テスラFSD オランダ承認|EU展開と日本導入への影響を徹底解説【2026年4月】

📝 2026年5月20日更新:リトアニアがEU2か国目としてFSDを承認しました。

RDWの欧州型式承認を相互承認で受け入れた初の実例です。本稿の核心フレーム(Article 39→EU全域→国際標準化)の中間検証点として、5月20日追記セクションを追加しました。

テスラFSDオランダ承認の経緯と日本への影響

オランダのチューリップ畑と風車の道を走るテスラ Model 3 Highland

「2026年2月、欧州と中国でFSDが承認される。」

イーロン・マスクがダボス会議でそう発言したのは、2026年1月のことだ。中国政府は24時間以内に否定。欧州も2月が来て、3月が来て、何も起きなかった。そして4月10日、ついにオランダで正式承認が下りた。

結果的に、今回は本物だった。

テスラとFSD欧州展開の歴史を振り返ると、「楽観的な発表→期限直前に延期→また新しい日程発表」というサイクルが、2022年から足掛け4年にわたって繰り返されてきた。EU在住のテスラオーナーたちはそれを何度も経験し、「believe it when you see it(実際に見るまで信じるな)」という言葉が合言葉になっている。

では、今回の「4月10日」は何が違ったのか。

本稿では、この問いを振り返る。オランダ承認に至るまでの規制的・技術的経緯を整理し、承認後のEU展開のメカニズムを解剖し、そして日本のテスラオーナーにとってこの動きが何を意味するのかを考えてみたい。

最後に、「テスラFSDオランダ承認の経緯と日本への影響」で提起した問いに対する答えを振り返る。今回は本物だった。そして条件付きで承認が下りた。その経緯を、順を追って説明していく。

テスラとEU規制の4年戦争──延期の歴史

テスラFSD欧州承認・オランダ4月10日の全真相

まず、歴史を整理しよう。テスラがFSDの欧州展開を「間もなく実現する」と言い始めてから、すでに4年が経過している。

時期 テスラ/マスクの発言・行動 実際の結果
2022年夏 「まもなく欧州でFSD提供」とMusk発言 実現せず
2024年末 「2025年初頭に欧州承認予定」 実現せず
2025年11月 Tesla Europe「RDWが2026年2月承認を確約」と投稿 翌日RDWが否定・訂正
2026年1月(ダボス) Musk「2月中に欧州・中国で承認」 中国は24時間以内に否定、欧州も未達
2026年3月20日 元の承認予定日(Musk宣言) 書類審査中につき延期。4月10日に変更
2026年4月10日 RDW正式承認 承認確定 ✔

これだけ見ると、「また延期するんじゃないか」という疑念は極めて合理的だった。しかし、2026年3月の動きは過去の延期とは構造的に異なっていた。

過去の延期はすべて「まだ承認されていない」という事実が後から判明したものだった。テスラが「2月承認」と発表した翌日にRDWが否定したのが典型例だ。対して今回は、テスラが「最終テストフェーズを完了し、全書類を提出した」という具体的なマイルストーンを達成した上で、RDW自身が異例の公式声明を出して「審査の最終段階にある」と確認している。

「日程を急ぐことはしない」という言葉は、確かに不安要素ではあった。だが「審査の最終段階」という表現は、過去の延期局面では一度も出てきていなかった。これが今回の4月10日を「異質」にした最大の根拠であり、実際に承認は実現した。

なぜオランダなのか──Article 39 戦略の解剖

なぜテスラはオランダを選んだのか Article39戦略の解剖

なぜテスラは「EUの一加盟国」であるオランダに、これほどのリソースを集中させてきたのか。その答えはArticle 39(EU型式承認例外措置)という規制の合法的な迂回路の活用にある。

テスラFSDが既存の枠組みに「ハマらない」理由

欧州で自動車の運転支援機能を認可するには、UN R-171(DCAS:ドライバーコントロール支援システム規制)への適合が必要だ。UN R-171は2024年3月にUNECE WP.29で採択された国際規制で、ハンズオフの車線維持や、システム主導の車線変更などを規定している。

問題は、UN R-171が「規則ベース」の枠組みであることだ。テスラのFSD(Supervised)はニューラルネットワーク(AI)が周囲の状況をリアルタイムで判断し、あらゆる道路状況に対応する。これを「決められた条件下でのみ動く」ことを前提とした規制に当てはめると、どうしても「はみ出す」部分が出てくる。

テスラはRDWとの18ヶ月の交渉を経て、「フル機能での規制適合は安全性を損なう」として規制の一部遵守を拒否した。その代わりに取った戦略が、Article 39(EU指令 2018/858/EC 第39条)の活用だ。

Article 39とは何か

Article 39は「まだ規制されていない新技術」について、加盟国が一定条件のもとで暫定的な国内承認を与えられる制度である。承認は最長18ヶ月(9ヶ月+9ヶ月延長)の暫定措置として発効し、その間に欧州委員会のTCMV(自動車技術委員会)で正式なEU規制を整備するかどうかを審議する。

テスラはこの制度を使い、オランダだけに限定した承認を取得し、そこからEU全体への波及を狙う「Netherlands First戦略」を構築した。

テスラが「初」ではない──BMW・Fordの先例

なお、先進運転支援システムの型式承認はテスラが初めてではない。RDWは公式声明で以下の先例を挙げている。

  • BMW:高速道路でのハンズオフ走行+自動車線変更の承認を取得済み
  • Ford(Blue Cruise):Article 39を通じて高速道路でのハンズオフ走行の承認を取得済み

RDWは「先進運転支援システムの型式承認は新しいことではない」「年間約5万件の型式承認を発行している」とも述べており、テスラのFSD承認は「前例のない特別扱い」ではなく、既存の制度を正当に活用したものであることを強調している。

18ヶ月間、テスラは何をやっていたのか

2024年秋から2026年3月にかけて、Tesla EuropeとRDWが実施したテストプログラムの規模は以下のとおりだ。

  • EU17ヶ国の公道で 160万km超 のFSD走行テスト
  • 1万3,000回超 の顧客向け同乗試乗(セールス・ライドアロング)
  • 4,500件超 のトラックテストシナリオ
  • 400以上 のコンプライアンス要件に対応する数千ページの文書
  • 複数の安全性研究論文 の提出

2026年3月20日、Tesla EuropeはXで「RDWとともに、最終車両テストフェーズを正式に完了し、UN R-171承認およびArticle 39例外措置に必要な全書類を提出した」と発表した。RDWはこれを受け、異例の公式コメントで「現在、最終評価段階にあることは確認できる。安全性が最優先であり、最終決定を急ぐことはしない」と述べた。

承認後に何が起きるのか──EUドミノの仕組み

オランダ承認後のEUドミノ展開フロー

RDWの承認(4月10日確定)を起点に、EU全域への展開はどのように進むのか。3つのステップで解説する。

ステップ1:オランダ国内承認の発効

RDWはArticle 39に基づくオランダ国内の型式承認を発行した。これによりオランダ国内のテスラ車(HW4/AI4搭載)でFSD(Supervised)が利用可能になる。承認はFSD v14系(HW4向け)に限定されており、HW3のオーナーは対象外だ。

ステップ2:欧州委員会への申請と全加盟国投票

RDWは公式声明で、EU全域への展開には以下のステップが必要だと明示している。

  1. RDWが欧州委員会にEU全域での使用許可を申請
  2. 全加盟国が投票
  3. 責任ある委員会(TCMV)で過半数の賛成が必要

可決されれば、全加盟国で一括有効化される。つまり「国ごとの個別認識」ではなく、一度の投票でEU全域に適用される仕組みだ。Teslaは「2026年夏中にEU全域承認」を目標としているが、TCMVにはVW・BMW・ルノー・ステランティスなど欧州主要メーカー出身国の代表も参加しており、競争上の警戒から反対票が集まるリスクがある。

ステップ 時期(Tesla見込み) 対象
オランダRDW承認 2026年4月10日(承認済み ✔) オランダ国内
EU主要国の個別認識 2026年春〜初夏 各国個別
TCMV多数決・EU全域承認 2026年夏(楽観シナリオ) EU27ヶ国
HW3向けFSD v14 Lite欧州展開 2026年Q4〜2027年 HW3ユーザー

HW3ユーザーへの注意点

今回の承認対象はHW4(AI4)搭載車向けのFSD v14系に限定されている。HW3搭載の旧型モデル向けには「FSD v14 Lite」が2026年Q2(夏頃)に北米先行で提供される見通しだ。

日本への波及──オランダが「先例」になる日

テスラFSD日本展開 新宿公道テスト開始

2026年3月6日、新宿で始まったこと

Tesla Japan(テスラジャパン)は2026年3月6日、公式Xで「FSD(Supervised)を東京都新宿区でテスト。2026年に国内導入することを目標に開発を進めています」と発表した。テスラジャパンの橋本社長は日経新聞のインタビューで「2026年中に実装を目指す」と明言している。

日本の規制的ハードルと突破口

突破口として期待されているのが、2026年6月のUNECE「ADS新規則」の正式採択だ。「Safety Case」アプローチを採用しており、「人間より安全であることを実証できれば認可」という考え方に基づく。

さらに2025年10月、国交省が「特定改造制度」の枠組みを整備した。FSD認可が下りた際、国内の約4万台のテスラ車にOTAで一括配信できる法的根拠が整った。

シナリオ 条件 時期
楽観シナリオ 2026年6月UNECE新規則採択→国交省が迅速に反映→テスラが安全データ提出 2026年秋〜冬
慎重シナリオ UNECE採択後の国内反映に時間→日本特有の交通ルール対応データが追加必要 2027年以降

FSD v14.3──「推論機能」が変えるもの

FSD v14.3 AIリアルタイム推論機能

欧州承認の話と並行して、ソフトウェア面でも重要な動きがある。2026年3月19日、イーロン・マスクはX上で「FSD v14.3は現在テスト中。数週間以内にワイドリリース」と投稿した。

v14.3の最大の特徴は、FSDの判断プロセスへのリアルタイム推論(Reasoning)機能の本格統合だ。v14.2系ですでに工事ゾーンでの迂回ルート変更や駐車オプションに推論機能が一部導入されていたが、v14.3ではこれが全域に拡張される。

バージョン ハード リリース時期 主な特徴
FSD v14.2.2.5 HW4のみ 2026年3月現在の最新 推論機能の一部実装
FSD v14.3 HW4のみ 数週間以内(4月頃) 推論のフル統合、ナビ改善
FSD v14 Lite HW3 2026年Q2目標(北米先行) v14の機能をHW3向けに最適化

リスクと懸念材料──無邪気に喜べない理由

テスラFSD承認のリスクと懸念材料

NHTSA調査の拡大

米国では、NHTSAがFSD搭載の320万台に対し、霧・砂塵・逆光などの視界不良時の安全性を巡る調査を「Engineering Analysis」に格上げした。米国での調査がリコール勧告につながれば、欧州・日本での承認プロセスに影響が出る可能性は排除できない。

欧州メーカーのロビー活動

TCMVでの多数決には、欧州主要自動車メーカー出身国の代表も参加する。技術的な反論ではなく、政治的・産業政策的な論理で反対票が集まる可能性は現実にある。

テスラ欧州のブランド毀損

テスラの欧州登録台数は2025年に前年比約27.8%減少しており、2026年も下落傾向が続いている。FSD承認が即座の販売回復に直結するという楽観論には注意が必要だ。

Article 39の「時限措置」性

Article 39に基づく承認は最長18ヶ月(9+9ヶ月)の暫定措置だ。EU全域での恒久的なサービス継続には、最終的にUN規制への正式適合が求められる。

まとめ──「今回は本物」と言える根拠と、その条件

テスラFSD欧州承認・オランダ4月10日の全真相

では冒頭の問いに戻ろう。「今回の4月10日は、過去の延期と何が違うのか」──初版で立てたこの問いに、追記セクションで答えが出た。その上で、当初の分析が正しかった根拠を改めて整理する。

違いは3つある。

第1に、テスラが「全書類提出完了」という具体的なマイルストーンを達成した。今回は審査の「入口」ではなく「出口」に立っている。

第2に、RDWが自ら「最終評価段階にある」と公式に確認した。規制当局がコメントすること自体が異例であり、それを「最終段階」と表現したことは、過去の延期局面では一度もなかった。

第3に、承認対象が「FSD v14(HW4車両)のみ」という具体的な絞り込みがされている。全車種・全バージョンへの一気展開ではなく、実証データのある範囲に限定した現実的な申請だ。

最終的に言えるのは、「今回は構造的に前回までと違う」ということだ。4年間の「延期の歴史」が今回初めて、書類提出完了という具体的な成果を伴っている。「見るに値するフェーズ」に初めてたどり着いたのも、また事実だ。

4月10日、私たちは注視する──そう書いたのが本稿の初版だった。そして実際に承認は実現した。延期の歴史がようやく、ひとつの区切りを迎えた。

※ 2026年4月10日のRDW承認以降の動向(EU各国の追随・停滞、HW3集団訴訟など)は、本稿末尾の「追記」セクションにて随時更新しています。本まとめは2026年4月10日時点の総括であり、追記内容を反映した再評価は次回の大きな節目(TCMV投票、UNECE ADS新規則採択など)でまとめて行う予定です。

【2026年4月10日追記】RDW承認確定と前後の動き

2026年4月10日、オランダの車両認証機関RDW(Rijksdienst voor het Wegverkeer)は、テスラのFSD(Supervised)をArticle 39に基づき正式に承認した。2022年夏に「まもなく欧州でFSD提供」とMuskが発言して以来、足掛け4年。延期に延期を重ねた末に、ついに「believe it when you see it」の瞬間が訪れた。

本稿の冒頭で「今回は本物だと思う。ただし、条件がある」と書いた。そして実際に、条件付きではあるが承認は実現した。「全書類提出完了」「RDWの最終評価段階」という2つの過去にないマイルストーンが、予測の正しさを裏付けた形だ。

承認対象はHW4(AI4)搭載車向けのFSD v14系に限定されている。HW3ユーザーは引き続き「FSD v14 Lite」の提供を待つ必要がある。

Tesla Europeは承認発表のXポストで「FSD Supervisedはオランダで承認され、間もなく国内でのロールアウトを開始する」と明言した。オランダ国内のAI4搭載車へのOTA配信が数週間以内に始まる見通しだ。

RDW公式声明の要点──EU版FSDは米国版と別物

RDWは承認と同日に発表した公式声明で、重要な点を明確にしている。

第1に、EU版FSD Supervisedは米国版とは異なるソフトウェアである。RDWは「米国と欧州の車両のソフトウェアバージョンおよび機能は1対1で比較できない」と明言している。欧州では米国のようなメーカー自己認証制度ではなく、車両認証機関による事前の型式承認が必要であり、安全・環境基準がより厳格だ。米国でのFSD報道やレビューをそのまま欧州版に当てはめることはできない。

第2に、厳格なドライバー監視が組み込まれている。FSD Supervised有効時、複数のセンサーがドライバーの目が道路に向いているか、手がすぐハンドルを握れる状態かを常時監視する。手はハンドルに置く必要はないが、必要時に即座に握れる状態であることが求められる。注意力不足を検知すると段階的にアラートが作動し、それでも反応しない場合はシステムが一時的にロックされる。RDWは「新聞を読みながら運転することは許可されていないし、不可能」と明言している。

第3に、RDWはこのシステムの安全性を積極的に評価している。「このシステムは複数の運転タスクを引き受けるため、正しく使用すれば交通安全に積極的に貢献する」「継続的な厳格なドライバー監視により、他の運転支援システムよりも安全である」と述べている。ただし「FSD Supervisedは自動運転車ではない。ドライバーが常に責任を負い、交通に参加し続けなければならない」という点も改めて強調されている。

EU夏ロールアウト──ドミノ効果の詳細

オランダ承認の確定により、本稿で解説した「EUドミノ」のステップ2に進むことになる。RDWの公式声明によれば、RDWが欧州委員会に申請し、全加盟国の投票で過半数の賛成を得れば、全EU加盟国で一括有効化される。

Tesla Europeは「2026年夏中にEU全域承認の可能性がある」としており、バークレイズのアナリスト、ダン・レヴィ氏も「他のEU諸国はオランダの承認を認めることができ、夏の間にEU全域での承認が可能となる」とコメントしている(Investing.com)。ドイツ・フランス・ベルギー・スペイン・イタリアなどが夏までに段階的に承認を認識するシナリオが現実味を帯びてきた。

ただし、前章「承認後に何が起きるのか」で述べたとおり、TCMV(自動車技術委員会)での多数決によるEU全域の正式承認は別のハードルだ。欧州主要自動車メーカー出身国の代表による政治的反対のリスクは残っている。楽観シナリオでは夏中、慎重に見ればQ3末〜Q4という見方もある。なお、承認当日時点でこのTCMVへの申請プロセスはまだ開始されていない(EVXL)。同メディアは「EU全域承認はQ4 2026が最速、ドイツ・フランスは個別の国内審査を要し2027年にずれ込む可能性が高い」とより慎重な見通しを示している。

また、ノルウェーはEU加盟国ではないが、2年間のFSDテスト許可をすでにテスラに発行しており、オランダ承認のデータを活用して独自の国内承認に進む可能性が高い。英国も規制協力の枠組みの中で追随が見込まれるが、独自の審査プロセスが必要であり、2027年以降になるとの見方が多い。

非公式FSD無効化の動き──テスラが「ジェイルブレイク」を一斉取り締まり

オランダ承認の前日にあたる4月9日、テスラは欧州・中国・日本・韓国・英国など世界各地で、サードパーティ製デバイスを使って非公式にFSDを有効化していた車両に対し、リモートでFSD機能を無効化する措置を開始した(Tarantas NewsTeslarati)。

これらの「ジェイルブレイク」ツールは、約500ユーロのUSBモジュール型デバイスで、車両のCANバスに接続してFSDを強制的にアンロックするものだ。ポーランド・ウクライナなどで配布され、中国だけで10万台以上にインストールされていたとされる。

テスラはOTAアップデートを通じてFSD機能を無効化し、車内通知とメールで以下のような警告を送信している。


「お客様の車両で、許可されていないサードパーティ製デバイスが検出されました。安全上の予防措置として、一部の運転支援機能を無効化しました。」

一部のケースではFSDの永久無効化も報告されている。正規にFSDを購入済みのオーナーであっても、非公式デバイスの使用が検出された場合はアクセスを失う可能性がある。

この動きは、オランダ承認のタイミングと無関係ではない。非公式にFSDが使用されている状態は、規制当局の認証プロセスを複雑にするリスクがあるため、テスラは正式な承認取得に先立って「クリーンな状態」を確保する必要があった。正規ルートでの欧州展開が現実化した今、グレーゾーンの排除は合理的な判断と言えるだろう。

【2026年4月19日追記】承認後1週間で見えてきたこと——追随・停滞・訴訟の三本柱

RDW承認から約1週間。本稿が解説したArticle 39戦略EU 相互承認の実効性が、非対称な形で試され始めている。追随・停滞・訴訟という三つの動きを簡潔にまとめる。

🟢 追随の動き

承認翌日の4月11日、オランダのHW4搭載車にソフトウェアバージョン2026.3.6のOTA配信が即日開始された。ベルギーはFlemish州政府がFSD実装検討を正式表明し、EU域内では最も早い追随候補に浮上している。さらにテスラのAI責任者Ashok Elluswamy氏が4月13日に、UNECE加盟56カ国(日本・韓国を含む)への波及可能性に言及している。これは「EU承認が日本認可のレファレンスになり得る」という本稿の主張の裏付けとなる発言だ。

🟡 意外な停滞——ノルウェーの冬

対照的に、ノルウェー公道交通局(SVV)は4月14日、北欧の冬環境への適合データ提出を要求するという慎重姿勢を表明した。本稿の初版ではノルウェーを「オランダ承認データを活用して独自の国内承認に進む可能性が高い」と予測したが、実態はより段階的なプロセスになりそうだ。EU 相互承認は自動で適用されるわけではないことを示す早期の事例といえる。

🔴 HW3訴訟の立ち上がり

本稿の「HW3ユーザーへの注意点」で触れた懸念が、想定より早く現実化した。4月14日、オランダのMischa Sigtermans氏がhw3claim.nlを立ち上げ、HW3でFSDを購入したEUオーナーを束ねる集団訴訟の準備を開始。1週間で29カ国から約3,000人が登録し、FSD購入額換算で€6.5M(約11億円)規模に達している。4月17日にはテスラへの問い合わせに「Just be patient(ただ待て)」との回答が返り、騒動が拡大。「リスクと懸念材料」章で論じた「無邪気に喜べない理由」のうち、HW3問題が最も早く火を噴く論点として顕在化した格好だ。

引き続き経過をウォッチし、大きな動きがあれば随時追記する。特に5月のTCMV多数決と6月のUNECE ADS新規則採択は、本稿の核心フレーム(Article 39→EU全域→国際標準化)の最終検証点となる。

【2026年5月6日追記】Reutersが暴いた当局の本音——技術懸念・スケジュール後退・ロビー逆効果

5月5日(CET)、Reutersが情報公開請求で入手したEU規制当局の内部メールを公開した。Muskが繰り返してきた「EUは間もなく承認する」という確信に対し、当局側の本音は明らかに違う。本稿のリスクと懸念材料章で挙げた条件のうち、技術評価面での詰めが想定より重くなる可能性が浮かび上がった。

🟡 5月のTCMV採決は予定されていない

4月19日追記で「5月のTCMV多数決」を最終検証点と書いたが、これは事実上後退している。5月5日の委員会公聴会はオランダ当局がRDW承認の根拠を説明する場にとどまり、今週中の採決はない。次回会議は7月と10月。承認には加盟国数55%・人口65%の二重多数決という高い閾値があり、初回採決すら数カ月先送りされる構図だ。テスラが機密プレゼンで示した「Q2〜Q3 2026のEU承認」というタイムラインは、規制当局の往復書簡を追う限り現実的でない。

🔴 技術懸念は速度・冬・スマホ・二輪に及ぶ

Reutersが入手した内部メールには、複数の具体的な技術懸念が並ぶ。スウェーデン運輸庁の調査官Hans Nordinは4月15日のメールで、FSDが法定速度超過を許容している点について「率直に驚いた」と書面で記し、欧州交通法では認められるべき挙動ではないと指摘した。フィンランドのJukka Juhola氏は「凍結した時速80kmの道路でハンズフリー運転を許す気か」と問い、北欧諸国はトナカイ・ヘラジカへの対応にも触れている。RideApartが1月に問題提起したように、FSDが二輪車を確実に検知できないという根本課題は未解決のまま。二輪車比率が米国より高い欧州市場では、北欧の冬同様、米国走行データだけでは詰めきれない論点として浮上している。

共通する論調は「テスラの安全性主張は米国走行データに偏重しており、EUの交通環境への適合検証が不足している」という点だ。FSDが米国基準で十分でも、EU設計思想で十分とは限らない——本稿の「Article 39戦略の解剖」で触れたEU基準のローカリティ問題が、制度面に降りてきたといえる。

🟠 ユーザー動員ロビーが逆効果に

規制当局のメールには、テスラのロビー戦術への苛立ちも明確に記録されている。オランダ承認発表からわずか4日後にスウェーデン当局へテスラのポリシーマネージャーが承認働きかけに動いていたこと、ユーザーに自国政府への圧力を呼びかける広報戦術が当局側の不信を強めていることが読み取れる。RDWのBernd van Nieuwenhoven局長が「私たちは徹底的にテストした、信じてくれと言うしかない」と説明する一方で、他国当局のスタンスは対照的だ。承認の説得材料が「ユーザー動員」と「他国先行事例」に偏りすぎると、Article 39の理念(独立した技術評価)と摩擦を起こす。

本稿のEUドミノの仕組み章で書いた「相互承認は自動で広がるわけではない」が、想定より早く、そしてより明確に裏付けられた格好だ。次の節目は7月と10月のTCMV会議。本稿の核心フレーム(Article 39→EU全域→国際標準化→日本への波及)が機能するか否かは、この二回でほぼ確定する。引き続き追記する。

【2026年5月20日追記】リトアニアが”相互承認”初適用——EU2か国目の承認とドミノの実証

RDW承認から約40日。本稿の核心フレーム「Article 39→EU 相互承認→国際標準化」のうち、第2段階の相互承認が初めて実体を持って機能した。リトアニアが2026年5月18日、EU2か国目としてFSD Supervisedを承認した。

🟢 リトアニアが相互承認で承認、即日ロールアウト

2026年5月18日、リトアニア運輸通信省と運輸安全庁(LTSA)が、RDWの欧州型式承認を相互承認方式で受け入れると発表。数時間後にはTesla EuropeがX上で「FSD Supervised Now in Lithuania」とロールアウト開始を確認した。価格はEU共通の月額€99、Enhanced Autopilot既購入者は€49。買い切りは2026年2月に世界的に廃止されているため、リトアニアでもサブスク専用となる。

注目すべきは独自テストを経ていない点だ。RDWが2026年4月10日にv14.3向けに付与した型式承認を、リトアニア側はそのまま受け入れた。これは本稿「EUドミノの仕組み」章で書いた「相互承認」が、想定通りに機能した最初の実例である。

🟡 ノルウェー(停滞)との対照——フレームの妥当性が試される

4月19日追記で扱ったノルウェーの停滞と並べると構図が見えやすい。ノルウェーはEU非加盟国であり、SVV(公道交通局)が「北欧の冬環境への適合データ提出」を要求した。一方リトアニアはEU加盟国で、Article 39の枠組みの中で動いた。同じ「他国の承認データを参考にする」立場でも、EU加盟か否か・追加要件の有無で結果が分かれる。

つまり本稿のフレーム「Article 39→EU全域→国際標準化」は、EU内部では機能することが実証されつつある。一方でEU外(ノルウェー、英国、日本など)への波及は別ロジックであり、独自審査プロセスが介在する。リトアニア承認はフレームのEU内有効性を補強した一方、EU外への自動波及は引き続き慎重に見るべき、という整理になる。

🔵 次の焦点はTCMV(7月・10月)

リトアニアは「相互承認」段階での1か国追加に過ぎず、EU27か国全域での一括承認にはTCMV(自動車技術委員会)での加盟国数55%・人口65%の二重多数決が必要だ。Tesla内部目標は2026年Q2-Q3のEU全域承認とされるが、5/6追記で書いた通り5月のTCMV採決は後ろ倒しになっており、次回は7月と10月。Reuters報道で露呈した規制当局側の技術懸念(速度・冬季・スマホ・二輪検知)が委員会でどう扱われるかが、フレームの最終検証点となる。

リトアニアの後に続くEU加盟国が現れるかも観察ポイント。Flemish州政府が表明していたベルギーの動きも含め、TCMV採決前の「相互承認ドミノ」がどこまで広がるか、引き続き追記する。

FAQ

テスラFSDのオランダ承認は「確定」なのか?

2026年4月10日、RDWはArticle 39に基づきFSD(Supervised)を正式に承認しました。承認対象はHW4(AI4)搭載車向けのFSD v14系で、EU全域への展開は2026年夏を目標としています。

オランダで承認が下りたが、日本でもすぐ使えるようになるのか?

そうではありません。日本では国交省(MLIT)による独自の型式認定が必要です。オランダ承認は技術データの「リファレンスモデル」としては使えますが、日本での認可プロセスは別途必要です。最短でも2026年秋〜冬、慎重に見れば2027年以降という見通しです。

HW3搭載の旧型テスラはどうなるのか?

今回の欧州承認の対象はHW4(AI4)搭載車向けのFSD v14系が中心です。HW3ユーザーは「FSD v14 Lite」の登場を待つ必要があります。北米でのQ2(2026年夏頃)リリースが目標とされており、欧州・日本での提供はその後になる見込みです。

FSD(Supervised)は「自動運転」なのか?

SAEレベル2の「高度な運転支援」です。ドライバーはハンドルに手を添えた状態で常時監視義務を負い、緊急時は即座に介入しなければなりません。「無人走行」や「ドライバー不要」ではなく、あくまでドライバーがいることを前提としたシステムです。

最新情報はどこでチェックすればいいですか?

本記事の更新に加え、専門トラッカーTesla FSD ニュースウォッチ・認可トラッカー(tesla.lounges.site)で、世界19地域の認可マトリクス、規制動向、1時間ごとのニュース自動収集を確認できます。

テスラ日本シリーズ

本記事は、テスラの日本市場を3つの視点で読み解くシリーズの一本です。全体像は「日本でテスラはキャズムを越えたのか」(Pillar記事)から読み始めるのがおすすめです。

【柱A:規制・建付け】——4軸ねじれ論と建付け3層構造

【柱B:市場戦略】——ボウリングピン戦略の日本文脈化

【柱C:企業分析】——3階建てモデル(地層沈降モデル)

参考リンク