Hearts2Heartsの楽曲はなぜ耳に残るのか——m-flo、UKガラージ、そして音楽の水脈を辿る

はじめに:その感覚に、名前をつけたい

Hearts2Hearts × m-flo ── グルーヴの記憶

初めて聴いた瞬間、「これ、知っている気がする」と思った。

Hearts2Hearts(하츠투하츠、略称H2H)の楽曲を初めて聴いたとき、不思議な既視感がある。SMエンターテインメントの新人ヨジャグループ、2025年デビュー、第5世代K-POP——そういう説明文の上に乗っかった音楽ではなく、もっと深いところにある「記憶」が反応する感覚だ。

それが何なのかを言葉にしようとして、ふと思った。m-floだ、と。

2001年に「come again」で日本の音楽シーンをひっくり返したあの感覚。ハウス、R&B、ヒップホップが一つの曲の中で溶け合い、しかもJ-POPとして成立していた、あの驚き。その血が、2025年のソウル発8人組ガールズグループの楽曲に流れている——そういう直感は、果たして正しいのか。

この記事では、その直感を徹底的に検証する。Hearts2Heartsの主要楽曲を音楽理論・アレンジ理論の観点から解剖し、m-floとの共鳴関係を明らかにし、さらに遡ってUKガラージ、ハウス、ファンク、ディスコという音楽の水脈を辿る。ただの「好き」に根拠を与えることが、この記事の目的だ。

そして最後に、冒頭の問いに答えよう——「その感覚に、名前はあるか」。

本文ではグループの背景やm-floとの血脈、水脈としてのUKガラージ/ハウス/ファンクを辿るが、記事の末尾には「参考:楽曲別 音楽理論・アレンジ詳細解説」としてThe Chase〜RUDE!まで主要曲それぞれのコード/リズム/アレンジを専門的に掘り下げた付録セクションも用意した。読み終えたあとで「耳に残る理由」を自分の耳で検証したくなったら、そこから好きな曲に飛んでほしい。

第1章:Hearts2Heartsとは何者か

Hearts2Hearts 8人のシルエット

グループの基本情報

Hearts2Hearts(하츠투하츠)は、SMエンターテインメント所属の8人組ガールズグループだ。メンバーはJiwoo(ジウ)、Carmen(カルメン)、Yuha(ユハ)、Stella(ステラ)、Juun(ジュン)、A-na(アナ)、Ian(イアン)、Ye-on(イェオン)。2025年2月24日にシングルアルバム「The Chase」でデビューし、ファンダム名はS2U(하츄 / ハチュ・ハーツユー)という。

グループ名には「多様な感情と真心のこもったメッセージが詰まった神秘的で美しい音楽の世界を通じてグローバルなファンとつながり、より大きな”私たち”として共に前へ進む」という意味が込められている。このコンセプトが楽曲にも反映されており、デビューから現在に至るまで一貫して「感情的な深みとダンサブルなグルーヴを両立させる」という軸がブレていない。

作家陣の顔ぶれ

楽曲のクオリティを語る上で、作家陣の布陣は重要だ。デビュー曲「The Chase」の作詞は、SMエンターテインメントの看板作詞家・プロデューサーであるKENZIE(キム・ヨンジョン)が担当。KENZIEは1976年生まれ、バークレー音楽大学(1999年卒)を出て韓国に帰国した直後にSM創立者イ・スマンと出会いSMに参加した人物で、BoA、東方神起、少女時代など数々の名曲を手がけてきた。Rolling Stoneは彼女を「K-POPの陰の立役者(veteran producer behind dozens of K-pop’s biggest hits)」と称し、これまでに600曲以上の楽曲制作に携わったとされる。作曲には英国の人気R&BガールズグループFLO(Stella Quaresma、Renée Downer、Jorja Douglas)が参加し、国際的な制作体制を取っていることが最初から明確だった。

1stミニアルバム「FOCUS」(2025年10月20日)のタイトル曲では、作詞は引き続きKENZIEが担当し、作曲はDavid Wilson、Michael Matosic、Dewain Whitmore、Hailey Collierという欧米の作家陣が名を連ね、編曲をdwillyMichael Matosicが担った。同アルバム収録のApple Pieは作詞がOndine、作曲がMicah Gordon・Gina Kushka、編曲がMicah Gordonというラインナップだ。SMが意図的に欧米のグルーヴミュージック系作家と組んでいることが透けて見える。

第2章:主要楽曲 詞と世界観の解説

詞と世界観 ── KENZIEとOndineの筆

楽曲の「良さ」はトラックだけでは完結しない。歌詞の世界観と音楽が一体となって初めて、あの中毒性が生まれる。主要5曲の詞と世界観を整理しよう。

The Chase(2025年2月24日)

作詞:KENZIE、作曲:FLO + Lauren Faith, Hannah Yadi。

歌詞は追いかけ合う関係の高揚感と、未知の世界への探求心を幻想的に描く。光や色彩、謎めいた仕掛けが象徴として配置され、「何かを追い求めること自体が快楽だ」というテーマが一貫している。KENZIEの筆が生む「具体的な情景描写のないまま感情だけが解像度高く伝わる」という技法が存分に発揮された作品だ。

STYLE(2025年6月18日)

作詞:KENZIE、作曲:Mike Daley, Mitchell Owens, Adrian McKinnon, Sara Forsberg、編曲:Mike Daley, Mitchell Owens。

歌詞は「作り込まれた魅力ではなく自然体のスタイルこそが理想」という内容だ。「I like the way you walk, talk, dress, no stress」のように、相手の外形的なスタイルではなく、その人らしい振る舞いや空気感そのものを肯定するフレーズが並ぶ。SNS時代の「盛られたイメージ」ではなく、歩き方や話し方といった身体性のディテールに価値を見出す視点が強調されており、The ChaseやFOCUSが「没入」や「追いかけ合い」を描くのに対し、STYLEは「すでにそこにある魅力」を静かに認める歌として、グループのメッセージのもう一つの軸を提示している。

Pretty Please(2025年9月23日)

作詞:SAAY(SOULTRiii)、作曲:SAAY, DEEZ, SoulFish(SOULTRiii)、編曲:DEEZ, SoulFish。

Pretty Pleaseは、告白直前の「もう一押し」をめぐる心理を描いた曲だ。「pretty please」というフレーズが持つ子どもっぽい甘さと、かわいく懇願するニュアンスが全編を貫いている。ただし主人公は相手に全てを委ねているわけではなく、「私の気持ちはもう決まっている、あとはあなた次第」というスタンスを崩さない。FlutterやApple Pieが友情や秘密の共有を題材にしているのに対し、Pretty Pleaseはロマンスの一歩手前で立ち止まる甘くも不確かな時間を描き、その揺れを「tell me that you want me, pretty please」というフレーズに凝縮している。

Apple Pie(2025年10月20日)

作詞:Ondine、作曲・編曲:Micah Gordon, Gina Kushka。

「皿に盛られた秘密、一欠片の特別なアップルパイ、深い悩みさえもアイスクリームのように溶ける」——女の子たちが「私たちだけの秘密」を語り合うパジャマパーティーを、アップルパイを囲む夜に例えた歌詞だ。「11時に来て、名前の代わりに『A』と呼んで」という具体的な描写が親密さを演出し、夜の終わりに「結局隠される今夜」と締めくくる余韻が絶妙だ。KENZIEではなくOndineが担当したことで、よりファンタジックで少女的なトーンが生まれている。

FOCUS(2025年10月20日)

作詞:KENZIE、作曲:David Wilson, Michael Matosic, Dewain Whitmore Jr., Hailey Collier、編曲:dwilly, Michael Matosic。

歌詞は「あなた以外にはピントが合わない」という没入状態を、一貫してカメラと視界のメタファーで描いている。「frame(フレーム)」「focus(ピント)」「tunnel vision(トンネルビジョン)」といった語を並べながら、相手を視界の中心に収めた瞬間に周囲の世界がぼやけていく感覚を言語化しているのが特徴だ。「I cannot focus on anything but you baby」「blurry behind the focus, half-clear, my view baby」といったラインは、恋愛によって日常の優先順位が塗り替えられていくプロセスを、光学的なイメージで表現したものだと言える。

RUDE!(2026年2月20日)

作詞・作曲:Kass & Sebastian Thott ほか、編曲:Sebastian Thott。KENZIEは本作に不参加。

歌詞は「無礼だ・生意気だ」というレッテルを武器に変える自己肯定がテーマだ。「누가 뭐래도 can’t change me(誰が何と言おうと私は変えられない)」「지금 이대로 좋아, 나다울 때 누구보다 눈부셔 난(今のままで良い、私らしい時が誰よりも輝く)」というラインが核心を突いている。従来のアイドルに求められる”従順さ”への反抗であり、終盤でメンバーたちの笑い声が挿入され、サビのリフレインがアウトロとして繰り返されたままカットアウトで断ち切られる演出が「私たちはすでに自分たちに満足している」という宣言を体で示している。これまでのH2Hタイトル曲が初恋のときめきを中心に展開してきたのに対し、今回のカムバのタイトル曲であるRUDE!は第四の壁を破る自己宣言曲として明確な進化を示している。

第3章:m-floとの共鳴——20年越しの血脈

m-flo × SM ── 東京とソウルをつなぐ音楽DNA

m-floとは何者だったのか

m-flo(エムフロウ)は、1998年にVERBALと☆Taku Takahashiによって結成された音楽グループだ。VERBALはインターナショナルスクールで育ち、14歳の頃からヒップホップに傾倒して英語でリリックを書き始めた。☆Takuは帰国後に渋谷系、エレクトロニカ、ハウス、テクノと多様なジャンルを吸収し、二人の異なるルーツが化学反応を起こしてm-floが生まれた。

m-floの本質は、複数のジャンルのグルーヴを一つのポップソングに統合する設計力にある。2ndアルバム「EXPO EXPO」は「ダンスミュージックの博覧会」と評されるほど、2ステップ、ドラムンベース、ヒップホップ、R&B、ハウス、テクノが一枚に同居していた。

そして2001年、「come again」で日本に2ステップの衝撃をもたらす。「日本の歌謡曲の方程式を無視してつくった」と☆Takuが語るほど、それはJ-POPの文法的逸脱だった。その曲がオリコン4位を記録した事実は、「クラブミュージックをポップスとして機能させた」という歴史的な達成を意味する。

SMとm-floの直接的な接点

見逃してはならないのが、m-floとSMエンターテインメントの直接的な接続だ。

m-flo loves BoA「the Love Bug」(2004年)と、BoA「BUMP BUMP! feat.VERBAL(m-flo)」(2009年)——これらのコラボレーションは、SMの音楽的DNAに☆Takuが持ち込んだUKガラージ/2ステップ/ハウスグルーヴの感覚が20年以上前から注入されていることを示している。

H2Hにm-floの血脈を感じるのは偶然ではない。SMがその感覚を受け継いだまま2025年まで来て、H2Hというグループで開花させたのだ。

音の共鳴:具体的な対応関係

要素m-floHearts2Hearts
リズム構造2ステップ/UKガラージのシンコペーションハウス〜ガラージ的シンコペーション
ベースライントラックの主役。うねりでグルーヴを支配全楽曲でベースが主役級の存在感
ジャンル融合R&B+ハウス+2ステップ+ドラムンベースR&B+ハウス+ディスコ+テクノ
言語ミックス日本語×英語の自然な交錯韓国語×英語の自然な交錯
音数の美学引き算で空間を作る少ない音数で最大効果(FOCUSが象徴)
コラボ思想m-flo loves…で毎回異質なアーティストと融合楽曲ごとに異なる欧米作家陣と組む
BoA接点直接コラボ・プロデュース実績同じSMというレーベルDNA

2024年のリバイバル:XGという傍証

m-floと現在のアジアのポップシーンの接続を示す分かりやすい例がもう一つある。2024年、グローバルグループのXGがm-floの「prism」を公式にサンプリングした「IYKYK」をリリースした。プロデューサーのJAKOPSが意図的に2ステップのビートとm-floの宇宙的モチーフを引用し、☆Taku Takahashi本人もこれに反応している。

もちろんXGはサンプリングという形でのオマージュだが、「最先端のガールズグループが、今あえてm-floのグルーヴをクールなものとして引用する」という事実は重要だ。H2Hがオリジナル楽曲でその系譜を鳴らしていることと合わせると、2020年代のポップシーンにおいて、かつてm-floが鳴らした「あの感覚」が明確に再評価のフェーズに入っていることが分かる。

第4章:水脈の源泉を辿る——UKガラージから先の話

ファンク・ハウス・UKガラージ ── 音楽の地層

m-floの源泉を辿るために、さらに深く潜る必要がある。

第一の源泉:UKガラージと2ステップ

1990年代のロンドンは、ダンスミュージックの実験場だった。アメリカのガラージハウス(ニューヨーク)がイギリスに渡り、よりシャッフル感が強くシンコペーションを多用したUKガラージが誕生する。そこから4つ打ちの規則的なキックを意図的に排除し、シンコペーションで跳ねるビートに特化させたのが2ステップだ。

2ステップの構造的な特徴は次の通りだ:

  • シンコペーションされたキック:16分音符の裏拍を活用し、不規則なタイミングでキックを配置する
  • 3連符のスウィング感:ジャズのスウィングに近い「揺れ」が全体のグルーヴを支配する
  • シンプルで強力なベースライン:曲のリズムと踊りの魅力を強調する中核として機能する
  • ソウルフルなボーカルとピアノ/キーボードの旋律:ガラージ的な「音楽性」を維持する要素

Artful DodgerMJ ColeCraig David、そしてWookieらがその旗手として、Craig Davidの『Born To Do It』(2000年)は全英1位を記録した。この波が日本に渡り、☆Takuの手で「come again」になった。

第二の源泉:ハウス(シカゴ/ニューヨーク)

UKガラージの直接の親はハウスミュージックだ。1980年代シカゴのWareouseというクラブで、DJ Frankie Knucklesが既存のソウルやファンクのレコードをリミックスしながら生み出した音楽が起源だ。ハウスの核心は「4つ打ちのキック(4-on-the-floor)」で踊り続けさせる構造にあるが、ニューヨークのガラージハウス(Larry Levanらが牽引)ではより楽曲的・歌謡的な要素が強く、このソウルフルな側面がUKガラージに受け継がれた。

H2Hの「FOCUS」のピアノリフは、クラシックなハウスやUKガラージで培われた「ビンテージ感のあるピアノ使い」を想起させる。シカゴハウスからニューヨークガラージ、ロンドンUKガラージ、東京m-floを経てソウルのH2Hに至るまで、大西洋を横断し日本海を渡ってきたグルーヴの系譜が、そのフレーズの鳴り方に薄く重なって聞こえる。

第三の源泉:ディスコとファンク(1970年代)

さらに遡ると、ディスコとファンクにたどり着く。ファンクのコード文法は、7thコード・9thコードの多用とリズミカルなカッティングだ。Nile Rodgers(CHIC)のギターが確立したこのスタイルは、コード全体を鳴らすのではなく断片的に打鍵/弦を弾くことで「音と休符がリズムを作る」という感覚を生む。H2HのApple Pieのギターカッティングはこの系譜の上にある。

ディスコのベースラインの基本はオクターブ奏法だ。ルート音をオクターブ上下で打ち分け、8分音符で躍動感を出す。Bernard Edwards(CHIC)のベースが70年代ディスコの「踊り続ける身体」を作り出したように、H2HのApple Pieのベースも同じ原理で機能している。

水脈の全系譜

年代音楽の動き
1970sファンク/ソウル(Sly Stone, James Brown, CHIC/Nile Rodgers)
1980sディスコ → シカゴ・ハウス(Frankie Knuckles, Larry Heard)
1990s前半ニューヨーク・ガラージハウス → イギリスへ渡る
1990s後半UKガラージ → 2ステップ(Artful Dodger, MJ Cole, Craig David)
1998-2001m-flo、日本に2ステップ/ハウス/R&Bを融合させたポップを持ち込む
2004-2009m-flo × BoA(SMエンターテインメント)コラボ
2025Hearts2Hearts、SMでこの全系譜を継承・現代化

第5章:「作曲が良いのか、編曲が良いのか」への回答

作曲と編曲 ── 引き算の美学

この問いに対する結論は明確だ。決定打は編曲(アレンジ/プロダクション)だが、作曲も高水準であり、その両者が噛み合って初めてあの中毒性が生まれている。

作曲の強み:「聴くほどハマる」設計

H2Hの楽曲の作曲的特徴は、一聴目のインパクトよりも反復聴取で深まる構造にある。「The Chase」で分かりやすいが、初めて聴いたとき「あれ、地味かも」と感じた人でも、3回聴くと頭から離れなくなる。これはオルゲルプンクトの上でグラデーション変化するコード進行という設計によるもので、メロディ単体はシンプルでも、和声の推移が「毎回新しい色を見せる」感覚を与える。

「come again」はAbM7(IV)から始まりGm7→Cm7→Fm7と下降していく進行で、サブドミナント(IV)から始まる「希望に溢れ爽やかな雰囲気」を持つ進行型だ。同一のベース音の上でコードが変化するオンコードの使用も、浮遊感と躍動感を同時に実現する合理的な選択だ。H2HのFOCUSもこれと同じ「反復とグラデーション」の論理で動いている。

編曲の強み:「レトロを現代に仕立て直す」センス

楽曲参照ジャンル特徴的なアレンジ要素
The Chase80年代後期R&B重層コーラスワーク、オルゲルプンクト
STYLEハウス/ソウルR&Bシャッフルスネア、ソウルフルなベース
Apple PieNu Disco/Funkオクターブ奏法ベース、9thコードカッティング
FOCUSDeep Houseビンテージピアノリフ、引き算のミニマル構成
Pretty Pleaseニュージャックスウィング90年代型ニュージャックのリズムパターン
RUDE!USガレージロックパワーコード+シンコペーション、疾走感

結論:「引き算の編曲」×「反復で深まる作曲」

H2Hの楽曲がなぜ良いかを一言で言えば:ベースラインが主役を張り、ピアノリフが場所を作り、コーラスが空気を染め、ボーカルがその上に乗る——この「演者が多いのに全員が脇役になれる」アレンジの精度にある。

それはm-floが「come again」で証明した音楽的命題と同じだ。グルーヴが先にあり、ボーカルはそのグルーヴの上に乗せるもの。K-POPがしばしば陥る「ボーカルのショーケースとしての楽曲」という逆転した発想ではなく、「音楽がまず踊るべきで、人間はその後からついてくる」という順序でH2Hの楽曲は設計されている。

第6章:なぜH2Hの楽曲は130bpmに集中するのか

BPMとテンポ設計 ── 130bpmの理由

「この曲、なんか激しく踊れるのに重くない」——H2Hの楽曲に抱くこの感覚にも、ちゃんと数字の根拠がある。

楽曲ごとのBPM実測値

主要楽曲のテンポを整理すると以下の通りだ。

楽曲BPM(実測)備考
FOCUS130UKガラージ本籍テンポ
The Chase126〜133バージョン差あり
STYLE127ハウス/ソウルR&B帯
Apple Pie110Nu Disco帯
Flutter190(体感95)ハーフテンポ構造
Pretty Please204(体感102)ハーフテンポ構造
Blue Moon95スローR&B帯

データを見ると、FOCUS(130)・STYLE(127)・The Chase(126/133)のタイトル曲3曲は確かに126〜133bpmのゾーンに収まっている。一方でAlbum収録曲はApple Pie(110)・Blue Moon(95)・Butterflies(88)・Flutter(体感95)・Pretty Please(体感102)と幅広く、「130bpm帯に集中」というより「タイトル曲の設計が意図的に130bpm前後を選んでいる」と言う方が正確だ。その選択には、明確な理由がある。

130bpmはUKガラージ/2ステップの「本籍地」

最大の理由は、H2Hの音楽的DNAそのものが130bpm帯を「故郷」とするジャンルから来ているからだ。UKガラージ〜スピードガラージは「BPM125〜130」というハウスにしては早いテンポで成立したジャンルであり、2ステップも「ハイハットやキック連符でBPM130前後をとる」構造が基本形だ。つまりFOCUSの130bpmは、このジャンルの設計として最も自然な数値なのだ。

バイテン構造が「浮遊感」を生む

2ステップの核心はバイテン(倍テンポ/ハーフテンポの二重性)にある。仕組みはこうだ:

  • ボーカルやコードはハーフテンポ(65bpm)の「ゆったり感」で乗る
  • ドラムのハイハットや細かいパーカッションは実テンポ130bpmで疾走する

これにより「身体は激しく踊れるのに、曲は不思議と重くない」という浮遊感が生まれる。FOCUSが「聴くほどに中毒性が増す」のは、このバイテン構造で体感テンポと実テンポが意図的にずれていることも一因だ。

FlutterとPretty Pleaseが「倍」に見える理由

データ上でFlutter(190bpm)とPretty Please(204bpm)が突出して見えるのは、計測ツールがビートグリッドをどのレイヤーで捉えるかの問題だ。体感テンポはそれぞれ95bpm/102bpmであり、H2Hの楽曲群は全体として「実テンポと体感テンポが意図的に乖離している」構造で統一されている。これは2ステップ〜ハウス由来の設計思想の一貫した反映であり、来歴がBPMという数字の中にも正直に刻まれているのだ。

おわりに:「その感覚に、名前はあるか」への回答

グルーヴの記憶 ── 50年の水脈が今ここに

冒頭の問いに戻ろう。

Hearts2Heartsを聴いたときの「これ、知っている気がする」という感覚——その正体は今や明らかだ。それは1970年代のファンク/ディスコ → 1980年代のシカゴハウス → 1990年代のUKガラージ/2ステップ → 2001年のm-flo「come again」 → SMのBoAコラボという50年にわたる音楽の水脈が、2025年にH2Hという形で地表に噴き出したものへの、体の「記憶」だ。

その感覚に名前をつけるとすれば——「グルーヴの記憶」と呼びたい。特定の楽曲や年代への懐かしさではなく、人間の身体がダンスミュージックに反応する「本能」が、H2Hの楽曲の設計と共鳴したときに生まれる感覚だ。

そして今、XGがm-floの「prism」をサンプリングし、H2HがUKガラージ由来のビートで第5世代K-POPのチャートを席巻している。アジアのポップシーンが意識的にこの水脈を掘り起こしている。その流れの中心にH2Hがいる。

「耳に残る」のは当然だ。50年分の音楽の知恵が、その8人の声と踊りに詰まっているのだから。

参考:楽曲別 音楽理論・アレンジ詳細解説

楽曲の「なぜ体が動くのか」「なぜ中毒性があるのか」を、理論の言葉で掘り下げる。

The Chase——「幻想的なオルゲルプンクト」

Play

アレンジ面で最も特徴的なのは、持続低音(オルゲルプンクト/ペダルポイント)の使用だ。同一のベース音を長時間保続させながら、その上のコードやメロディが動いていく——これにより、一定の「重力」を保ちながら和声が変化する浮遊感が生まれる。クラシック音楽ではバッハのオルガン曲、ロックではドゥームメタルで多用される技法だが、H2Hの場合はこれがR&Bの文脈で機能している。コーラスの積み方はマイケル・ジャクソン的な重層バッキングボーカルを想起させ、複数のボーカルラインが独立して動きながら、全体としてひとつの和声塊を形成する構造だ。

この曲のベースラインにも注目したい。持続低音の上でコードが動く構造において、ベースは「動かない」ことで存在感を示す——が、The Chaseのベースは完全に静止しているわけではない。保続音を基調としながらも、フレーズの切れ目でわずかに音程を動かし、次のセクションへの「予告」を挿し込んでくる。このさりげない動きが、聴き手に「何かが変わりそう」という期待感を無意識に植え付ける。ベースが主役を張るFOCUSやApple Pieとは対照的に、The Chaseのベースは「動かないことで物語を動かす」という逆説的な役割を担っている。

STYLE——「4つ打ちとシャッフルの融合」

Play

アレンジの核心はソウルフルなベースラインと軽快なスネアの組み合わせだ。4つ打ちのハウスビートを基盤にしながら、スネアのタイミングをわずかにシャッフル(スウィング)させることで、単純な4つ打ちとは違う「揺れ」が生まれる。EDMが持つキャッチーさとソウルミュージックの体温を両立させた、典型的な「現代R&Bポップ」の編曲アプローチだ。

この曲のもう一つの仕掛けは、コーラスに入るたびにアレンジの「密度」がわずかに変わる点だ。1回目のコーラスではベースとスネアが主導し、2回目ではシンセパッドが薄く加わり、終盤ではボーカルのハーモニーレイヤーが一段増える。変化はどれも微細で、一聴しただけでは気づかない。しかしこの「聴くたびに新しい音が聞こえる」構造が、第2章で触れた「繰り返すほど好きになる」という歌詞のメッセージをアレンジの側から裏づけている。楽曲と歌詞が同じ設計思想で動いている——KENZIEが作詞とサウンドの両方に関与するSMの制作体制が、こうした一体性を可能にしている。

Pretty Please——「ハーフテンポで揺れる告白ソング」

Play

FOCUS期のもう一つの代表曲であり、New Jack Swingスタイルのダンスチューンだ。Saay(Soultriii)らが手掛けた楽曲で、Moogシンセベースとタイトなリズム、204bpm(体感102bpm)のハーフテンポ構造が特徴とされる(SongBPM)。90年代S.E.S.や初期SMガールズグループの系譜を思わせる甘いR&Bと、H2Hならではの現代的なサウンドデザインが交差する一曲だ。

音楽的には、Flutterと同様に「BPMを倍取りする」構造を用いながら、実際の体感はミドルテンポR&Bとして設計されている。キックとスネアはハーフテンポの落ち着いたグリッドを刻みつつ、ハイハットとシンセの装飾が倍テンポで動くことで、ゆったりしたグルーヴと細かいビートの情報量が同居するハイブリッドな感覚が生まれている。オクターブ跳躍を多用するベースラインと、コール&レスポンス的なコーラス配置も含めて、「90年代ニュー・ジャック・スウィング〜00年代SM R&Bのアップデート」として位置づけられる一曲だ。

Apple Pie——「ヌーディスコのコード文法」

Play

ヌーディスコ(Nu Disco)スタイルを徹底的に追求した一曲だ。ヌーディスコの和声的特徴は、7thコードと9thコードの多用にある。Nile Rodgers(CHIC)のスタイルを分析すると、7th・9thコードを断片的に鳴らしながら打楽器的なカッティングをかけることで、コード全体の「豊かさ」とリズムの「鋭さ」を同時に実現している。ベースラインはオクターブ奏法を軸にしたファンクベースで、「アナログドラムとグロッシーなシンセ」が加わることで、70年代のビンテージ感と現代的な音圧が共存するサウンドになっている。

これらの要素が合わさったとき、Apple Pieのトラックには独特の「室内感」が生まれる。ベースとドラムが近い距離で鳴り、ギターカッティングがその隙間を縫うように入ってくる——大きなホールではなく、深夜のリビングルームで鳴っているような音像設計だ。リバーブは控えめに抑えられ、ボーカルもウィスパー寄りのダイナミクスで録られている。第2章で触れた「アップルパイを囲むパジャマパーティー」という歌詞の世界観は、この音像の「近さ」によってトラックの側からも再現されている。ヌーディスコの文法を借りながら、クラブではなくベッドルームに着地させた編曲判断が、この曲をH2Hの楽曲群の中でも異質な温かさを持つ一曲にしている。

FOCUS——「ハウスという名の催眠術」

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ビンテージピアノリフがトラックの核心を担う。ハウスミュージックにおいてピアノ(またはエレピ)のリフは単なるメロディではなく、「リズムを支える和声的パルス」として機能する。FOCUSのピアノリフはRhodesエレクトリックピアノ系のアタックを感じさせる音色設計だ。

ベースラインもこの曲の中毒性を支える主役だ。FOCUSのベースは、ルート音を軸にしながらオクターブ上へ跳躍し、すぐに元の音域へ戻るという「問いかけと応答」のフレーズを繰り返す。ハウスミュージックにおけるベースの役割は「踊らせるための低音」だが、FOCUSではそこに旋律的な動きが加わっている。ピアノリフが和声のパルスを刻み、ベースがその下でうねることで、二つの楽器が対話しながらグルーヴを生み出す構造になっている。音数が少ないからこそ、ベースの一音一音が「次の音を待つ」緊張感を生み、それが「聴くほどに中毒性が増す」感覚の正体でもある。

編曲の「引き算の美学」も際立っており、音数を極限まで減らし、ベースとドラムとピアノリフの三角形で空間を作る。「余白に聴衆は物語を書く」——この編曲哲学が、「何度聴いても飽きない」という中毒性の正体だ。

RUDE!——「弾けるハウスに宿る当意即妙さ」

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H2Hの楽曲の中で最も弾けていて、最も当意即妙な一曲だ。「リズミカルなグルーヴと通通 튀는 신스 사운드」——SM公式リリース情報が明記するように、RUDE!はハウスベースのダンス曲だ。FOCUSが「クール・シックなハウス」だったとすれば、RUDE!は打って変わって色彩感に富んだポップなハウスで、STYLEの弾けるアップテンポ感とFOCUSのピアノリフ感覚を適度にブレンドした仕上がりになっている。アレンジの核はハウスビートとシンコペーションの軽やかな噛み合いにある。4つ打ちのキックドラムの上でシンセが跳ね、メロディとラップの境界を意図的に崩したボーカルラインが乗ることで、「当意即妙さ」が音響的に実装されている。

歌詞面でも楽曲の構造面でも、「規則に縛られない奔放さ」が徹底して設計されている。「You can’t make me act right」という反復フックは、FOCUSの自己宣言をさらにポップな形で引き継いだものだ。そして終盤、ステラのナレーション(spoken-word bridge)が挿入され、楽曲の枠組みに「素の声」が侵入する。この構成は第2章で触れた「第四の壁を破る自己宣言」を音響構造の側から実装したものでもある。評論家からは「STYLEの通通 튀는アップテンポとFOCUSのピアノリフの感覚的な清涼感が適切に配合されたH2Hらしさ」(IZM・신동규)と評価され、The Bias Listのレビューでは「ハウスビートは常に正解だし、このフックは中毒性がある」という声もある。H2Hの他の楽曲がグルーヴの「引き算の精度」で聴かせるのに対し、RUDE!は「弾けるような当意即妙さ」をハウスのフォーマットに乗せて獲得している。

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外部参考リンク

FAQ:よくある質問

Hearts2Heartsの楽曲は誰が作っているのか?

デビュー曲「The Chase」の作詞はKENZIE、作曲は英国のガールズグループFLOが参加。「FOCUS」の作詞もKENZIE、作曲はDavid Wilsonら欧米の作家チーム、編曲はdwillyとMichael Matosic。Apple Pieは作詞Ondine、作曲・編曲Micah Gordon。SMが国際的な制作体制を取っていることが特徴だ。

RUDE!にKENZIEは関与しているか?

KENZIEはRUDE!の楽曲制作に関与していない。楽曲のタイプが他のKENZIE作品と異なる(ガレージロック的)ことはその傍証でもある。

m-floとH2Hに直接的な制作上のつながりはあるか?

直接的な共作実績は確認されていない。ただしm-floとSMはm-flo loves BoA「the Love Bug」(2004年)、VERBALによるBoA「BUMP BUMP!」プロデュース(2009年)というコラボ実績があり、SMのサウンドDNAへのm-floの影響は歴史的に確認されている。

ヌーディスコとフレンチハウスは同じジャンルか?

ほぼ同義で使われることが多い。フレンチハウス(Daft PunkらSt.Germain-des-Présシーンが1990年代後半に確立)が、ディスコのサンプリングにフィルター処理を加えたスタイルを指し、それを「新しいディスコ」という意味でNu Discoとも呼ぶ。Apple PieはこのNu Disco文法を2025年のK-POPに適用した一例だ。