026年4月では、韓国の名目 GDP は約1.93兆ドル、世界15位である(DataMapper)。一人当たりでは、円安のせいで日本に寄って見える。凍った画像を壊すには、この数字で足りる。

輸出の本体は半導体

産業通商資源部の2025年通年の輸出実績では、半導体輸出は1734億ドル、自動車は720億ドルだった。2026年8月は、輸出全体の47.5%を半導体が占めた。車は今も回っている。本体はもう半導体である。

コンテンツ輸出の位置

コンテンツ輸出は、韓国コンテンツ振興院の2025年速報で149億ドルである。ゲームや放送を含む11業種の合計で、振興院自身が国家承認統計ではない速報値だと注記している。半導体の1割に届かない。それでも、この小ささを理由に3階から落とさない。理由は次章に書く。

国は3階建てだ

自動車、半導体、夢が重なる三階建ての断面図。

国は、いま何で食っているかだけでは読めない。3階で読む。

1階は自動車である。歴史的な躯体だ。現代・起亜。日本人がイメージする「かつての韓国」に一番近い本業である。関税と EV で斜陽化のリスクは見える。それでも、いまも回っている。成熟した本業であり、1階に置く。

2階は半導体である。1階の斜陽を見越した次世代の主要産業であり、すでに輸出で1階を逆転している。1階が鈍ったときに代わりに立てる厚みがあり、しかも名前がある。戦略的な2階には名前が要る。看板だけでは足りない。

3階は夢と希望である。エンタメが入る。明るい希望や期待感を作ることも入る。エンタメはその装置だ。149億ドルは参考値にすぎない。ただし希望にも名前が要る。「2030年目標」のようなスローガンだけでは3階にならない。人を世界の売り場に載せ、羽ばたけると感じさせる装置があるかどうかだ。

日本と比べるなら一点だけである。世界に羽ばたこうとする装置が、あるかないか。韓国には、人を売り場に載せる装置がある。日本には、売れた実績がある。希望は、売れたものの回想からは生まれない。今、人が売り場に載れると感じられる装置から生まれる。

造船は1階の隣に置く。重厚長大型の躯体だからだ。バイオヘルスは、厚みが足りず、まだ2階の対抗馬にならない。会社の3階(未収益で、かつ別産業)と国の3階は、判定の物差しが違う。

装置の中身は世界向けパッケージ

人と音楽と地球儀を収めた箱が世界へ向かう。

3階の装置には中身がある。人、曲、売り場である。本稿では売り場を「棚」と呼ぶ。配信、公演、現地法人、オーディション番組、レーベル。人と曲を並べて売る場所の総称だ。事務所は、この三つを一つのパッケージとして持つ。箱の向きが、最初から世界である。

80年代の日本は、この箱の国内版を先に持っていた。寮、過大投資、テレビと CM の過大露出、高回転、番組による発掘。工場だった。ただし国内向けの工場だった。おニャン子クラブも夕やけニャンニャンも、番組が入口で、テレビが棚だった。松田聖子の米国リリースはあった。だが個人が外へ飛び出すことと、最初から外の棚に載せる箱を持つことは、違う。

バブル期の日本は、羽ばたく雰囲気を持っていた。中身は経済力という燃料だった。燃料を装置だと錯覚していた。失速と一緒に雰囲気は消えた。物を載せる装置は残った。車も機械も残った。消えたのは希望の装置である。燃料が満タンのときの気分を装置の設計図だと覚えていると、空になったあとに何も残らない。

K-POP の新しさは、同じ工場を最初から輸出用に組み立て直したところにある。言語を先に入れ、曲を中で作り、棚を世界にした。三つが揃ってパッケージになる。一つ欠けると、国内向けの工場に戻る。

人は練習生を「在庫」にする

練習生は、事務所が抱える人材のプールである。本稿では、あえて在庫と呼ぶ。歌、ダンス、言語を、出す前に揃える。言語は後付けにせず、最初から棚の言語を持たせる。日本語、英語、中国語。グループの国籍構成そのものが、棚の設計図になる。デビューしてから「海外進出」するのではなく、出す前に、出先の言語を人に持たせる。

曲は事務所の中で作る

曲は外注の寄せ集めだけでは持たない。事務所とチームの中に、編曲まで置く。80年代の日本は、作家が「先生」で、編曲家が別の席にいた。船山基紀、大村雅朗の型である。K-POP は編曲まで事務所やチームの中にある。海外作家を集める制作キャンプは外注として存在し、キャンプで旋律を買い、中で編曲し、言語を載せる。核が中にある、というのがポイントだ。

KENZIE の設計思想は別稿に書いた。ここでは、名前が出て、事務所の中の核だと分かれば足りる。

席の話を一つだけしておく。A&R(総括)は本稿での呼び方で、曲と人を選び、録りの方向を決める席を指す。K-POP で「プロデューサー」と呼ばれる人の多くは、この席にいる。トラックを組む編曲とは別の席だ。ミン・ヒジン(Min Hee-jin、민희진)は中央日報のインタビューで、メンバーが曲の感じを自分で解釈できるように、ガイドボーカルを使わなかったと述べている。日本では仮歌が普通である。つんく♂が仮歌を入れ、それを手本に歌う型だ。録りの流儀が違う。方向を決める席と、トラックを組む席は分かれている。両方やる人は、編曲にも名前が残る。巻末の表はその区別で作った。

棚は最初から世界である

現地法人、アカデミー、レーベル、オーディション番組。出口を国内のテレビに固定せず、最初から世界の棚に載せる。80年代日本の工場は、テレビと CM という国内の棚に最適化されていた。K-POP は同じ工程を、最初から輸出用に組み立て直した。棚が先にあり、人が棚に合わせて揃えられる。

日本に装置は無いのか

画面と世界地図の煙を上げる二つの工場。

反例を先に出しておく。XG は、avex が世界向けに立ち上げたプロダクション XGALX から2022年に出た7人組で、メンバー全員が日本人である。韓国式の育成法で数年間鍛えられ、最初から英語で歌い、世界ツアーを回った(XG 公式XGALX)。人・曲・棚を一体で持ち、向きが最初から世界である。これは装置の形をしている。

それでも本稿の答えは変わらない。理由は三つある。第一に、XG は韓国式の育成法を取り込んで作られた一組であり、日本の事務所が自前で組み直した箱とは言いにくい。第二に、一つのプロジェクトである。韓国には同じ箱が四つ以上並走している。並走が仕組みを産業にする。単発は飛び出しであって、産業には届かない。第三に、国として「あれで羽ばたける」と感じさせるものになっていない。XG の名前を、K-POP を聞かない層まで知っているとは言いにくい。本稿の装置とは、個別の成功ではなく、人が売り場に載れると広く感じられる仕組みのことだ。

アニメとゲームは、いまも海外で伸びている。実績は本物だ。だが、それは作品が売れた跡であり、人を世界の売り場に載せる仕組みまでは含まない。その数字を国の希望として語る空気は、作り手にも聴き手にも薄い。売れた跡は誇れる。希望の3階は、そこから先にある。

工場が4つ並走する

四本のベルトコンベアが箱を世界へ運ぶ。

選抜の工程は単純だ。オーディション、練習生、デビュー。途中にサバイバル番組を挟む場合と、挟まない場合がある。入口が1社に閉じない。SM、JYP、HYBE、YG が並走する。工場が4つある。競合が装置を太くする。並走がパッケージを産業にする。

上場の事実だけ置く。HYBE(352820)、SM(041510)、JYP(035900)、YG(122870)。いずれも韓国取引所に上場している。財務、株価、会社ごとの3階は韓国株シリーズで扱う。カカオが SM の大株主であることは、独立創業の物語にしないための注記にとどめる。

以下、各社がパッケージのどの部品を見せているかを見る。グループ名は、部品を指すときだけ出す。

SMは人の入口を先に多国籍にする

多様な人々が地球へ通じる扉に入っていく。

SM が見せている部品は二つある。人の構成を最初から多国籍にすること。曲を作る核を事務所の中に置くこと。世界の棚を、後付けのツアーで作るのではなく、メンバーの構成で先に書く。

Hearts2Hearts と NCT

Hearts2Hearts は、その入口の新しい形である。カルメン(Carmen)はインドネシア出身、ステラ(Stella)は韓国系カナダ人だ(Korea Times)。グループそのものが言語と国籍の棚になっている。車の中でハトゥハがかかるのは、子供が「韓国の曲」を選んでいるように見えて、最初から世界向けに組んだ人材が出口に出ている、という話である。

NCT はその延長にある。ユニットを都市と市場で分ける設計だった。NCT WISH は日本向けのユニットである。無制限に増やす構想は途中で固定に寄ったが、設計思想は残っている。多国籍を、コンセプトではなく工程の設計にした。韓国語が母語でないメンバーを標準にする。

SM UNIVERSE Singapore

SM UNIVERSE Singapore は、練習生の入口そのものを海外に置いた例である。シンガポールの *SCAPE にキャンパスがあり(公式)、2026年1月24日に正式開所した(CNA)。現地に訓練の OS を置き、入口を海外に出す。アカデミーは志望者向けのビジネスにも見えるが、装置としては、棚の手前を海外に伸ばした部品だ。

曲の核

SM の曲は、ユ・ヨンジン(Yoo Young-jin、유영진)と KENZIE が核だった。ユ・ヨンジンは元歌手で、H.O.T. 以降の SM の音を事務所の中で組んできた。aespa(エスパ)「Next Level」でも作曲と編曲に名前がある(Genie)。SM の音は、海外キャンプを使う前から中にあった。それがパッケージの「曲」側の部品である。

JYPは日本を最初から地図に書く

世界地図で日本列島だけに升目が描かれている。

JYP が見せている部品は、言語の配置と、日本を最初から売り場の地図に書いたことだ。世界の棚の中に、最初から日本の升目がある。

TWICE の言語配置

TWICE は、日本語を母語にするメンバー3人と、台湾出身のメンバー1人を、デビューの時点で持っていた。装置として見ると、棚の言語を人に先に持たせた形だ。日本人メンバーはデビュー前に3年の韓国語授業を受け、韓国人メンバーには中国語の資格が必須だった、と本人たちが番組で明かしている(SBS『伝説のステージ アーカイブK』2021年3月14日放送、SBS 記事)。言語は工程である。歌とダンスが足りても、言語が無ければ出さない。

Nizi Project

Nizi Project は、その工程を日本側の入口から逆流させた。JYP とソニーミュージックの日韓合同オーディションである。地域オーディション、日本合宿、韓国合宿という順が公式に書かれている(Nizi Project 公式)。NiziU が出た。Season 2 からは NEXZ が出た(ソニー公式)。日本で拾い、韓国の工場で鍛え、日本と世界の棚に載せる。日本は最初から地図にある。

パク・ジニョンと 3RACHA

パク・ジニョン(J.Y. Park、박진영)は、経営者である前に、自分の曲では編曲にも名前が残る音楽家だ。TWICE では曲によって席が分かれる。「BDZ (Korean Ver.)」は Bugs の表記で編曲がパク・ジニョンとイ・ヘソル(Lee Hae-sol、이해솔)。「MORE & MORE」は公式クレジットで作詞・編曲。「What is Love?」は作曲で、編曲は collapsedone(コラプスドワン)。事務所のトップがトラックまで触る曲と、触らない曲がある。触らない曲では名前が編曲から外れる。席を混ぜないための良い例だ。

3RACHA は、事務所の中にあった制作がメンバーへ移った形である。Stray Kids(スキズ) の自己制作は、才能の美談というより、パッケージの部品がメンバー側に移った話だ。デビューしたあとも、曲作りが外注に戻らない。

HYBEはメソッドごと輸出する

設計図が海を渡り同じ工場が建ち上がる。

HYBE が見せている部品は、工程そのものを輸出することだ。練習生の作り方、番組の作り方、デビューの見せ方を、メソッドとして先に出す。工場の図面を先に船に積む。

I-LAND から KATSEYE へ

I-LAND は、工程を番組にして視聴者に見せた国内向けの可視化だった。Dream Academy は、Geffen/Universal と組んで、同じ工程を最初から英語圏の棚に置いた。KATSEYE(キャッツアイ)が出た。米国のレーベルの棚に、韓国の工場 OS を載せる話である。人も育成の場も米国に置き、練習生の作り方と番組の作り方を持ち込んだ。メソッドの輸出である。

二つ目の複製、SAINT SATINE

メソッドは複製された。HYBE と Geffen の二組目、SAINT SATINE は、Dream Academy 出身の3人(米国、スウェーデン、ブラジル)に、日本で行ったオーディション「WORLD SCOUT: THE FINAL PIECE」から選ばれた1人を加えた4人組である。2026年5月12日にグループ名と4人の構成が発表され、最終審査の2曲が配信された(Music Business WorldwideBugs)。正式なデビューはこれからだ。一度使った工程を、日本の入口を足してもう一度回した。工程がそのまま再利用できた、という事実がここで見える。

総括と編曲の席

パン・シヒョク(Bang Si-hyuk、방시혁)は経営者の行より、A&R(総括)の行に置く。選曲と方向を決める。編曲の核は Pdogg(ピードッグ)だ。Pdogg は、パン・シヒョクがオンラインの作曲コミュニティで見つけ、BTS のデビューからトラックを組んできた(Korea Herald)。Slow Rabbit(スロウ・ラビット)は同じ社内チームで、いまは TOMORROW X TOGETHER(TXT)のメインプロデューサーを務めている(Rolling Stone)。ウジ(WOOZI)と BUMZU(ボムジュ)は、Pledis 側で制作がメンバーに移った例である。総括の席と、トラックを組む席は、HYBE の中でも分かれている。分かれているから、パッケージとして複製できる。

ILLIT が車の中でかかるのも、HYBE の工程の出口の一つだ。セブチがかかるのも同じである。出口のブランドが違っても、箱の種類は同じだ。

YGは少なく長く置く

少数の箱が置かれた棚と大きな砂時計。

YG が見せている部品は、数を盛らないことだ。工程は同じでも、出口を絞る。少なくデビューさせ、長く置く。四大の中で、回転の設計が違う。

BLACKPINK は、母語と活動言語が最初から複数あるグループだ。タイ語も英語も、グループの中に先にある。TREASURE と BABYMONSTER も、多国籍の構成を人数で見せる型だ。出す数を絞ったまま、棚の言語は先に揃える。

テディ(Teddy)は 1TYM の出身である。編曲クレジットがある曲だけを、編曲の席に置く。The Black Label に移ったあとも、席の種類は同じだ。トラックを組む席と、人を選ぶ席は分ける。少なく長くを支えるのは、制作の核が細くても中に残ることだ。核が外注だけになると、少なくはただの品薄になる。

少なく長くは、美学というより設計である。回転を落とす代わりに、1組あたりの棚の滞在を長く取る。四大の並走があるから成立する。1社しか無い市場では、少なくはただの細い工程になる。

楽曲制作の主要パーソン

ミキサー卓に四つの空席が並ぶスタジオ。

パッケージの「曲は中で作る」は、概念だけでは見えない。名前で見せる。役割は四つに限る。A&R(総括)、作曲、作詞、編曲。経歴は、音の由来が1行で分かれば足りる。事務所の中に、どの席があるかを見る表である。

「主な制作先」は、雇用先ではなく、その人の仕事が載っている事務所を指す。250、FRNK、Gigi(ジジ)は ADOR 作品の制作陣であって、ADOR の社員という意味ではない。

名前で見せる

役割は席、経歴は音の由来、代表作は出典が取れた曲に限った。

名前役割主な制作先経歴1行代表作(出典)
KENZIE(ケンジー)作曲・作詞・編曲SMバークリー出身。設計思想は別稿Hearts2Hearts「The Chase」「Lemon Tang」作詞・作曲・編曲、「STYLE」「FOCUS」作詞(Bugs)。Red Velvet「Psycho」作詞(Bugs
ユ・ヨンジン(유영진)作曲・編曲SM元歌手。H.O.T. 以降の SM の音を中で組んだaespa「Next Level」作曲・編曲(Genie
パン・シヒョク(Bang Si-hyuk)A&R(総括)HYBE / BigHit選曲と方向。編曲の核は PdoggBTS の総括(Korea Herald
Pdogg作曲・編曲HYBE / BigHit作曲コミュニティでパン・シヒョクが見つけたBTS「No More Dream」以降の編曲核(Korea Herald
Slow Rabbit作曲・編曲HYBE / BigHitBigHit 社内。TXT のメインプロデューサーTXT 全般(Rolling Stone
ウジ(WOOZI)+BUMZUメンバー作曲・作詞HYBE / PledisSEVENTEEN の制作核。編曲は BUMZU と組むことが多い「MAESTRO」作詞・作曲 WOOZI, BUMZU(Genie
テディ(Teddy)編曲・音楽プロデュースYG / The Black Label1TYM 出身BLACKPINK の編曲クレジット曲
ミン・ヒジン(민희진)A&R(総括)ADOR(当時)曲の選定と録りの方向。トラックは組まないNewJeans の選曲・録音(中央日報
250(イオゴン。本名イ・ホヒョン、이호형)作曲・編曲BANA(ADOR 作品ほか)梨泰院の DJ 出身。NCT 127「ネ・バン(내 Van)」作曲 250・キム・ドンヒョン、編曲 250(GenieAttention/Hype Boy/Ditto/How Sweet(Bugs
FRNK(フランク。本名パク・ジンス、Park Jin-su、박진수)作曲・編曲ADOR 作品ほかCookie/OMG の核。V「Love Me Again」も作曲・編曲Cookie、OMG、Right Now(Bugs
パク・ジニョン(J.Y. Park)作曲・作詞・編曲JYP自分の曲は編曲にも名前が残る。TWICE では曲により席が分かれるBDZ (Korean Ver.) 編曲パク・ジニョン・イ・ヘソル(Bugs)。MORE & MORE 作詞・編曲。What is Love? 作曲
3RACHAメンバー制作JYP制作がメンバーへ移った形Stray Kids の自己制作
Gigi作詞ADOR 作品ほかNewJeans の詞を多数。編曲はしないHow Sweet 作詞(Genie)。V「Love Me Again」(Bugs)

表に入れない席

海外作家を集める制作キャンプのライターは、編曲の外注として存在する。フランキー・スコカ(Frankie Scoca)は「Super Shy」の編曲に名前があるが、ADOR 作品の核とは席が違う。ガイドボーカル、ミックス、振付も隣接する席ではあるが、楽曲制作の核からは外した。

おわりに

昼の車内から紙飛行機が空へ飛び立つ。

車の中で次にハトゥハがかかったら、こう聞いてみてほしい。これは「韓国の曲」というより、最初から世界向けに組まれた箱の出口から出てきた音だ。人を先に多国籍にし、曲を中で作り、棚を世界に置く。四大事務所は同じ箱を、SM は人の入口で、JYP は日本の升目で、HYBE は工程の輸出で、YG は出す数の絞りで、それぞれ違う向きに回している。共通している部分が仕組みであり、違う部分が社風である。

日本に足りないのは才能でも実績でもなく、この箱である。XG のような飛び出しはあるし、アニメもゲームも売れている。それでも、人が世界の売り場に載れると広く感じられる仕組みは、まだ無い。冒頭のペンペン草は、好みの話に見えて箱の話だった。車内でもららぽーとでも、流れてくるのは韓国の曲だけだ。装置の不在は、耳でわかる。

参考リンク

FAQ

韓国エンタメは輸出規模が小さいのでは?

小さい。コンテンツ輸出149億ドルは11業種の合計の速報値で、半導体の1割に届かない。それでも3階の判定は規模ではなく、人を世界の売り場に載せ、羽ばたけると感じさせる装置があるかどうかで行う。数字の小ささで落とすと、装置が見えなくなる。

80年代の日本アイドル工場と何が違うのか

工場の形は似ている。寮も過大投資も選抜の工程もある。違うのは向きだ。日本は国内のテレビと CM に最適化した。K-POP は同じ箱を最初から輸出用に組み立て直した。言語を先に入れ、棚を世界にした。発明は工場そのものより、組み立て直しにある。

XG のような日本発グループがあるのに「装置が無い」と言えるのか

XG は韓国式の育成法を取り込み、一つのプロジェクトとして世界へ出た。飛び出しとしては本物だ。ただ、日本の事務所が日本で組み直し、複数社が並走し、国として「羽ばたける」と感じさせる仕組みにはなっていない。本稿の「装置」はその仕組みを指す。